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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十四]迫る死の足音

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14-1

「『カオスブリンガー』よ、待たせたな。始めるぞ、『狩りの時間』を!」
 

 アスファルトの上へ無造作に投げ出された二人は、目を閉じたままぴくりとも動きませんでした。

 どちらもほとんど裸でした。隠しておくべきところを、路上にさらしてしまっています。服は破かれたというより、溶かされたようでした。

 ディアは酷い状態でした。体中に無数の切り傷が走り、顔の半分以上が火傷を負っている他、縛られたり殴られたりした痕が痛々しく残っています。

 オリエ先輩の方は、ディアに比べるとまだきれいでしたが、何故だかもっとむごい目に遭ったかのような印象がありました。

 もう動くことはないんだ。そんな風に思いました。いや、一目で理解させられたと言った方が正しいでしょう。

 すぐに反応したのはスミレでした。正に雷の速さで、槍を構えて突進を繰り出します。

 ブラックスターには結局通じない、それはスミレも分かっていたでしょう。それでも、怒りのあまり飛び出してしまったようです。

 次の瞬間、わたし達が目にしたのは、ブラックスターの手前で制止する槍の穂先ではありませんでした。

 スミレは何かツルのようなものに巻かれて、地面に転がっていたのです。

「くそっ、邪魔するなよ! ほどけ、ほどいてよ!」

 スミレはじたばたと転げ回りますが、ツタがほどける気配はありません。

「にゃかにゃか、活きがいいじゃんか」

 ブラックスターの背後にいた四人の一人、三つ編みメガネに、左腕に大砲を装着した「ディストキーパー」が笑います。あのツルは、この人のものなのでしょう。

「活きがよくたって、弱けりゃ役には立たないね」

 短めの髪の子が、その足に履いた特徴的なブーツで、ぐるぐる巻きのスミレをこちらに蹴り返しました。

 一回バウンドしてこちらに転がってきたスミレに、キミちゃんが駆け寄りました。

「そう焦るなよ」

 あくび混じりといった様子で、ブラックスターは首をぐるりと回しました。

「まあ、先に仕掛けたのはこっちだけどよ」

 その薄笑いをアキナさんがにらみ返します。

「お前ら……!」

 握りしめた拳が震えています。こめられた強い感情がわたしにも伝わってきて、びくりとしてしまいました。二人が殺されたことよりも、されたことを感じ取っているように見えました。

「あれ? おこなの? 激おこちゃんなの?」

 さっきの三つ編みメガネさんが、怒りをわざと煽るようなことを言ってきます。

「何だお前?」

 ギロリとにらまれても、怯んだ様子はありません。

「何だ、ってあたしだよ。忘れたの、アッキー?」

 親しげな呼び掛けでしたが、アキナさんに思い当たる節はないようでした。

「えー、まーたまたぁ。あたしだよ、山吹シイナ。忘れちゃった?」

 そう名乗られても、アキナさんは表情をますます険しくするばかりでした。

「今はタイガーアイだけどね……って、あら? ピンと来てないみたいだにー」

 何のつもりなのか妙な語尾をつけてきます。

「ほら、エリりんやおヒメちん、サヤサヤやトウコちんみたいに、あんたに殺されるとこだった、あたしだよ」
「……殺される?」

 アキナさんは怪訝な様子でしたが、わたしは山吹シイナだかタイガーアイだかが挙げた名前を聞き逃していませんでした。

 トウコさんが、アキナさんに殺された?

 敵の妄言でしょうか。こちらを動揺させるための。それにしたってあの子がトウコさんの名を知っていることには疑問が残りますが。

「うーん……こりゃアレか、オリエさん辺りに、記憶消されちゃった系?」

 タイガーアイは首をかしげ、オリエ先輩の名も挙げました。

「意外と人のケアとか考えるんだに」

 死体を見下ろすその目や、ここまでの様子から察するに、この人はもしかして、昔この鱶ヶ渕にいた人ではないでしょうか。

 例えば、わたし達が「ディストキーパー」になる前の、先代の「ディストキーパー」とか。そう考えると、全部しっくりくるようで、わたしにしてはかなりいい線をついているように思えます。

 わたしやキミちゃんが「ディストキーパー」になる前、アキナさんの「世直し」が問題になった時、この世界ではトウコさんが死に、あのタイガーアイが生き残ったのではないでしょうか。この考え、辻褄があっているように思います。

「タイガーはともかく、あたしのことは覚えてるでしょ?」

 タイガーアイを押し退けるようにして、ブーツの「ディストキーパー」が前に出てきます。

「お前も誰だよ」

 にべもありません。この人も鱶ヶ渕絡みの人なのでしょうか。

「今あたしらは、そんな自己紹介をし合う気ないんだよ」

 ブーツの子の目線に暗いものが差しました。怒りか憎悪か判別しがたいですが、それらがないまぜになったものが激しく吹き荒れています。

「……はあ? 何それ? 勝者の余裕ってヤツ?」

 更に一歩踏み出してきました。

「勝った方はいいよね。負かした相手のこと、忘れちゃえるんだから……」

 わたしが集めたのではない風が、頬をかすめました。このブーツの子も、見た目通り風を使うようです。緑のラインがコスチュームに入っていますから。

「気に食わないんだよね。天才とか言われてさ、ちやほやされてんの――」

 天才という言葉でアキナさんを表現するということは、この人は空手関係かもしれません。

「なるほどな……」

 アキナさんもそれに気付いたようでした。

「お前はアレか、いつだったかあたしが負かした相手の中の誰かか」

 ただ、誰かは分かっていないようでした。

「まったく、覚えてない……?」
「倒した相手の数は多くてな」

 別にアキナさんは、わざと挑発してるわけではないのでしょうが――違いますよね?――風がどんどんきつくなっています。わたしでは、集めきれないほどです。

「ふざけるなよ……二度と、二度と忘れられないように……!?」

 飛びかかってくる、と思った時、ブーツの子は後ろに飛び退きました。雷が、その足元で爆ぜたのです。

「ちっ……! さっきのか!」

 スミレでした。見ると、ツルを水島に切ってもらったようでした。

「許さない……!」

 キッとブラックスターらをにらみ、槍を振り上げて再突撃の構えです。

「駄目よ、殺されちゃう!」

 その剣幕にまごつく水島の横から、キミちゃんがスミレの腕をとりました。

「離してよ! オリエの仇を討つんだ!」

 振り切ろうとするスミレを、キミちゃんは「重くして」まで止めます。

「仇って、あんたまで死んじゃうわ!」
「ボクが、ボクが死んででもさ! そうすればオリエも喜んで……」

 そんなこと言わせない、とばかりにキミちゃんは、スミレを後ろから抱きしめました。

「それが違うって、言ってるのよ……」

 スミレは奥歯を噛んで、悔しそうにうつむきました。分かっているのです、敵わないことなんて。

「キミヨ、スミレを押さえててくれよ……」

 押さた怒りの力は、あたしが代わりに振るってやる。アキナさんは拳を固めてブラックスターに目を向けました。

「いい目でにらんでくるじゃねえか」
「御託はいい。お前も、さっきの二人も後ろのやつらも、全員叩きのめしてやる……!」

 わたしに目で「下がれ」と指示しました。アキナさんは、一人でやる気のようでした。

「ブラックスターさん、彼女らもやる気ですわ」

 後ろの一人、長身で大袈裟な銃を持った方が、聞こえよがしに囁きます。

「既に『狩り』は開始している」

 背の低いマントの方もそううなずいてこちらをにらみます。

「この程度の相手なら、五分とかからず灰燼と帰せる」

 マントが浮き上がり、辺りの気温が上がったような気がしました。灰ということは、マントの子は炎を使うのでしょうか。

 そうだな、とブラックスターは担いでいた大鎌を下ろしました。

「インカローズ! ラピスラズリ! ペリドット! タイガーアイ!」

 炎のマントの子を、銃の人を、風のブーツの子を、そしてタイガーアイを順々見て、こちらに目線を戻しました。

「『カオスブリンガー』よ、待たせたな。始めるぞ、『狩りの時間』を!」

 後ろにいた二人も、前に出てきました。

「やるしかない、か……」

 キミちゃんはスミレから体を離し、二人とも武器を構えます。水島はキミちゃんに一にらみされて、さすがに逃げずに剣を取りました。ただ、腰は引けてしまっていますが。わたしはキミちゃんたち三人よりも少し前に立ち、相手の攻撃に備えました。

 アキナさんとブラックスターが動いたのはほぼ同時でした。

 グローブに覆われた拳と大鎌が激突する、その瞬間でした。

『待ってもらおうか』

 言葉と同時に、二人の間に割って入ったものがいました。

 ブラックスターはすぐに飛び退き、アキナさんはすんでで拳を引きました。

「てめえは……」

『「カオスブリンガー」、この「狩り」は一旦預からせてもらうよ』

 パサラでした。

 白い毛玉はふんわりと揺れて、「カオスブリンガー」の五人を見渡しました。
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