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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十三]混沌の到来

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13-2

「バカめ。理屈だけでやられるほど……オレは甘かねえんだよ!」
 

 当たり前のように自分の隣に立ち、ブラックスターと敵対する姿勢を見せるディアに、オリエは疑念の目を向ける。

「何のつもり? こんなヤツをけしかけてきたと思ったら、今度はそれを邪魔して見せる」

 ディアは肩をすくめた。

「心外だな、何でもかんでもわたしのせいではないよ。昔のハリウッド映画の、ナチスの残党ではないのだから」

 大体、とブラックスターに斧を向ける。

「彼女がここに来ること自体、わたしにとって大きなイレギュラーだ」
「何がイレギュラーだ。てめえの事情なんぞ知るかよ」

 ブラックスターは不機嫌に吐き捨てた。

「だからこそ、必死に体を修復して、あわてて駆けつけたんじゃないか」

 それもケガの原因である君のために! とディアはオリエに振り向く。

「君にとっても、それは同じだろう、立花オリエ? 一緒にブラスを倒そうじゃないか」

 利害は一致しているはずだ、と語るディアの目はどこか揺らいで見えた。

 「ディストキーパー」は、完全に「エクサラント」の飼い犬ではない。リードはつけられているが、その長さには余裕があるし、くつわは噛まされていないのだ。

 なるほど、これは言葉通りのイレギュラーと考えてよさそうだ。オリエはひとつ大きなため息をついた。何にしても、ブラックスターは倒さねばならないし。

「助けてもらったこと、お礼を言っておくわ」

 それを聞いて、にっこりとディアは笑った。

「協力してくれるのだね?」

 仕方なしによ、とうなずきながらオリエは一つ条件を出す。

「その代わり、あなたが前に立ちなさい」
「もちろんさ。今のわたしは前衛型だからね」

 ディアは進み出て、ブラックスターを見据えた。

「これ以上の混沌状態はこの世の『インガ』が望むものではない! 悪いが、実力で排除させてもらうよ」

 ディアの宣言に、ブラックスターは自分の腹を一つ撫でると、あの狂気で狂喜の笑みを浮かべる。

「話はよく分からんが、つまり両方とも殺していいってことだな……」

 来いよ、とブラックスターは得物を構える。

「まとめて蹂躙しつくしてやるぜ」
「できるものなら、やってみろ!」

 ディアは地を蹴った。ブラックスターとの距離を詰める中、体が光に包まれて、「最終深点」へ移行する。水晶を思わせる透明な装飾のあしらわれた白銀の鎧をまとい、斧をブラックスターに振り下ろす。

 大鎌でそれを弾き返すと、ブラックスターはディアに斬りかかった。対抗するディアであったが、如実に差し込まれていっているのがわかる。

 どうも弱いわね。オリエはそれを見て内心呟いた。「エクサラント」が現世に干渉する時に、枷がかかるのは本当らしい。もう少しどうにかなるかと思ったが、ディアの「ディストキーパー」としての戦闘力は、まだ見せていない「気質」の性能を差っ引けば見たままの程度のようだ。

 オリエは「明王」から「如来」へ移行した。補助に適した「天部」は、まだ使う時ではない。今必要なのは大量の琥珀を一度に扱う火力だ。

 「如来」に移行したことで、腰の周囲を取り巻くようになった「インガの輪」から、百を超える琥珀が浮き上がり、オリエの正面に展開する。

 光の矢と変わった琥珀は、ブラックスターとディアへ向かって射出された。

 ブラックスターと組みあっていたディアは、背中から飛んでくる矢に気付き、瞬時に姿を消す。百の矢がブラックスターの体を貫いた――かに見えた。

 ブラックスターは無傷であった。彼女の体の表面に触れた琥珀の矢は、熱した鉄板に触れた雪のように消えた。見えない壁がブラックスターの表面にあるかのようだった。

「どうした?」

 ブラックスターがそう言った瞬間、ディアが彼女の頭上に姿を現す。斧を脳天に振り下ろすが、簡単に大鎌で弾き飛ばされてしまった。

「これで終わりかよ?」

 そう問うブラックスターの目の前に再びディアが姿を現す。斧の一撃をやすやす受け止めて、ブラックスターは呆れたようなため息をついた。

「張り切って出てきてくれたけどよ、はっきり言って大したことねえぞ!」

 再び振り払われても、しつこくディアは食い下がる。

「光の『ディストキーパー』のワープ能力か……。普通なら厄介だろうが、お前活かし切れてねえんだよ!」
「いやこれで十分だよ、ブラックスター。君が鬱陶しく思うならね……!」

 鍔迫り合いの中、ディアは足を踏ん張ってブラックスターの圧力に耐えた。足元のアスファルトがめしゃりとへこむ。

「そういうことか……」

 二人の頭上に今度は十数個の琥珀が飛来する。琥珀は砕けて、中から剣が姿を現した。落下してきたそれは、ブラックスターに刺さる前に消え去った。

「お前ら、オレの『気質』の弱点を知ってやがるな」
「言ったはずだよ、わたしの知らない『ディストキーパー』はいない、と……!」

 ディアはワープでブラックスターの背後に回る。ブラックスターは振り向かず、影を集めたツインテールで斧を受け止めると、ディアを引きずるようにして自分の正面へ持ってくる。

「君の『気質』、その名は『無明の暗黒』……!」

 影の腕をどうにか引き裂いて、ディアは斧で打ちかかった。

「対『ディスト』では相手の力を削ぐ程度だが、その真価は『ディストキーパー』に対して使うことで発揮される……!」

 おしゃべりだな、とブラックスターはディアを弾き飛ばす。

「『ディストキーパー』の『気質』や変身による身体能力の強化を打ち消して、言わば相手をただの女の子にしてしまう……!」

 塀にぶつかる直前にワープを使って、ディアはブラックスターの下へ戻る。

「その能力の弱点、それは……!」

 再び鍔迫り合いに持ち込み、ディアは続けた。

「打ち消せるのは『一人に対して』だけだ、ということ! つまり、今のように多対一の状況に持ち込めれば、その脅威は半分以下になる!」

 斧をかち上げられて、ディアはよろめいた。ブラックスターは再び影を集めていたツインテールに刃を生成し、正面の彼女に向けた。

「バカめ。理屈だけでやられるほど……オレは甘かねえんだよ!」

 影の刃は縦横無尽に動いてディアの体を切り刻んだ。

「ぐぅぅ……!」

 微塵に切られたはずのディアであったが、ワープの応用か瞬時に体を再生させる。だが、消耗するものも多かったのか立つのがやっとのようだった。その首にブラックスターは鎌の刃を突きつけた。

「オレの『気質』も有名になっちまってな。お前らみたいに、二人がかりでかかってくるヤツらも多いんだよ、最近は」

 どちらか片方に「無明の暗黒」を使わせることで、もう片方が十全に動く。簡単な対策法である。だがな、とディアの首に鎌の刃を食い込ませた。

「『気質』を封じるまでもないようなヤツが混じってたら、台無しなんだよな……」

 ブラックスターはその「気質」がなかったとしても、基本的な能力だけで一般的な「ディストキーパー」を大きく上回っているのだ。

 剣を出した後、一切の援護をしないオリエの方にブラックスターは目をやった。

「あんたが二人ならオレは三回は死んでるだろうが……こいつじゃ無理だぜ」

 ディアが思ったよりも弱かったのは事実だ。だが、彼女にはまだ何か隠し玉があるようだ。大鎌を突きつけられても、怯んだ様子はない。

「勝ち誇るのは、少し早いのではなくて?」

 何? と眉を歪めたブラックスターの足元で、ディアの斧が輝きを放つ。

「この世界線の君は、わたしの思っている以上に強いらしいね、ブラックスター……」

 まさかこれを使わされることになろうとは。ブラックスターは言葉が終わらない内に大鎌を振るう。だが、ディアはワープで後ろに下がってかわした。

「一つの世界線につき、ただ一度しか使えないが――見るがいい、これが『はじまりのディストキーパー』の力だ!」

 ディアの斧が、光の中で細緻な装飾のされたレイピアへと姿を変える。水晶を模した半透明の装甲が、今までとは違う輝きを放つ。

 こいつはまずい。ブラックスターの唇がそう動いた。影をツインテールに集め、壁のように変えて防御の体勢を取る。

「すべてを飲み込む光を受けよ! 『Brillante(ブリリアンテ) Welt(ヴェルト)』!」

 クリスタルよりも遥かに硬質で、深い輝きを湛える宝石を思わせる青白い光が、何百本もの鋭い刃となって、影の壁を貫きブラックスターを飲み込む。

「がぁ……!?」

 獣めいた呻きを上げて、ブラックスターが倒れる。いや、膝をついて堪えている。鎌を杖代わりにしながら、まだ戦えると立ち上がろうとしている。

「今だ!」

 言われなくても、とオリエは既に「天部」に移行していた。「インガの輪」から放たれた、百と八の琥珀がブラックスターの周囲を取り巻くと、それぞれの琥珀が頂点となり、結界を形作る。

 どういう干渉の仕方をして「気質」を封じ込めたかは知らないけど。オリエはディアをちらりと見た。自ら放った技の反動に尻餅をつき、「最終深点」が解けた状態で座り込んでいる。相当消耗している様子だった。

 だが、「無明の暗黒」が封じられているのは確かなようだ。このまま琥珀に入れて圧縮し、握りつぶす。オリエは結界の圧力を強めた。

「な、めるなあ!」

 腕を突っ張り、ブラックスターが吠える。結界が閉じ切らない。ブラックスターは「琥珀に封じられる」という「インガの改変」に、腕力だけで抵抗しているのだ。驚異的、正に規格外の「怪物」だわ、とオリエは舌を巻く。だがそれも、少しずつ押しこめている。

「よし、やったか……!」

 座り込んでいたディアが勝利を確信しそうつぶやいた時、オリエはこちらへ近付いてくる四つの「ディストキーパー」の気配を感じた。

 これは……!? オリエの胸に動揺が走る。あの子が、どうして……?

 四つの内一つがよく知っているものだったのだ。

 それを認識した時、ディアの頭上に何かが飛んできた。

 大きな「種」だ。固い外殻に覆われた、ソフトボール大の。そして、オリエはそれにも見覚えがあった。

「ディア、上よ!」

 オリエが警告を発した時にはもう遅い。「種」は破裂し、細かな黒い弾丸が降り注いだ。貫かれ、ディアは大きな悲鳴を上げる。

 同時に、ブラックスターを覆う琥珀にも攻撃が加えられた。「種」と同じ方角から飛来してきたそれに触れると、結界の表面がどろりと溶けた。

「オラァ!」

 ブラックスターは圧力が弱まったとみるや無理やりにぶち破ると、倒れているディアに大鎌を振りかぶる。すんでのところで、オリエは彼女の体を引っ張って下がった。

「くっ……まずいね……」

 オリエの腕の中で、ディアは歯噛みする。顔を上げると、ブラックスターの背後に四つの影が立っていた。

 その内の一人、よく知った気配を放つ彼女を見て、オリエは目を見開く。向こうも、オリエを見てにやりと笑った。

「やあ、オリエさん。お久しぶり」

 気安く手を挙げて見せるのは、メガネに三つ編みの、「ディストキーパー」。左腕にはめた大砲は、往時よりも小型となったが、より攻撃的になったようにも見える。

山吹(やまぶき)、シイナ……!」

 半年前に死んだはず山吹シイナは、「そうだにー」とおどけて見せた。
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