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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十四]迫る死の足音

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14-2

『了解した。「エクサラント」の名において「狩り」を許可しよう』
 

 開かれそうになった戦端は、その間に漂うように現れた毛玉に阻まれました。

「『狩り』を預かる……? 説明を要求する」

 マントの子――多分インカローズと呼ばれていた子が、パサラに問いかけます。

『彼女らは「狩り」が何なのか知らされていない。この状態では、死んでも死にきれないだろう』

 はんっ、とブラックスターが鼻を鳴らしました。

「何だそりゃ。そんなもん、どうだっていい話だろ。世の中、納得して死ぬ奴の方が少ないんだから」
「ブラスの言う通り。無用かつ不当な介入だと抗議する」
「つーかパサパサ、あんたいつの間にそんなに手厚くなったんだい? あたしらの頃だったら、『大人しく死んでおきなよ』ぐらい言ってもおかしくなかったはずだにー」

 タイガーアイの指摘――このことで、この人が元鱶ヶ渕の『ディストキーパー』だと確信が持てました――に『いやそんなことはないけど』とパサラは弁解します。

「天使様、他の地域では、そのような介入はなかったと記憶しておりますが」

 ラピスラズリというらしい銃を持った長身の子が、妙な呼び方でパサラに問いかけると、「そうだよ!」と大きな靴のペリドットもうなずきます。

「それとも何か特別な地域なのここ? 『アンバー』の人はやたらと強いし、あの白いのもちょい変だったし」

 ブラックスターは大きく息をつき、パサラをにらみました。

「何か企んでやがるな、お前ら」
『……否定はしない』

 少しの沈黙の後、パサラは認めました。

『だけど、こちらが何を企もうが、君は知ったことじゃないと、そういう態度をとるはずだ。そういう君たちだから、我々は勝手を認めているんだ。そのことを忘れたとでも?』
「忘れてんのはお前らの方だ。そいつはオレらのやることに、いらん口出しをしない時に限るって話だったろうが」

 ブラックスターはパサラに鎌の刃を向けました。

『別に「狩り」そのものを止めろと言いたいわけじゃない』

 え、と背後で水島が声を漏らしました。そう言いたくなる気持ちはよく分かります。

『説明する時間くらい待ってはくれないか、と言ってるんだ』

 ブラックスターはあからさまに舌打ちすると、こちらに背を向けました。

「お前ら、出直すぞ」
「えー、なんで!?」

 いの一番にペリドットが不満げな声を上げます。

「いらねえ乱入で萎えちまった」
「確かにねー。気ぃ乗らない感じだわ」

 タイガーアイも、うなずいてハンドカノンを下げます。

「冷や水を浴びせられた、というところでしょうか」
「ブラスがやめろというならば、停戦する」

 ラピスラズリもインカローズも引くつもりのようでした。内心ホッとしつつも、パサラがもっと早く来てくれてたらな、と思わなくもありませんでした。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 ペリドットが反論します。この人はまだやる気満々のようでした。

「せっかくあいつを、漆間アキナを殺せるっていうのに、出直すってそんなの……!」
「一旦出直し、だ。今日中に『狩り』はやる。毛玉、それでいいな」
『かまわないよ』

 不穏なやり取りが聞こえました。ここで見逃されても、結局殺し合いは始まってしまうのです。

「出直しなんて、待ってらんないよ! あたしは気なんて萎えてないし!」

 また、強い風が集まり始めました。ペリドットの髪が浮き上がり、きつい視線がこちらを、アキナさんを見据えています。

「待て、ペリ」

 ブラックスターが声をかけますが、風は止みません。

「あたしが『ディストキーパー』になったのは、こいつをぶち倒すためなんだから……!」

 ペリドットは構えを取りました。アキナさんの空手の構えに似ているようでした。

「やめろ」
「何だか分からんが……降りかかる火の粉は払うまでだ」

 アキナさんも臨戦態勢に入りました。

「さあ来いよ漆間アキナ! 今こそ殺して――!」
「やめろ、ってオレは言ってんだ」

 こちらまでゾクッとするような、恐ろしい口調でした。決して怒鳴ったりしたわけではないのですが、お腹の底に氷を入れられたような、そんな気すらする調子でした。アキナさんもひるんで、拳を下しました。

 それを直接向けられたペリドットは、たまったものではなかったでしょう。すぐに風を止ませ、ぎこちなく構えを解きました。

「ご、ごめんブラス……あたし……」
「分かりゃいい」

 肩をすくめて「おい毛玉!」と呼ばわりました

「今夜九時だ。不意討ちの分、猶予をやるぜ。そっから『狩り』を始める」
『了解した。「エクサラント」の名において「狩り」を許可しよう』

 パサラは体を上下に揺すりました。

 その時、パサラの体を中心に、ちりちりしたさわり心地の見えない波が広がったように感じました。恐らく「インガの改変」でしょう。何をしたのかまでは分かりませんが。

 ブラックスターも、「インガの改変」の気配を感じたのでしょう。ニヤリと笑って空を見回しました。

「よし、行くぞお前ら」
「じゃあにー、アッキー。それから雷のお嬢ちゃんも」

 タイガーアイは楽しげに手を振り、ちらりとスミレを見ました。

「与えられた猶予に、身を焦がすがいい」

 淡々とインカローズは言い捨てます。

「時が来れば、せめて苦しまぬよう、地獄へ送って差し上げますわ」

 ラピスラズリは穏やかな口調に物騒な内容を乗せました。

「漆間アキナ、まだ命は預けておくよ」

 はっきりとアキナさんを指差して、ペリドットはそう宣言します。

「つーわけだ。今夜の九時で、お前らは全員死ぬ」

 それこそ人を殺せるくらいの、鋭い眼光でした。キミちゃんはスミレを抱き寄せ、水島がへたりこんだのが横目に見えました。アキナさんだけが、それをにらみ返します。

「やらせはしない、そんなこと……!」

 ブラックスターは、それを鼻で笑いました。

「ま、精々あがけや」

 去っていく五人を、わたし達は暗い気持ちで見送ることしかできませんでした。

 今夜九時に全員死ぬ。普段ならば現実感が乏しいはずのその宣告は、鋭い刃のようにわたし達の鼻先に冷たく突きつけられていたのです。


『そもそも、「ディストキーパー」には、地域に根差した定住型と、地域に縛られず各地を旅して回る「ノマド型」の二種類がいるんだが』

 公園に残されたわたし達は、一旦変身を解いてパサラの説明を聞くことになりました。

 パサラはオリエ先輩とディアの死体を回収した後、そんな話から始めました。

『「ノマド」は最初から「ノマド」として「ディストキーパー」になるわけじゃはない』

 地域を守る定住型が通常の形で、「ノマド」はあくまでイレギュラーなあり方なのだそうです。

『定住型から「ノマド」になってしまう理由は様々だ。居住地域自体が「インガの改変」で消滅したり、仲間殺しやいじめなどで属している地域にいられなくなったりね』

 地域が消滅、と聞いてわたしはぎくりとしました。もしあの戦いで誰か生き残っていたら、その子は「ノマド」になっていたのでしょうか。

 ともかく、「ノマド」はそういったはぐれ者が集まって自然に発生した集団だそうで、パサラ達「エクサラント」は、「ノマド」を都合のいい予備戦力のように考えているようです。

「その説明は分かったけど、それが『狩り』とかいってあたしらに襲いかかってくるのは、どういう理屈なんだよ?」

 パサラの話は遠回りで、アキナさんは後ろ頭をかきました。

「さっき、『狩り』に許可を出すとか言ってたよね? そういうシステムがあるってことは、まるで『狩り』をするのを大っぴらに認めて、勧めてるみたいに見えるんだけど」
「それな! どういうつもりよ、あんた!」

 キミちゃんが投げ掛けた疑問に、すかさず水島が乗っかります。

『そうだね。奨励しているという認識で、間違いはない』

 平時と変わらず、淡々とパサラはそんなことを言いました。

「ショーレー、ってどういう意味?」

 うつむいたままスミレがつぶやきます。

「そうしなさい、そうするべきだ、って勧めることよ」
「じゃあ、オリエは殺すべきだって、パサちゃんたちは勧めたってこと?」

 水島の説明を聞いて顔を上げたスミレは、虚ろな目をしていました。

 その洞穴のような目を向けられても、パサラはもちろん動揺したりはしませんでした。冷徹なまでに、普段と変わりません。

『しかし、我々がオリエを殺すよう命じたわけではない』
「じゃあ、何で殺されたのさ……」
『ブラックスターに負けてしまったからさ。あの二人は、実力では拮抗していたが、相性が悪かったね』

 さすがにわたしでも、今パサラが言ったことが、スミレの聞きたかった「何で」と噛み合っていないことは分かりました。

 スミレが聞きたかったのは、ブラックスターがオリエ先輩を殺した理由でしょう。

 ただ、そんなものはないのだとも想像がつきます。

「パサラ、どうして『狩り』なんてことをあの人たちはするの?」

 キミちゃんは元気付けるようにスミレの肩を抱いて、その気持ちを慮って尋ねました。

『それが、「カオスブリンガー」と「エクサラント」の取り交わした契約だからさ』

 「ディストキーパー」が「ディストキーパー」を倒すと、倒した方は倒された方の「インガクズ」を取り入れることで自分を強化することができる、とパサラは説明しました。

『そうして自分たちを延々と強化していくのが、彼女らの望みだったんだ。「カオスブリンガー」は、そうやって自分を強くし戦い続けたいと願う、「ノマド」集団なのさ』

 有事の際には「エクサラント」の召集に応じる、というのが契約の対価だそうです。

『だから我々は「狩り」を奨励している。強い戦力は、いくらあっても足りるということはないからね』
「その代わりに、あたしらには死ねっていうの!?」

 水島がつかみかからんばかりの勢いでパサラに迫ります。

『端的に言えば、そうだと答えざるを得ないね』
「何よそれ、ふざけてんの……」

 水島はパサラをにらみつけます。アキナさんは、何かを考え込んでいる風に目を閉じています。スミレは俯いたままで、キミちゃんにその身を抱かれていました。そのキミちゃんも、スミレの背を励ますように撫でながら、暗い顔をしていました。

 重苦しい雰囲気が、わたし達の間に流れました。
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