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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十六]怪物の遭遇

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16-1

「ここにいることを誰かに詫びなきゃならないのかよ?」
 

 ゲームセンターの入り口では、激しい音楽が鳴り響いていました。周りには人だかりができていて、その中心、屋外に置かれたダンスゲームの機械からそれは流れているのでした。

 プレイヤーはタイガーアイ。三つ編みを揺らし、複雑なステップを踏んでいます。

「うまいもんだろ」

 わたしの隣に立つブラックスターがそう言いました。わたしとブラックスターは、踊っているタイガーアイを取り巻く人垣の、更に外側からそれを見ていました。

「地元だからはりきってんのかね、今日は特に調子がいいらしい」

 ダンスのこともゲームのこともよく分かりませんが、そんなわたしから見ても、凄みのようなものを感じます。

 やがて音楽が止まり、一瞬の沈黙の後、人だかりから大歓声が上がりました。わたしのいる位置からはよく見えませんが、すごい点が出たようです。

「やあ、どうもどうも」

 そう周りに応じながら、タイガーアイはゲーム機から降り、こちらに戻ってきました。

「よかったな、タイガー」

 軽く拍手して、ブラックスターが出迎えました。

「思ったよりかはいいスコアが出たね」

 まだまだ、と言うかのように、タイガーアイは肩をすくめました。

「で、次はどうする?」

 にこっと笑った顔は、何だかまぶしくて、わたしは目を伏せました。

 昼間、あんなことをしていた人たちなのに何だか普通で、それが恐ろしくもありました。


 わたしがブラックスターとぶつかってしまった時、今にも襲いかかってきそうな笑い方をしていましたが、すぐに戦うつもりはなかったようでした。

「まだ『狩り』の時間じゃねえからな」

 そうビビんなって、と浮かべた今度の笑いは、安心させるかのような暖かい色合いでした。

「ブラッさんが脅してんじゃん」

 隣でタイガーアイもへらへらと笑います。

「オレ、普段からそんな怖いか?」
「まーたまた。獲物からしたらたまんないっしょ」

 そりゃそうだわな、と、わざととぼけたようでした。

「で、こんなとこでお前は……」

 言いかけて、ブラックスターはタイガーアイに振り返ります。

「こいつの名前、何?」
「若草エリイ。通称エリりん」

 自信満々に、聞き覚えのない別人の名前をタイガーアイは口走ります。

「ホントか、お前?」
「ウソ。それはあたしがここにいた頃の『エメラルド』の名前」

 先代、ということでしょうか。「ディストキーパー」のシステム上、いるのは当たり前なのですが、改めて言われると、恐ろしいような気分になります。

「お前、ホントにゲーム以外は適当に生きてんな」
「んな褒めないでよ」

 やれやれ、と首を振ってブラックスターは改めてわたしに向き直りました。

「お前、何でこんなところにいるんだ?」
「見たとこ、こういうところをうろつくタイプでもなさそうだにー」

 妙におめかししてるし。わたしは視線をそらしてうつむきました。

 何でこんなところに、と言われれば、それはブラックスターと戦うために他なりません。だけど、それはわたしの意志ではなく、ディアの準備した「試験」です。

「何だよ、黙りこくってんじゃねえぞ」

 ブラックスターの声音が、昼間聞いたものに戻ったようでした。よくない雲行きです。

「どうしたよ、何しにここにいるんだよ?」

 この空模様となると、わたしには差す傘はぼろぼろの一本しか持ち合わせがないのでした。

「ご、ごめんなさい……」

 あ? 人の不機嫌な、怒った顔ばかり思い描くのが得意なわたしです。ブラックスターが不機嫌に眉をしかめたのが想像できました。

 相手も相手なので、何か痛いことをされるのではないかと身構えましたが、そんなものは降ってきませんでした。

「何だ、そりゃ」

 苦いものでしたが、笑いの混じった声でした。

「ここにいることを誰かに詫びなきゃならないのかよ?」

 それはブラックスターにとっては、何気なく口にしただけの言葉だったでしょう。

 しかし、わたしには殴られるよりも強い衝撃でした。

 口ぐせのように繰り返してきた誤魔化しに、そんなことを言われるなんて。

「まあ何だっていい」

 顔を上げたわたしの腕を、ブラックスターは取りました。

「ちょっと付き合えよ」

 強い力でした。あの独特の威圧感が、それこそ手を伸ばして触れてきて、お腹の底が冷える気分で――そして、少しだけもにょもにょなのでした。


「タイガー、時間大丈夫か?」

 ダンスゲームを終え戻ってきたところに、ブラックスターは尋ねました。

「ペリドットと獲物取り合ってんだろ?」

 タイガーアイはちらりとわたしに目をやりました。

「ま、あたしも急ぐ気持ちはあるんだけどにー」

 ブラッさんは? 尋ね返されて、ブラックスターは「そうだな」と、またわたしの腕を取りました。

「こいつといるわ」

 ふぇ、と思わず口に出してしまいそうでした。タイガーアイが口の中で「やっぱかい」とつぶやいたのが分かりました。

「ブラッさん、ロズ子がその子を『獲物にする』って言ってたっしょ。怒るんじゃない? 心配してたみたいだしさ」

 タイガーアイは何やら不穏なことを言い出します。「ロズ子」というのが誰かは分かりませんが、「獲物にする」という言葉には背筋が冷える思いです。

「あいつは心配性だからな」

 ヘッ、とブラックスターは肩をすくめて、意に介した風でもありませんでした。

「大体、オレの何を心配するっていうんだよ?」
「そういう浮気性なとことか?」

 ダメ亭主、とタイガーアイに言われ、「うるせえ」とブラックスターは笑います。

「ほれ、デート代」

 タイガーアイはポケットからネコの顔の形をした小銭入れを取り出し、ブラックスターに投げ渡しました。

「お、悪いな」

 デートって……。ブラックスターの顔を恐る恐る見上げると、どこか楽しげな様子でした。

 んじゃ、ごゆっくり。そう言い残して、タイガーアイは駅の方へ去っていきました。
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