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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十三]混沌の到来

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13-4

「だから今度はあたしが、オリエさんのピンチ助けてくるよ」
 

 オリエ先輩の指示を受けて、わたしは必死で風を集めました。

 背中のマフラー、「トルネードフィン」はわたしが思っている以上に広がり、たくさん風を集めてくれて、三人もの人を抱えて空に舞い上がることはできましたが、それでもあまり長くは飛べませんでした。

 学校近くの公園まではどうにか戻りました。近所の小学生が遊んでいて、着地したわたし達に最初は驚いていましたが、すぐに関心をなくしたように離れていきました。あまつさえ、公園から出て行きさえします。「インガの改変」が行われたようでした。

「何なのよ、もう……。何でこんなことになってるのよ……」

 ぶつぶつ呟いている水島は放置して、わたしはキミちゃんとスミレの治療に当たることにしました。

 オリエ先輩から渡された琥珀は、既に「改変」によって治療用の琥珀になっていました。これは「アンバー」の能力によるもので、こうして「改変」されることで、他の「ディストキーパー」にも使えるようになるそうです。強化薬や記憶媒体にも変えられると聞いたことがあります。

 キミちゃんもスミレも、ともかく治療を急がねばなりませんでした。琥珀を握りつぶすようにして、その粉をかけてやると、粒子がキラキラと輝きながら二人の体に降り注ぎます。

 程なくして、キミちゃんが目を覚ましました。

「ここは……?」

 辺りを見回し、すぐにキミちゃんはわたしに問いかけます。

「あのブラックスターっていうのは?」

 わたしはつっかえつっかえながらも、何とかオリエ先輩が助けてくれたことを説明しました。その間に、スミレも気がついたようでした。

「オリエを、助けに行かないと!」

 スミレはバッと立ち上がりましたが、まだどこか痛むのか顔をしかめました。

「無理しちゃダメよ、スミレ」
「してないよ。ボクが行かなきゃ……」

 痛がりのスミレですが、目に涙を浮かべながらも、歩き出そうとします。それほどオリエ先輩が大事なのでしょう。キミちゃんがその肩を抱いて止めました。

「ダメだってば! スミレが死んじゃう……」
「それに、心配しなくても、そうそうやられないでしょ、あの人……」

 強いんだからさ、と水島が口を挟みます。一見励ますような言葉に聞こえますが、これはみんなで行こうとなるのを避けるための布石でしょう。

「でも嫌な感じがするよ、あの黒いの……」

 さすがに水島も口ごもりました。スミレの「嫌な感じ」は、ぼやっとした言い方でしたが、多分わたし達四人の間では、ほぼ同じ形で受け止められていたに違いありません。

 ブラックスターは、ただ強いだけでなく、どこか不穏なものをまとっていました。それはあの大鎌が象徴するように、「死」や「恐怖」といったものが、形になったかのようでした。

 わたしと他の三人で、受けとり方に違いがあるとするならば。わたしはそれと似たものを知っているということです。

 「破滅の風」。未だにわたしの体の中に吹き荒れるあの力と、ブラックスターは似ているように思えました。

 気まぐれに吹いたあの風は、微かですがブラックスターにダメージを与えられたようでした。他の攻撃がまったく通用しなかったのに、です。

 もしかすると、怪物に通じるのは怪物の爪や牙だけなのかもしれません。

 もういっそ、「破滅の風」をすべて解放してしまいたい。

 そんな願望が、不意に頭をもたげました。

 でも、それはやってはならないこと。オリエ先輩の「計画」が実行されるよりも悪いことが起きてしまうだけです。第一、風は気まぐれで、わたしの意思になどしたがってくれないのです。

 わたしの勇気なんて、こんなものなのです。できる気がしてやってみても、結局何もできずにヤケになって……。でもヤケになりきることすらできないのです。

 キミちゃんは、スミレを何とかなだめて座らせました。そこへ、「インガの改変」によって人払いされているはずの公園に入ってくる影がありました。

「お前ら……どうしたんだ、変身なんかして」

 アキナさんでした。その姿を見て、スミレが叫びます。

「アキちゃん! オリエを助けて!」
「は、え? 何……?」

 眉を寄せるアキナさんに、キミちゃんが簡単に事情を話しました。

「知らない『ディストキーパー』に襲われて、そこをオリエが……。そうか、それであいつ急に飛んで行ったのか……」

 アキナさんは、ディアだけでなくオリエ先輩を交えて屋上で話したそうです。そして、ディアとオリエ先輩が揉め、軽く戦闘になりかけたとも言いました。

「その後、オリエはしばらく話してから、急に血相変えて飛び出していったんだよ。あたしにこれを渡してさ」

 アキナさんの手には琥珀が乗っていました。

「オリエ、ボクらがピンチなの、分かって来てくれたのか……」

 スミレの頭に、アキナさんはポンと手を置きました。

「だから今度はあたしが、オリエさんのピンチ助けてくるよ」

 久しぶりに「さん」が復活していました。話し合いで何かあったのでしょうか。

「後で話すよ。他に誰か来れないか?」

 問いかけながら、アキナさんは左手の甲に「ホーキー」をさして変身します。

「あたし行くわ」
「ダメだ。キミヨお前まだダメージ残ってるだろ」

 スミレと残ってろ、と押し留めます。

「あの、わたし……」
「来てくれるかミリカ」

 わたしは深くうなずきました。オリエ先輩が直接琥珀を使ってくれたからか、それとも異常な怪物になってしまったからか、わたしの体調は万全でした。

「後は……」

 と、アキナさんはこっそりこの場から離れようとしている水島を見つけました。

「おいコラ、ラン! 逃げるな!」

 見咎められ、面白いくらいに水島はびくりとしました。

「お前も割と元気だろ。手を貸せよ」
「せっかく助かったのに……」
「誰のお陰だよ。恩を仇で返す気か?」

 水島は観念したように額の「コーザリティ・サークル」に「ホーキー」を入れ、ようやく変身しました。

「あの黒いヤツ、何やっても効かないんだけど……」

 何やってもというか、何もやっていない水島がぶつぶつ言います。

「効かない?」
「うん。雷とか、当たる前にかき消されちゃうんだ」

 うーん、とアキナさんは腕組みしてうなりました。

「何にしても、戦力は多い方がよさそうだな……」

 ディアにも連絡してみる、とアキナさんはパサラを通じて呼び出そうとしました。

「つーか、そうよ! パサラ何やってんの! 何で『ディストキーパー』同士で戦わなきゃいけないのよ!」

 さすがは水島、文句を言わせれば天下一品です。

「確かにな。あいつは『ディストキーパー』同士での私闘は禁止と言っていた」
「それな!」

 怒りとか苛立ちのこもった同意でした。

「パサラから、あの頭おかしいのに、直接言ってもらった方がよくない?」
「それもありだけど……あれ? パサラのヤツでないな」
「はあ!? こんな時に、何よあの毛玉」

 あてが外れて水島は口を尖らせます。

「パサラと連絡取れたとしても、無理な気がする」

 何で、と問われて、キミちゃんは肩をすくめました。

「ランも見てたでしょ? 『インガの裏側』でもないとこで、平気で変身して戦いを仕掛けてきたのよ?」

 あー、と水島はため息をつきました。

「パサラとかの言うこと聞くようなヤツでもない、ってことか……」
「とにかく急ごうよ。オリエが心配だ」

 オリエさん絡みだと、スミレの思考は途端にまともになるようでした。

「だな。ディアは抜きだが、とにかく行ってやらないと……」

 そこに、アキナさんの言葉を遮って、公園に新たな声が響きます。

「いいや、来なくていいぜ」

 それは聞いたことのある声で、そして聞きたくない声でした。水島は青ざめ、キミちゃんとスミレは警戒した様子で声のした方を向きました。アキナさんもそちらに体を向けます。

「こいつか……」

 アキナさんは一目で危険なことを感じ取ったのでしょう、声に緊張がこもっています。わたしは嫌な汗が背中に滲むのを感じました。

 現れたのは、あのブラックスターと――更に見知らぬ四人が増えていました。

「聞いてたのは、一人って話だったが……」

 わたしは新たに現れた四人の気配を探って、全身の毛が逆立つかのようでした。

「な、何よこいつら……」

 一層顔を青くして、水島が後ずさります。
 そうです、この人も、確か感知の力が目覚めたのでした。だから分かったのでしょう、後ろから来る四人が四人とも、強大な力を持っているということが。その力、水島は比較対象を持っていないでしょうが――「最終深点」のアキナさんやトウコさんと同等か、それ以上……。

 そして、気配が分からなくとも、わたし達を恐れさせる要素を、この一団は十分に備えていました。

 ブラックスターは、恐らく利き手ではない左手に鎌を持っていました。右腕は肩に担いだ「荷物」で埋まっていたからです。

「ほれ、届けもんだ」

 ブラックスターは、その「荷物」を地面に放り投げます。「荷物」は二つで、わたし達は息を飲みました。

 何せそれは、ぐったりして動かないオリエ先輩とディアだったのですから。
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