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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十三]混沌の到来

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13-3

「あたし、こっちの子になったから」
 

 窮地のブラックスターを救った、四人の「ディストキーパー」。その内の一人は、死んだはずの鱶ヶ渕の「ディストキーパー」、山吹シイナであった。

 二つに分けた三つ編みにメガネ姿なのは、当時と変わらない。

「どうしてあなたが、今更……」
「今更、か。その口ぶりじゃ、どうやらあたしが生きてること知ってたんだね?」
「他の子たちと違って、存在を消された気配がなかったもの」
「会えて嬉しいかい? あたしは結構嬉しいよ」
「……わたしもよ」

 だけど、とオリエは視線をきつくする。

「こんな状況じゃなければね」

 違いないねえ、とシイナはしみじみうなずいた。

「ブラックスターを連れてきたのはあなた?」
「うーん、連れてきたってのは、ちょっと語弊があるかに」

 ともかくさ、とメガネを押し上げ、シイナは開き直ったような明るい口調を作る。

「あたし、こっちの子になったから」

 ねえブラッさん、と親しげにブラックスターに声をかける。

「オリエさん、強かったっしょ?」
「まあな、タイガーアイ。お前らが来なきゃ、オレも危ないとこだったぜ」
「へー、危なかったんだ」

 タイガーアイと呼ばれたシイナの隣、緑のコスチュームをまとう特徴的な靴を履いた少女が口を挟む。

「ブラス、一人でどんどん行っちゃうからだよ」
「わたしは心配していませんでしたわ」

 両手に大仰な銃を携えケープを頭にかぶった、青いコスチュームの穏やかそうな少女はそう微笑む。

「そうそう負けるはずがございませんもの」
「とは言え、現状大勢を相手にするのは危険……」

 最もブラックスターの近くに寄り添っていた、フードのついたマントを羽織った少女が、ブラックスターのお腹をさする。

「分かってるさ。使えりゃよかったんだがな……」

 フードの上から少女の頭をポンとたたいて、ブラックスターはオリエらに向き直る。

「最悪だ……」

 ディアはそう歯噛みする。

「『カオスブリンガー』が、このタイミングで全員そろってしまうなんて……」

 わざわざ口には出さなかったが、オリエも同じ気持ちだった。感知に優れる彼女は悟っていたのだ。「カオスブリンガー」の全員が、「最終深点」に到達していることを。

「お、あの白い方、ビビってるよ?」
「甘く見るなよ、ペリ。アレは何をしてくるか分からねえぞ」

 緑の少女――ペリドットは「へぇ……」と感心したように言って表情を引き締める。

「オレ一人じゃ手に余る。ローズ、ラピスも気を引き締めろ」
「それほどの相手、ということですね……」

 フードとマントのインカローズは一つうなずき、ケープと銃器のラピスラズリは得物を構え直す。

「じゃ、行くよ!」

 風を巻き起こして、ペリドットが飛びかかってくる。ディアは立ち上がって、ペリドットの蹴りを既に斧の姿に戻っていた得物で受け止めた。

 だが、衝撃に耐えきれず足が崩れる。その顔に、ペリドットは無慈悲に膝蹴りを入れた。

 オリエは「最終深点」を最もバランスに優れた姿「菩薩」に移行させる。

「オリエさん、ごめんに。悲しいけどこれ戦争なのよねん」

 悲しさなど微塵も感じさせない口調でシイナ――タイガーアイは砲口を向ける。下腕部と一体化し、取り回しやすく小型化されたハンドカノンから「種」が撃ち出される。

 ブドウ弾ね。形状からそう判断し、オリエは背の「インガの輪」から琥珀を取り外し、結界を展開した。

「悪あがきは止め、裁きを謙虚に受け入れなさい」

 ラピスラズリの手にした銃から発射されたのは、無色透明の液体であった。

 水鉄砲? 疑念を抱いた時、飛来した液体が結界を溶かした。

「しまっ――!」

 頭上で「種」が弾け、黒い弾丸が降り注ぐ。

「ぐっ……!」

 痛みを噛み殺しながら、オリエは琥珀を光の矢に変えて、タイガーアイとラピスラズリに向けて放つ。

「オレのこと、忘れんなよ」

 ブラックスターが二人をかばうように前に立ち、大鎌を薙いで琥珀の矢を打ち落とす。

「チェアァッ!」

 次の琥珀を準備するオリエに、ペリドットが躍りかかってきた。攻撃用に外した琥珀を防御に回して凌ぐ。

 この子の動き、アキナに似ている。オリエは風をまとった蹴りをいなす。アキナと同じく、空手を主体としているようだ。空が飛べる分、ペリドットの方が攻め方が立体的であるが。

「あの白いの、全然強くなかったよ」

 ペリドットはオリエの頭を飛び越えて後ろを取る。振り返らずに、オリエは攻撃を琥珀で防いだ。

 ディアは? そちらをうかがうと、フードをかぶったインカローズがうずくまったディアの傍らに立っている。

「気配、僅少。ダメージ、甚大。復活の兆候、なし。危険は微少と判断……」

 インカローズがまとっていたマントが燃え上がる。いや、マントそのものが炎に変わったのだ。

「火葬を執行する」

 炎にあぶられ、ディアが悲鳴をあげた。既に戦う力は残っていないようだ。それほどまでに、先ほどブラックスターの力を封じたのは無理がかかることだったらしい。

「よそ見をしてる暇があるのかな?」

 頭を狙って放たれた回し蹴りを、オリエは易々と受け止めた。

「あなたぐらいの相手ならね」

 ともかく、一人ずつ倒すしかない。まずは御しやすそうなこの子から……。オリエは琥珀を砕いて四本の剣を生成し、一度離れたペリドットに向ける。

「させませんわ」
「三度目は許さなくてよ」

 ラピスラズリが剣に放った溶解液を、オリエは琥珀で閉じ込める。

「なら、これはどうだ?」
「それも予想済みね」

 頭上から攻めてきたブラックスターを飛びすさってかわす。

「うわわっ!? 追いかけてくる」
「軌跡把握。ペリ、冷静になることを推奨する」

 剣は、ディアを放り出して救援に回ってきたインカローズの炎に防がれた。

 意外と連携が取れている。好き勝手やるだけかと思ったが、これは誤算だった。ブラックスターから逃がれつつ、オリエは次の手を考える。

 ブラックスターはペリドットの直線上にいる。となると、琥珀による攻撃は無効化される。誰かがブラックスターを引き付けてくれればいいのだが、とディアの方をうかがう。

 無理な「改変」で力尽き、殴打を受け、その身をあぶられたディアは、ツルでぐるぐるに巻かれて放置されていた。

 ツル? アレは確かシイナの「種」の……。

 そこでオリエはシイナの姿がないことに気付く。姿だけではない、気配すら消えて……!

 ひやりとした感触が脇腹を襲った。ブラックスターの斬撃をかわし振り向くと、シイナが――いやタイガーアイが、ハンドカノン下部の爪を開きこちらに突きつけていた。

 いつの間にこんなところまで!? そう思った時には、オリエは脇腹を切り裂かれ地に倒れていた。

「かっは……」

 落ちていく視界の中、タイガーアイはオリエをにやりと見下ろして、ハンドカノンの砲口を向ける。放たれた「種」は防ぐこともできず、オリエの体にめり込んだ。

「あたしもねー、この三か月でレベルアップしてんのさ、色々ね」

 タイガーアイは、その「レベルアップ」の一端であろう、ハンドカノンを撫でる。下腕部と一体になったそれは、鱶ヶ渕にいた頃の大砲よりも爪の鋭さも相まって、攻撃的に見える。

「ま、使える『種』が増えたなんて、さすがに後出しジャンケンだけどに」

 恐らくは、気配を消す「種」なのだろう。オリエは推測する。ペリドットはおろか、斬りかかってきたブラックスターすらも囮だったのだ。確実に「種」を撃ち込むための……。

「ちなみに、今撃ったヤツは昔からある花の『種』だぜぃ」

 タイガーアイの言葉が終わるや否や、爪で斬られた傷口から茎が伸び出る。

「あっ……がっ……!?」

 吸われている、体の「インガクズ」が……。力が入らない。背中を突き破った根が、両手足に絡みつく。根は地面にたどり着き、アスファルトにオリエの体を繋ぎ止める。

 茎の先が膨らみ、つぼみとなって伸び、そして花が咲いた。

「ぐ、あ……」

 巨大な花に拘束されたオリエの顔を、ブラックスターはあごをつまんで上げさせた。

「全員がかりでここまで苦労したのは久しぶりだぜ」

 うちの新人なかなかやるだろ、とタイガーアイに目をやる。

「いや、あんたが基本を仕込んだお陰かもな……」

 何にしても、だ。他の三人も集まってくる。ラピスラズリがツルに巻かれて気を失っているディアを担いできた。

「お楽しみの続きといこうや」

 笑うブラックスターをオリエはにらみつけるが、その目に力はなかった。
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