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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十九]六人の深淵少女

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19-6

「……分かったわよ、やってるわ。どうなっても知らないからね!」
 

 「ブラックスター・アンノウン・カダス」は、向かってくる四人に、まずは「影人形」をけしかけてきました。

 フジツボのように生えた「砲」の中から地上に降り立った鎌持つ影は、しかし「オービタル・コメット」の放つ光の射線に撃ち抜かれて次々霧散していきます。

「トウコちゃんって、すごいね!」

 いの一番に「ディスト」の下へたどり着いたのはスミレでした。二本の槍を振るい、その穂先から雷の矢を放ち、「砲」を攻撃していきます。

「スミレ、珍しくちまちまやってるじゃないか」

 アキナさんはそう言いながら、右の拳を灼熱させて振り抜きました。巨大な炎の拳骨が、「砲」を一気に五つもなぎ倒しました。

「ボクも『ジューテンチュー』だからね」

 そう言うスミレの身体には、確かに今まで以上に雷の力が集まっているようでした。バチバチと爆ぜる火花の数が増えています。

「大きい攻撃期待してるよ、スミレ」

 キミちゃんは「パワーローダー」の腕の先を両方とも鎖つきの鉄球に替え、それを振り回して豪快に「砲」を潰していきます。

「何か上二人楽しそうよね……」

 水島はちゃっかりと「パワーローダー」の上に乗って、水から作った剣を飛ばして攻撃しています。他の三人に比べれば「小さい」攻撃ですが、突き刺さった剣は「砲」にダメージを与えているようでした。

 「影人形」が「オービタル・コメット」の前に意味をなさないと気がついたのか、「カダス」は「砲」を四人へ向けてきました。それを感じ取って、わたしは少し緊張します。両手に集めた風がこぼれてしまわないようにぎゅっと握って、相手の攻撃の気配を待ちました。

「! 攻撃くる!」

 四人の方を向いていた「砲」の発射口が闇色に輝き、あの光線が発射されます。避ける間もない間合いですが、わたしの行動は既に終わっていました。

「っっ、危ない!」

 アキナさんが叫ぶのとほぼ同時に、放った風が盾の形をとって、光線の前に立ち塞がり、その威力から四人を守りました。

「よーっし、お返しだぁ!」

 盾の消滅と同時に、スミレはそう宣言すると、激しく火花を散らせて跳び上がります。それをめがけて、黒い光線が二条放たれましたが……。

「これは、掴める!」

 ちょうど発射口の近くにいたキミちゃんが、「パワーローダー」の腕の先をペンチのような形に替え、その光線をはさみ取ります。

「ありがと、キミちゃん!」

 行っくぞー! と雄叫びとともに、紫がかった光を放ちながら、スミレは「カダス」へ突き刺さるように落ちていきました。強烈な落雷が夜空を照らし、雷鳴と同時にあの「ディスト」特有の叫びが響きました。

 スミレが「ジューテン」していた雷の威力は凄まじく、落ちた場所を中心に、表面の「砲」がほとんどなぎ倒されていました。

「どうだ、ワルモノめ!」

 得意げに槍を振り回すスミレに、地上からアキナさんが警告します。

「油断するな、また生えてくるぞ!」

 言葉通り、スミレの足元からグニグニと、「砲」が再び生えてきています。更に、それを守るように「影人形」もわらわらと群がってきています。

「わわ……!」

 大技の直後で力が足りないのでしょう。スミレは雷になって、「影人形」の鎌をかわすと、地上へ逃げました。追ってきた「影人形」をアキナさんが殴り倒します。

 「オービタル・コメット」は数が減ってきていました。それに気付いたのか、「砲」をたくさんやられたからか、「カダス」は「影人形」を使う攻撃に切り替え始めています。

「またぞろぞろと!」
「ぞろぞろ、ってか……とんでもない数じゃん!」

 水島が嘆くのも無理はありませんでした。「影人形」は「カダス」という母艦から降り立つ軍隊といった様相で、その黒い体をひしめきあわせ、何十、何百と群れをなして降りてくるのです。

「さっきの『水人形』を用意してくれ!」

 アキナさんは水島を振り返りました。

「それで対抗しろって!? 無理よ、無理……!」

 水島は近づいてきた「影人形」を斬り捨て、叫び返しました。

「数が多すぎるってば! こんなに用意できないよ!」

 悲壮な口調の水島にキミちゃんが尋ねます。

「じゃあ、それ以外なら?」

 以外って……と不満げな顔を水島は浮かべます。

「ボクがもう一回さっきのを……!」
「お前、結構キツそうだぞ。大丈夫か?」

 アキナさんの言うように、スミレは消耗しているようでした。自分の身体をエネルギー状に変えるタイプの「最終深点」は、疲労が溜まりやすいのかもしれません。

「スミレ、無理しちゃダメよ」
「つっても、あたしはタイマン向きだし、キミヨもこんな大勢を一発で吹っ飛ばすような技は使えないだろ?」

 だったら、とキミちゃんは「影人形」をペンチで挟み潰します。

「やっぱりラン、あんたの出番だわ。たくさんの水を一度に操れるあんたなら、こいつらを一気に倒せるかもしれない」

 キミちゃんの背後から「影人形」が斬りかかり、それを残っていた「オービタル・ビット」が撃ち抜きました。

「水をたくさん……?」

 あ、と何かに気付いたような声を漏らしたのが、風を通じてわかりました。

「あるんだな、方法が」

 アキナさんは「影人形」を殴りながら問い詰めます。

「一個、思いついたけど……それ、みんな巻き込んじゃうかも………」

 水島は天を仰ぎました。殊勝なことを考えているのか、言い訳を探しているのか。どちらの考えであったとしても、わたしは握り潰すことにしました。

《水島さん、心配しないで》
「ミリカ……?」

 わたしは風に乗せた言葉を続けます。

《巻き込んでも、大丈夫。わたしがみんなを守るから》
「そんなこと言ったって……」

「やれよ、ラン」

 アキナさんの言葉はほとんど命令でした。

「お前しかいない、お前だけができることだ」

 水島は不満げにするのかと思えば、意外や目を見開いて唇を噛みました。何か、感じるところがあったのでしょうか。

「……分かったわよ、やってるわ。どうなっても知らないからね!」

 知らないではすまないのですが、水島は剣を振りかざし、力を溜め始めました。あたりの水分が、どんどん剣の先へ集まり、そこから天へ上っていきます。

「ミリカ、あと六〇秒」

 トウコさんの声が聞こえたかと思うと、最後の「オービタル・ビット」が戻っていくのが見えました。

 アキナさんたち三人は、水島を守るように三方を囲んで「影人形」の攻撃を防いでいます。キミちゃんの「重くする」で動きを鈍らせ、アキナさんの炎とスミレの雷が迫る「影人形」らを焼いていきますが、無尽蔵にも思える軍勢を相手にするには、いささか手が足りません。わたしもすぐさま盾を送り込み、「影人形」の群れの行く手を阻みました。

 攻撃を防がれ、隙を見せた「影人形」をアキナさんが焼き尽くします。ともかくわたしは、足止めすることに気を配りました。

 あまり臨機応変な対応はできませんが、それには理由があって、どうやら水島のやろうとしようとしている攻撃は、わたしの盾と相性が悪い類のもののようなのです。みんなを守るためには、そちらにも気を配らなければなりません。

 虐げる側とされる側として関係がはじまったわたしと水島は、ここへ来てもつくづく噛み合わないのです。何せ、武器を見れば分かる通り、盾と剣で真反対ですから。

「できてる……これなら………!」

 水島の言葉通り、上空で集められた水分は、夜空を覆う巨大な雲に変わっていました。天の光を分厚く覆い隠す、不穏な色をしていました。

《みんな、少し後ろに下がって、集まって》

 攻撃の気配を感じたわたしが風に呼びかけると、アキナさんが「よし」とうなずいて、スミレとキミちゃんをつかんで、ショートワープを使って下がりました。それと入れ替わるように、水島が軍勢の前に出ます。

「こんな群れた連中に、負けてられるか!」

 水島が両手で剣を掲げると、切っ先から青い光が立ち上り、空の雲を衝きました。

「降って、刻め!」

 刃を返し水島が剣を振り抜くと、黒い雲から雨が降り出しました。ただの雨ではありません。その雨粒一つ一つが剣でした。何千、何万もの剣の雨が「影人形」の群れと「カダス」の上に降り注いだのです。

 今までで最も大きな声を、「ブラックスター・アンノウン・カダス」は上げました。ブレた輪郭線が縦に大きく歪み、存在そのものが揺らいでいるようでした。

 わたしはというと、容赦なくこちらにも降り注いできた剣一つ一つを、一枚ずつ盾で受け止めるのに大忙しでした。みんなを集めておいて本当によかった。みんなの位置がバラバラだったら、さすがに守りきれなかったでしょう。

 やがて雨は止み、広場から「影人形」の姿はなく、ただ大きな水たまりが広がるばかりでした。

「どうよ……!」

 肩で息をしながら水島はにやりとし、ふらりと後ろに倒れ込みそうになりました。そこをアキナさんが支えます。

「よくやってくれた、これなら……」

 アキナさんはわたしと、そして上空にいるトウコさんを振り仰ぎました。

 わたしの耳には、風を通じて「時間だ」と呟くトウコさんの声が聞こえていました。

 「オービタル・コメット」が十六基すべて、八枚の機械の翼を広げたトウコさんの周りを円形に取り巻いています。トウコさんの手元の二丁拳銃も合わせて、十八の銃口が「カダス」へ向いていました。

 それらに光が集まっていきます。スミレや水島が集めたのよりも、もっと大きな力がトウコさんの中に渦巻いているのが分かります。

「深淵へと還れ――『レゾリュート・パール・グレア』!」

 トウコさんの右目が金に輝き、すべての銃口が光を放ちました。夜の闇をも飲み込むような、真っ白い光が辺りを満たし、弾けました。途方もないエネルギーを宿した光の奔流は、最早一つの星の光のように見えたのでした。
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