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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十二]二つの「計画」

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12-3

「それともお前には、オレが善意で人助けするように見えるのか?」
 

 一人でディアと談判するというアキナさんを心配しつつも、わたしとキミちゃんは校門を出ました。

 ただ、二人きりではありません。スミレと水島が一緒でした。

 わたしがキミちゃんと帰るために四組の教室の前で待っていたら、二人ともやってきたのです。

 水島は、わたしの胸ぐらをつかんだことなど忘れたかのように、ここ最近もこうして一緒に帰ろうとしてきます。ディアの乱入でうやむやになったので、うやむやのままにしておきたいのでしょう。わたしも掘り返す気はありませんでした。

 一方、スミレは最近オリエ先輩に構ってもらえていないらしく、キミちゃんにべったりでした。

「あのね、キミちゃん、今日ね……」

 スミレは話しかけるとき、妙に距離が近いように思います。オリエ先輩の影響でしょうか。あの人もよく顔を近付けてきますから。

 ただ、見ていて気持ちのいいものではありませんでした。スミレにとってキミちゃんは、オリエ先輩の代わり、予備でしかないのに。キミちゃんもキミちゃんで優しいから、楽しげに見せているのも、締め付けられるようでした。

 いえ、本当に楽しいのかもしれません。わたしなんかと話すのと比べたら。スミレは口を開かなければ、かわいらしいと思います。くしを入れても何だかもさもさなわたしと違って、きれいに髪もまとめていますし。

「ちょっと、ミリカ」

 キミちゃんが囁いてきました。

「近いって……」

 はたとわたしは我に返りました。キミちゃんの右手の方にスミレがまとわりついていたのですが、ついわたしも左手の側に距離を詰めていたのです。

「できたらさ、ランの方に行ってよ」

 キミちゃんは後ろを一人で歩く水島にちらりと目をやりました。

「そんな顔されても困っちゃうよ。気が進まないのは分かるけどさ、説得しなきゃでしょ」

 確かにその通りです。アキナさんも頑張ってくれているはずですし。

 それは分かっていても、もにょもにょで、ぐじゃぐじゃな気分は晴れませんでした。

「ねえ、キミちゃーん」

 スミレに呼ばれて、はいはいと応じつつ、キミちゃんはわたしに目配せします。

 仕方なしの渋々に、わたしは水島の隣に行きました。

「あ、あの……」

 何? と怪訝な顔で水島は尋ね返してきます。この段階で、既に心が折れそうでした。

「ささ、最近どうかな、と思って……」

 あんまりな話しかけ方でしたが、相手が水島かどうかを問わず、こんなことしか言えないのがわたしでした。

 ただ、水島ランという生き物は単純なもので、その点はありがたく思います。あんな雑な振り方でも、「それがさー」とベラベラしゃべりだすのです。

「ムカつくわー。あたしがどんだけ気を使ってるのか、分かってないのよあいつら」

 そう言えば、とわたしは思い出しました。

 そろそろ水島は、運動部系上位の子たちにクラス内の主導権を奪われる頃でした。イケニエを下位グループの子から選び出し、その子をハブにすることで内側の結束を高めようとしたのが原因のようです。

 まともな神経ならば、そんなやり方に賛成するはずもないのに、まともでない×××××やその取り巻きとしか付き合いのない水島には分からなかったのでしょう。そして、自分がハブにされるという愉快な結末を迎えるのです。

 思い出してみればあの時、わたしは運動部系上位の子らに校舎裏に呼び出されて、水島をハブにするよう言われたのでした。

 ふと、今回は味方してやるかな、という考えが首をもたげました。

 前回は即決で「友達じゃない」と無関係を強調しましたが、あの子らは×××××たち程暴力的ではないし、水島と友達だと言っても大したリスクにはならないはずです。

 それで水島の孤独が癒え、オリエ先輩の方につかないのなら。そのリスクは支払っていいかもしれません。

 そんなことを考えながら歩いていると、大通りから離れた脇道に差し掛かります。

「スミレもこっちだっけ?」
「うん、そうだよ」

 わたしもキミちゃんも水島も同じ方向なので、まだしばらく四人行動は続きそうです。

 脇道に入ってしばらく進むと、大きめの十字路があります。わたしはいつも、ここでキミちゃんや水島と別れることになるのですが……。

「あれ、あの子……」

 キミちゃんの声に前を見ると、見慣れない女の子が十字路の真ん中に立っていました。

 背は高く、長い黒髪をツインテールにしています。英字のプリントされたノースリーブに、下はジーンズとサンダルでした。気だるげそうな印象ですが目付きだけはやけに鋭く、わたしは何だか胸騒ぎがしました。

「この間の、『ディストキーパー』……?」
「知り合い?」

 水島は不思議そうでしたが、話を聞いていたわたしはすぐに気付きました。昨日、宇内市でキミちゃん達が出くわしたというあの「ディストキーパー」でしょう。

「よう、探したぜ。鱶ヶ渕の『ディストキーパー』ども」

 少しハスキーな声でした。黒いその子は「ホーキー」を取り出すと、ジーンズのチャックの辺りに浮かんだ「コーザリティ・サークル」に差し入れました。

「え、変身した!?」

 黒い光とでも呼ぶべきものに包まれて、その子は「インガの裏側」でもないのに「ディストキーパー」の姿になりました。

 キミちゃんから前に聞いた通りの、真っ黒のコスチュームに大鎌を携えたその姿は、まるで――。

 長い息を吐いて、その子は首をゆっくり回しました。回し終わってにやりと笑うと、無造作に鎌を振りかぶってこちらに突進してきました。

「きゃっ!?」

 元々、当てる気のない威嚇のような攻撃だったのでしょうか。変身前でも何とか飛び退くなりしてかわせました。アスファルトの地面が砕け、破片が舞い散ります。

「ちょ、ちょっと、何考えてんの!?」

 上ずった声で水島が怒鳴ります。

「今のは挨拶代わりだ」

 囲むように散らばったわたし達四人を見回します。値踏みするような目付きでした。

「オレはブラックスター。『カオスブリンガー』の、まあ……リーダーだ」

 リーダーだ、と言われても、その「カオスブリンガー」が何なのかが分かりません。

「『カオスブリンガー』が来たってことは、分かるだろ?」

 分かるだろも何も……と思いましたが、今の状況から嫌な連想はわき起こってきます。

「ここで『狩り』をするってことだ」

 「狩り」。その単語はあの大鎌の刃のように鋭く聞こえました。

「変身して向かってこい。でなきゃ……すぐ死んじまうぞ」

 言葉と同時に、ブラックスターを名乗る「ディストキーパー」の姿が消えました。

 あれだけ言って逃げた? そんなことを思った時、キミちゃんが悲鳴を上げて倒れました。

 驚いてそちらを見ると、キミちゃんがうつぶせに倒れていました。それを見下ろすブラックスター、鎌の背でキミちゃんを背後から殴り付けたようでした。

「どうした? 変身しろよ。つまらないだろうが」

 次はこっちで行くか、とキミちゃんの首筋に鎌の刃をあてがいます。

「やめろ!」

 スミレが両脇腹の「コーザリティ・サークル」に「ホーキー」を差し入れて変身し、槍を構えて躍りかかりました。

 ブラックスターはスミレに向き直り、繰り出される槍の穂先をいなします。

 その間にわたしはキミちゃんに駆け寄ります。「痛た……」と声が漏れたのでひと安心、意識はあるようです。

 槍をことごとく捌かれたスミレは後ろに跳んで距離を取り、槍を掲げて叫びます。

「『ジャッジメント・サンダー』!」

 雷撃がブラックスターに直撃、したかのように見えましたが……。

「ウソ!?」

 ブラックスターは無傷でした。何事もなかったかのようです。雷の効果が薄いとか吸収されたというよりも、攻撃そのものをなかったことにしたかのようでした。現に、足元の地面も焼け焦げていません。

「ほら、お前らもかかってこいよ」

 こちらを見回して、挑発するように指をくいくいと動かします。

「仕方ない……!」

 キミちゃんは「ホーキー」を手に身を起こします。

 わたしも鞄から鍵を取り出しました。ちらりと背後の水島をうかがうと、呆れたことにちょうど逃げ出そうとしているところでした。

「待ちなよ、ラン!」

 キミちゃんは、左鎖骨の下の「コーザリティ・サークル」に鍵を差しながら、水島に声をかけました。わたしも変身して、水島をじろりと見ました。

「逃げたくなるの分かるけど、みんなでかからなきゃ無理だよこれ!」
「みんなでかかっても、無理じゃない? これ……」

 泣き言言わないの、とキミちゃんはハンマーを構えました。

「来るか?」

 打たせてやる、と言わんばかりに、ブラックスターは両腕を広げて見せました。

「あの時は助けてくれたのに、どうして……?」

 助けた? ブラックスターは鼻で笑いました。

「珍しい『ディスト』がいたから、戦ってみただけだ。それともお前には、オレが善意で人助けするように見えるのか?」

 キミちゃんは言葉に詰まりました。ブラックスターに助けられた時のことを話した時、キミちゃんは「助けてくれた子の方が怖かった」と言っていたのですから。

「こうなったら……」

 ブラックスターの背後で、スミレは意を決したようにうなずき、槍を構え直しました。

 見覚えのある構え、これはあの時使っていた「フリント・ロック・ライトニング」などと呼んでいた技です。

 その先は目で追えませんでした。雷の音の速さで動くという突進攻撃、その槍の穂先がブラックスターに……!

「え……?」

 刺さりませんでした。電撃を帯びた槍は、ブラックスターに達する手前で、何かに阻まれているかのようにぴたりと止まっています。

「いい攻撃なんだがな……」

 余裕の素振りでブラックスターは肩をすくめます。

 その隙に、とばかりにキミちゃんがハンマーを振りかぶります。

 ブラックスターは、止めた槍の穂先を無造作につかむと、それをスミレごと振り回してキミちゃんのお腹へ投げつけるようにぶつけました。

「ぎゃっ!?」

 仰向けに倒れたキミちゃんの上に、スミレの体がかぶさります。その上から、ブラックスターは二人を足で踏みつけました。

 危ない、とわたしが風を呼ぶ前に、ブラックスターは鎌で二人を突き刺しました。

 重なった悲鳴が聞こえて、わたしは思わず目を背けました。

「やれやれ、もっと粘れよな……」

 嘲笑いながら、ブラックスターは鎌を引き抜いて、二人の体を蹴飛ばします。十字路に面した家の塀に体をぶつけ、ずるりと地面に落ちました。

「で、あと二匹か」

 こりゃ簡単な「狩り」だぜ。こちらに向き直って、ブラックスターは口元を歪めます。わたしは盾を自分の身に引き寄せました。

 ぴしりぴしりと、何かがひび割れる音が耳の奥から聞こえました。
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