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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十九]六人の深淵少女

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19-5

「倒しきる。この六人で」
 

 何もかもが、みんな懐かしく見えました。鱶ヶ渕の広場も駅舎も、すべてがわたしに笑いかけてくれているかのような、そんな錯覚をしてしまうほどでした。

 きっと、長い長い旅路の末に家に帰り着いたなら、こんな気持ちになるのでしょう。

「ミリカ、無事だったのか……!」

 声をかけられて、わたしは振り向きました。

 アキナさんも、キミちゃんも。スミレも、水島さえも、今のわたしには好ましく思えるのでした。

「今の盾、ミリカがやったの?」

 うなずくと、「助かったよ、ありがとう」とキミちゃんは言ってくれました。

「ミリちゃん、琥珀を渡さなくても、やっぱりそんな姿になれたんだね」

 いらないかなって思った通りだったよ、と何故かスミレは得意気でした。

「なあ、一緒に来たあいつって、まさか……」

 アキナさんがそう言った時、その「あいつ」がこちらへ近づいてきました。

「はい、トウコさんです。成田トウコさん……」

 トウコさんは、ついと顎を上げました。

「久しぶりね、漆間アキナ。あなたの認識では、わたしは化けて出てきた、というところでしょう」
「……まあな」

 アキナさんは、どこか苦いみたいな返事をしました。この人が、とキミちゃんはトウコさんをまじまじと見つめ、事情を知らないスミレと水島は、怪訝な様子です。

「お前は、あたしが……」

「ええ、この時空のわたしは死んだ。けれど、今ここにいるわたしは、ミリカのように、別の時空からやって来た存在」

「べ、別の時空って……」

 意味わかんない、と言い出しそうな顔で、水島は目をしばたたかせます。

「話せば長くなるが……」

 その時、トゲトゲのボールのような姿の「ブラックスター・アンノウン・カダス」が、まるで口を開くように横に割れて、軋んだような「ディスト」特有の叫びを上げました。

「その暇はないらしい」

 トウコさんは「ディスト」の方を振り向きました。

 その重たく分厚く積もった「インガクズ」も、既に産まれたてのころから比べれば、半分ほどでしょうか。それでも脅威であることに変わりはありませんが……。

「倒しきる。この六人で」

 トウコさんはわたしを含めた五人の顔を見渡しました。

「アキナ、篠原スミレ(ボウヤ)、浅木、水島。四人で『ブラックスター・アンノウン・カダス』に一斉に攻撃なさい」
「ちょ、いきなり何仕切って……」
「そんなこと別にいいでしょ」

 口を挟もうとする水島を、キミちゃんは制しました。そしてアキナさんの方に目配せします。一つ息をついて、アキナさんはトウコさんに尋ねました。

「攻撃はいいけどさ、お前はどうする気だ?」
「わたしは最大の技の準備をする。充填の時間がかなりかかる上に、『カダス』の残り体力も多く、まだ手に余る。攻撃を仕掛け、削り取ってほしい」

 もちろん、とトウコさんの背の機械の羽のようなパネルから、持ち手のない拳銃のようなものが一つ離れて浮き上がりました。

「この自動攻撃端末、『オービタル・コメット』で、できる限りの援護はする」

 ただし、その援護は充填が進めば進むほど乏しくなる、とトウコさんは付け加えました。

「わたしの最大の技は十二基の『オービタル・コメット』と『エクリプス』による一斉射撃。『オービタル・コメット』の充填に移れば、援護はできなくなる」

 とは言え、とトウコさんはわたしに目を向けました。

「防御に関して心配は……」
「あの、わたしが守りますから」

 トウコさんの言葉を遮るような形になってしまいましたが、別段気を悪くしたようには見えません。いつもの無表情ではありましたが、むしろ嬉しそうに見えました。

「さっきの、盾か?」

 わたしはアキナさんにうなずきました。

「アレすごかったよねー」

 スミレは気楽に笑って、槍を振り回しました。

「じゃあ、防御はお願いね、ミリちゃん。ボク防ぐとか苦手だし」
「そうだな、頼んだぞ。攻める方はあたしらに任せとけ」

 アキナさんはわたしの肩を叩きました。

「頼りにしてるね、ミリカ」

 キミちゃんは「パワーローダー」の中から手を伸ばして、わたしの頭を撫でてくれました。

「ホントに大丈夫なんでしょうね?」

 他の三人が「カダス」に向き直る中、水島はわたしとトウコさんを胡乱げな目つきで見てきます。

「大丈夫。今なら、みんなを、この街を守れるから」

 わたしの言葉は、きっと水島には意味の分からないことだったでしょう。現に、納得したようには見えませんでしたから。それでも水島は「そう……」とちょっと不安そうに言って、わたしに背を向けました。

「なら……任せたよ」

 よし行くぞ、とアキナさんが声をかけて、四人は一斉に「カダス」へ向かっていきました。

「充填は約三〇〇秒かかる」

 トウコさんはふわりと浮き上がって言いました。

「『オービタル・コメット』は最初の一二〇秒は十二基すべてが援護に向かうが、それ以後は十秒ごとに一基ずつ減っていく。そして最後の六〇秒はミリカ、あなただけであの四人を守ることになる」
「……分かりました」

 そう応じながら、あまり理解していませんでした。ともかく、みんなを守るということは、この街を滅ぼすよりも、よほど気が楽だということだけは、分かっていました。

「幸運を」

 言い残してトウコさんは更に上空へ浮かび上がって行きました。その背の機械の翼――「リフレクト・シェル」から、十二基の「オービタル・コメット」がアキナさんたちを援護しようと飛んで行きました。

 さて、ここからが大変です。でも、楽しい大変さです。

 わたしは感知能力を集中させました。風が通り抜けるこの空間は、あまねくわたしの手の中でした。誰がどこにいて、どんな攻撃をしているのか、どんな攻撃を受けそうなのか、すべてが分かるのですから。
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