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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十二]二つの「計画」

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12-1

「勇気を持って、自由意志で君の『計画』を止めようとしているのさ」
 

 キミヨ達が宇内市駅で異形型と戦った翌日の放課後、漆間アキナは人を探して校内を歩いていた。

 その日の昼休みに、ミリカやキミヨと弁当を食べがてら情報の共有を行った。

 キミヨから、謎の「ディストキーパー」の乱入も含めた昨日のあらましを聞き、アキナは一つの提案をした。

「ディアを問い詰めよう」

 ミリカやランの証言から、ディアがオリエの側にいることは明白に思えた。オリエ本人を問い詰めるのには抵抗があるが、ディアならば切り崩せるかもしれない、というのがアキナの考えだった。

「いや、オリエに比べたらマシってだけだけどさ」

 自信あんの、と心配そうなキミヨの目線に、つい本音が出てしまう。

「それでもさ、スミレはキミヨが押せば何とかなりそうだし、ランはもうオリエのことをうさんくさいと思ってるんだろ? だったら、もうオリエの仲間ってディアしかいないってことじゃん」

 説得してみる、とアキナはいうのである。

「できるの、説得?」
「まあ、多分……」
「拳以外で?」

 痛いところをついてくる。さすがは幼馴染だ。ミリカも青ざめたような顔で見てくるので、とりあえずこう言っておいた。

「まあ、極力使わないようにするよ。あたしもあいつとは付き合い長いんだしさ」

 そんなわけで、アキナは放課後にディアを探して校内を歩き回っている。

 こういう時に相手が目立つ容姿をしているのは助かる。この辺で見たって人がいたんだが、とアキナは三階の屋上へ通じる階段をのぞいた。

 ちょうど屋上の鉄扉の前に、白い髪の少女が立っていた。

「ディア」

 背中から声をかけたが、驚いた様子もなく彼女は振り返った。

「やあ、漆間アキナ。今日も元気そうだね。いっぱいに張った帆のようだ」

 お得意のたとえを持ち出す彼女に、アキナは階段を上がって詰め寄った。

「何だい?」
「話がある」

 時ならぬ雰囲気にも、ディアには怯んだ様子はない。へえ、と肩をすくめた。

「それは興味深いね。君が『話がある』だなんて」

 くつくつと笑って、でも残念だ、と首を横に振った。

「先約があるんだ、この向こうでね」

 屋上へ通じる鉄扉をディアは親指で指す。普段は施錠されいるが、「ホーキー」を用いれば中に入るのはたやすい。

「相手は誰だ? オリエか?」

 おや呼び捨てかい、とディアは目を丸くする。

「ご明察、その通りさ。琥珀の女王さまから呼び出しを受けてね」

 これは、とアキナは考える。踏み込むべきか、引くべきか。

 恐らくは、「計画」のことに関する打ち合わせだろう。もしかしたら、最後の詰めなのかもしれない。

 二人が一緒にいるところを押さえるチャンスとも言えるが、戦闘になった場合を考えると分が悪い。拳は最終手段とは言え、使わないで済むとは考えていなかった。

 どうする? 引くか、進むか。

 考えていたのはほんの一瞬だった。すぐに結論は出る。

 引くなんてこと、あたしにはあり得ない。パサラはアキナの気質を「進む炎」と評した。正にその通り、進み続け燃やしつくす、それがあたしのやり方だろう。

「ちょうどいいな、そいつは」

 アキナは不敵に笑って見せた。

「あたしは、どっちにも話があるんだよ」

 そうかい、とディアは透明な宝石のはまった「ホーキー」を用いて、屋上の鉄扉を開いた。

 二人は屋上を歩き、やがてフェンスの端で地上を見下す立花オリエの姿を見つけた。どことなく物憂げな様子の彼女は、二人に気づいて振り返った。

「二人連れとは珍しいわね」

 オリエはその口元に微笑をたたえて続ける。

「援軍でも連れてきたつもりかしら?」
「いいや、違うよ。漆間アキナはわたしと君に用があるそうだ。そして君も、わたしに用があるという」

 あら、そうなの? オリエは小首を傾げてアキナを見た。

「アキナ、少し待ってくれるかしら?」

 わたしの用は簡単なことなの、とオリエはお願いするように手を合わせる。

「席を外せ、ってことか?」

 そいつはできない、とアキナは突っぱねる。

「どうして?」
「お前らの『計画』を、あたしは止めなきゃならない」

 いきなり直球をぶちこんだ。キミヨが傍にいたら「ちょっと!」と止めるところだろうが――あれこれ策を弄するのは性に合わないのだ。

「『計画』、ね……」

 いいわ、とオリエの双眸が鋭さを増す。

「アキナ、そこで聞いていなさい。あなたは大きな勘違いをしているようだから」
「勘違い?」

 アキナの問いに答えず、オリエはディアに向き直った。

「それで、何の用だい? こんなところまで呼び出して」

 傍目には和やかに感じられるが、アキナはディアとオリエの間に横たわる緊張感に気がついた。この雰囲気、まるで敵同士だ。オリエの言う勘違いとは、このことなのか。

「簡単な質問よ」

 オリエは細い人差し指を立てた。

「あなたは何者なの?」

 確かにそれは、この上なく簡単な質問だった。だが、「何者」という問いには、「お前は人間なのか」という意味すらこもっているかのように聞こえる。

「そんなの決まってる」

 やれやれ、と言わんばかりにディアは肩をすくめた。

「わたしはわたしだよ。十和田ディア。クリスタルの名を持つ『ディストキーパー』さ」
「あら、とぼける気?」

 オリエはきゅっと目を細めた。

「二か月前、あなたは急に現れて、さも昔からいたかのような顔で溶け込んでいる」

 そう、あの時。オリエは痛みをこらえるように、一拍の間を置いた。

「成田トウコが死んだ後よ」

 おや、という顔をディアはした。アキナも目を見開く。

 成田トウコ? それは、ミリカの世界にいたという「ディストキーパー」の名だ。こちらの世界では、ミリカの予想通り死んでいたようだ。

 しかし、死んだのは二か月前だって? ならばどうしてあたしはそいつのことを知らないんだ。「インガの改変」でいなかったことになったとしても、「ディストキーパー」の記憶は消えないはずなのに。

「――そうか、気付いてしまったんだね」

 ディアは腕組みして、もったいぶった様子で息を吐いた。

「ええ、わたしとしたことが、時間がかかってしまったわ」
「卑下することはないよ。普通の『ディストキーパー』ならば、決して気付けないから」

 普通の「ディストキーパー」ね。オリエも一つ大きく息を吐いた。

「そう。あなたは明らかに、普通の『ディストキーパー』ではない」

 そして、それはもう一人……と、アキナをオリエは横目で見やる。

「あたし?」
「いいえ。あなたと一緒に何かこそこそやっている子よ」

 アキナはぎくりとする。ミリカのことも、気付いてるのか?

「ならば問おう、立花オリエ」

 腕組みを止め、ディアはオーケストラの指揮者のように両腕を広げた。

「君はわたしのこと、何だと思っている?」

 その素振りに、オリエはほんの一瞬だが珍しく苛立ったような表情を見せた。

「そうね、自分勝手に『インガ』を弄り回す神さま気取り、といったところかしら」
「自分勝手に、だなんて、砂糖まみれの甘い見解だよ」

 そこまで自在に操れはしないんだよ、とどこか自嘲気味にディアは笑う。

「現に、君はいつも誤魔化せない」
「いつも?」

 オリエは眉を寄せた。

「どういう意味? まさか、あなた何度も――」
「だけどさ」

 遮るように、ディアは声を張った。

「そう正にいつものように、だ。気にせず『計画』を実行してくれればいいんだよ」

 オリエは横目でアキナを見やる。

「なるほど、『計画』のことを把握している割に、えらく迂遠な方法をとっているのは、何かしら別の狙いがあるようね……」
「何だよ……」

 じっとアキナはオリエの視線を見返した。オリエは簡単に目線を外した。というよりも、用はないとばかりにディアの方へ戻した。

「ああ、把握しているとも。それこそ、胸ポケットの中に入ってるぐらいに」

 ディアは胸を叩いて見せた。

「葉山ミリカを手駒にして、一体何を企んでいるの?」
「手駒か。その表現は半分正解で、半分間違いと言えるね」

 ディアは人差し指を振った。

「確かに、葉山ミリカをこの世界線に連れてきたのはわたしだ」

 世界線という言葉で、アキナはキミヨが説明した平行世界のことを思い出す。ノートに引かれた二本の線、本当にミリカは平行世界から来たらしいが、それはこのディアが企んだことだった――?

「だけど、彼女は手駒じゃない」
「ならば、何?」
Mut(ムート)、勇気を持って、自由意志で君の『計画』を止めようとしているのさ」

 今度こそ、大きな嘲笑をオリエは上げた。

「とんだ皮肉ね。あんな『何となくの化身』のような子に、勇気や自由意志だなんて」
「えらく彼女に厳しいじゃないか。あるいは、君と葉山ミリカの結末は、偶然のように見えてその実、必然だったのかもしれないな」

 ともかくだ、とディアは何が楽しいのかにっこりと笑う。

「立花オリエ、君は気にせず『計画』を進め給え。わたしはそれをぶち壊したりはしない。少々邪魔立てはさせてもらうがね」

「あら、とんだ上から目線ね」

 口の形は笑みに歪んでいたが、オリエの目は鋭くディアを射抜くようだった。

「わたしを攻撃するのかい?」
「……やめておくわ。無駄なことはしない主義なの」
「さすがに、賢明だね」

 腕を下したオリエに、ディアは背を向けた。そのまま歩き去ろうとしたディアを、アキナは呼び止めようとした。だが、そこでオリエから発せられた殺気に気付く。

「でもね、憂さを晴らしたいと思うこともあるの」
「後ろだ!」

 振り向いたディアの眼前で、琥珀が炸裂する。もろに爆発を食らって、ディアの右半身が吹き飛んだ。

「ぐあ……」

 地面に転がり、体から煙を上げて痛みに声を漏らすディアを見下し、オリエは琥珀のはまった「ホーキー」を取り出すと、それを自らの舌の上に浮かんだ「コーザリティ・サークル」に差し入れて変身した。

「シュ、マ……む、無茶苦茶するなあ……」
「あなたを殺しても、どうせ『本体』は痛くもかゆくもないのでしょうけど」

 個人的に鬱陶しいから殺しておくわ。息も絶え絶えのディアに、オリエは背中の巨大な輪から琥珀を飛ばす。

「やめろ!」

 アキナは急いで変身し、ディアをかばうように飛び出すと、琥珀を蹴り落とした。

「……退きなさい!」

 普段からは考えられないぐらいに感情をむき出しにして、オリエは追撃の琥珀を飛ばす。ランダムな軌道を描くそれらの動きを見切り、アキナはすべて叩き落とした。

「邪魔する気? 今のあなたでは、逆立ちしたってわたしに勝てないというのに」
「何かよく分かんないんだけどよ……」

 本当に分からないことだらけだった。だけど、今ここでディアを殺させてはならない。それだけは分かるような気がする。

「お前とディアは、同じ『計画』を進める仲間じゃないのかよ?」

 はあ? とオリエは眉をしかめる。

「あなた、さっきまでの会話を聞いていたの? ディアはわたしの『計画』を止めようとして、葉山ミリカを使ってあなた達をけしかけて……」

 ん? ともう一度オリエは首をひねる。

「ちょっと待ちなさい」

 オリエは大きく息をつくと同時に、変身を解いた。

「一旦、状況を整理しましょう」

 自分から攻撃を仕掛けてきたくせに、落ち着けというような手つきをする。

「一度、あなたとわたし、二人だけで話した方がいいわ」
「二人?」

 後ろを見ると、その背にかばっていたはずのディアの姿はなくなっていた。

「あいつ、いつの間に……」
「そういうものなのよ、アレはね」

 何だか毒気が抜かれたようになって、アキナも変身を解いた。
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