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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十九]六人の深淵少女

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19-4

「ちょっとは効いてるよ!」
 

 鱶ヶ渕駅から一駅離れた「大鱶之浜」駅前の立体駐車場。この場所からでも、あの黒い球体――「ブラックスター・アンノウン・カダス」の姿は視認できた。

 鱶ヶ渕周辺の住民たちは、「エクサラント」の行った「インガの改変」によって「ガスが漏れて危険」という情報を信じて、家に引きこもっている。そのため、辺りに人陰はない。

 ただ一人、「カオスブリンガー」のラピスラズリを除いて。

 ここが、「狩り」の後の集合場所であった。彼女はジッと鱶ヶ渕駅を見つめていた。

 全世界の「ディストキーパー」の中でも相当なベテランであるラピスラズリは、その卓越した感知能力によって「狩り」の状況を把握していた。

 ペリドットは死んだらしい。悲しいことだが、本懐を遂げるには実力が不足していたのだから仕方ない。

 インカローズは戦意喪失。冷静そうに見えて、直情的な彼女のことだ、感情に任せて実力が発揮できなかったのも要因だろうが、こちらはあのトパーズを誉めるべきだろう。

 そしてタイガーアイは……と、そこで背後に知った気配を二つ感じた。

「いやー、ヤバかったにー」

 欠片も危機を感じさせない口調で現れたのは、タイガーアイであった。

「おや、タイガーアイさん。インカローズさんも」
「おっす、おっす。ラピッさんは流石に『狩り』成功かー」
「否、例によってわざと見逃している」

 自らの感知能力で知っていたのだろう。インカローズはタイガーアイに背負われたままそう言った。

「だって、あの方思った以上の力をお持ちだったんですもの」

 ところで、とラピスラズリはまじまじと二人の様子を見る。

「すごい格好ですわね」
「言われてんぞ、ロズ子」
「君だ」

 インカローズの言うように、タイガーアイはほとんど裸であった。胸と股間だけは種から作ったのだろうツルを巻いて隠してあるが。

「しょうがないじゃん、あたし『実りたて』なんだから」

 スミレの最後の雷撃、その前に飛ばしたのは、あの「ルビー・アエーシェマ」からも逃れた、「リスポーンの種」であった。あの時は結実まで一週間かかったが、能力が成長した今は、再生も早まっている。程なくしてなった実から出てきた、というわけだった。

「服の再生が間に合わないのが難点だけどね」

 よっ、とタイガーアイはインカローズを背から下ろした。

「動作は依然不十分……」

 まだ重さが残っているらしく、言葉通り這うようにして、インカローズは立体駐車場の縁に近付くと、この距離からでもその威容が伝わる「カダス」から目を離さずに、ラピスラズリに尋ねる。

「戦況は……?」
「若干の苦戦、と言ったところでしょうか」

「それは、どちらの視点から見て?」
「あら? インカローズさんは、どちらに勝ってほしいので?」

「複雑。しかし、現在はここの『ディストキーパー』に肩入れしたい感情が否めない」
「意外と素直に答えましたわね」

 ころころと笑って、ラピスラズリは続ける。

「どちらにしても、若干の苦戦ですわ。ほとんど互角と言っていいでしょう。ブラックスターさんの仔の割に、『無明の暗黒』が使えないようなので」
「ならば、あれだけの戦力があれば勝利可能と分析できる」
「まるで『最終深点』のバーゲンセールだな、って感じだもんに」

 タイガーアイは有名なバトル漫画のセリフを真似た。

「現状は彼女らに委任しよう。この街は自分達が守るという旨の発言を聞いている」

 インカローズの提案に、ラピスラズリもタイガーアイも、異論はないようだった。

「あたしら負けたしね。今は引き下がっとくか」
「ただ、鱶ヶ渕のみなさまにしてみれば、一つ懸念が」

 人差し指を立てるラピスラズリに、インカローズはうなずいた。

「息切れ、か。この戦闘は長期に渡ると想定される」
「ブラッさんが溜め込んだ『インガクズ』、相当な量っしょ? それを削りきるのは、生半可なもんじゃにゃい」

 ご明察、とラピスラズリはうなずいた。

「もう一人、円熟した使い手がいれば、話は違うでしょうが……」

 まあ敗れるのならば、そのような「インガ」ということで。ラピスラズリは妖しく笑った。



 「ブラックスター・アンノウン・カダス」は、低く唸りながら自らを輪のように取り巻く立方体を撃ち出してくる。

「邪ッッ!」

 アキナはそれを打ち落とすと、黒い球体の表面に着地した。

 ちょっとした運動場くらいの広さがあるな。アキナはそんな感想を抱きながら、足元を殴り付ける。

 感触は、固いゴムを殴っているかのようだった。これは通じてないな。一発でそう判断したアキナに、空から声が降ってくる。

「アキちゃん、後ろ!」

 分かってるよ、スミレ。襲い来る黒い触手へ、振り向き様に回し蹴りを放った。

 球体の表面から生えてきた、成人男性ほどの太さの触手は、一撃で燃え落ちた。だが、本体にダメージはないらしい。震えもしない。

「いっぱい来てるよ!」

 それも知ってる、見りゃ分かる。アキナを取り囲むように無数の触手が生え、そのミミズめいた先端をこちらへ向けてくる。

「ちっ!」

 アキナはショートワープを使い、触手の襲撃をかわす。一斉に動き、寄り集まったそれらへ、スミレが雷を降らす。

「どうだ!」
「ダメだな、本体はピクリともしてない」

 真横にワープしてきたアキナに、スミレは「えー?」と不満げな顔をする。

「ちょっとは効いてるよ!」
「ちょっとは、な」

 それだって分かってる、とアキナは肩をすくめる。

「だけど、そのちょっとじゃ、どんだけかかるか……!」

 話している隙を見てか、「カダス」の表面が盛り上がり、フジツボのような形になって、アキナたちの方を向く。

 あれは……。フジツボの天辺には穴が開いている。どこか火山の火口や大砲の砲門が連想された。

 撃ってくる! 避けろ、とスミレに声をかけ、アキナは自身も身をかわす。

 直後、フジツボのような「砲」から、黒いエネルギーの帯が発せられ、アキナたちの居たところを貫いた。

 今のはまずいな。どこかに命中した訳ではないが、見ただけでとてつもない威力だと分かる。「レディアント・ルビー・ノヴァ」とほぼ同等の威力か、とアキナは見当をつける。

 「カダス」は攻勢の手を緩めない。次は黒い触手を伸ばしてくる。

「またかよ!」
「くっらえー!」

 アキナは火球を放ち、スミレは放電して触手を打ち落とす。

「めんどくさいなー、もう!」
「じり貧だな、こいつは……」

 アキナの顔に焦りの色がさした。


 持久戦となっているのは、地上の二人も同じだった。

「キリないよ、これ!」

 襲いかかってくる無数の「影人形」を、ランが水から作った言うなれば「水人形」で迎え撃つ。ラピスラズリとの戦いで用いた自身の分身とは違い、剣を携えた透明な球体関節人形のような姿のそれらは、「影人形」とほぼ互角の力を持っている。

「泣きごと言わないの!」

 そこで差となるのが、キミヨの存在である。

「『重くなれ』!」

 「最終深点」に達したキミヨの「重く」する力は、駅前広場全域に群がる「影人形」をすべてカバーしている。動きが鈍くなったところに、ランの「水人形」が斬りかかる。この戦法を繰り返しているのだが……。

「これで何体倒したの!?」

 パワーローダーの上に乗り、オーケストラの指揮者のごとく「水人形」を操作するランは、ほとんど怒鳴るような口調でキミヨに尋ねた。

「数えてないよ、そんなの」
「じゃあ、何体倒したら終わりなワケ!?」

 それこそ知るはずもない。

「ラン、あんた感知あるんでしょ? あの黒いのの体力とか、それで分かんないの?」

 む、と唸って、ランは「カダス」の方を見据える。

「だってさ、あんなん怖すぎるじゃん……。意識から外しとかないと……」

 ぶつくさ言いながら「インガクズ」量を推し測る。

「……半分くらい、かな?」
「お、やれそうじゃん」
「え? あと半分もあんのよ?」
「もう半分じゃない」

 キャノピーをのぞきこんでくる逆さまの顔に、キミヨは言い返した。

「『もう』でも『あと』でも、量は変わんないって……」

 ぶつくさ言っているが、そんなことより今は……。キミヨは「カダス」を見上げる。半分まで追い込まれて、アレが何をして来るか。さっきアキナとスミレを襲った黒い光線、地上からでもその威力、恐ろしさは見てとれた。ああいう攻撃をまたしてこないとも限らない。

「!! 何か、来る!」

 ランの曖昧だが切迫した叫びとほとんど同時に、「カダス」の外観が変化し始めた。球体の表面に、フジツボのような膨らみが、いくつも盛り上がっている。

「キミヨ、ヤバいぞ!」

 空中のアキナからも警告が飛ぶ。

「その膨らみ、さっきの黒い光線を撃つ発射口だ!」
「いっぱい生えてきてるよ! これ全部から、さっきのが出たら……」

 さっきの光線は一発で、空中に放たれたので被害はなかった。だが「砲」は今や四方八方、いや、それどころでなく、あらゆる方向を向いているのだ。

「撃たれたら、街ごと全滅よね、これ……」
「何とか、守らないと!」

 ランがこぼしたのと同じ感情を抱いたが、キミヨはそれを振り切る言葉を口にし、レバーを握った。

「できんの、そんなの?」
「ラン、水で壁を作って。それで『ディスト』を囲んで威力を……」
「あたし!? いや、簡単に言うけどそんなの……!」

 言葉を途中で切って、ランは「カダス」を見上げる。

「もう撃ってくんじゃん!」

 ランの言葉通り、林立するすべての「砲」の発射口に黒い粒子が収束していく。

「壁は!?」
「間に合うわけないし!」

 死にたくないのだろう、ランはそう言いながらも水を集めている。さて、受け止められるかな? キミヨはパワーローダーのアームの先端を鉄球からペンチ状のそれに切り替える。

「待て! お前ら、今は一旦逃げる!」

 アキナがスミレの手を引き、空から降りてくる。

「これは防げない! あたしにつかまれ! ワープしてかわして……」
「来るって!」

 悲壮なランの叫びが響いた。「カダス」は「砲」の先端を夜空より暗い闇が瞬いた。

 間に合わない、闇に飲まれる。そう思った瞬間、四人の頬を風が撫でた。

 風と共に「砲」の前に現れたそれは、直径五メートルほどの丸い盾だった。無数の「砲」の正面に一つずつ立ちふさがると、闇の光線を吸いとるように回転し、打ち消していく。

「あの盾は……!」

 アキナがうめく。丸い盾の形に、四人は見覚えがあった。

 光線が収まると同時に、盾は役割を終えたように霧散し消えた。

「よく防いだ」

 声と同時に、二つの陰が四人の前に降りてくる。

 一人は巨大な機械の翼を持つ白い髪の「ディストキーパー」、成田トウコ。

 そして、もう一人は……。

「みなさん、その……遅くなりました……」

 緑色のマントと、ティアラのはまった三角帽子、体の両側に車輪のように浮かぶ一対二枚の丸い盾――「最終深点」へと達した、葉山ミリカであった。
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