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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十一]黒き星の影

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11-3

「死ね」
 

 異形型との戦闘中、追い詰められたキミヨたちの前に、突如として現れた漆黒の「ディストキーパー」。彼女は、ゆっくりとキミヨの方を振り向いた。

 長い黒髪をツインテールでまとめ、高い身長から見下ろしたその目つきは鋭く、ひやりとするものだった。

 彼女の周りには、飛んできたのだろうねじくれた角が散乱している。恐らくは、彼女の担いだその得物――大鎌で薙ぎ払ったのだろう。

 声を掛けようにも、しびれのせいで何も言えない。漆黒の「ディストキーパー」はツインテールの片方から影のようなものを伸ばすと、それでキミヨとスミレを体表を撫でた。

 ひやりとした感触が過ぎ去った後には、粘液の感触としびれが消えていた。どうやら、ふき取ってくれたらしい。

「あ、ありがとう……」

 キミヨがお礼を言った時、異形型があの虫のような素早さでこちらへ突進してきた。さっきまでの緩慢さがウソのような素早さ、まるで重くした効果が急に解けたかのようだった。

 危ない、と言う間もなく、漆黒の「ディストキーパー」は異形型の前肢に捕えられた。

 食べられる! そう思った時、彼女の両のツインテールが影をまとって太さと長さを増した。その先端は人の拳の形に代わり、異形型の前肢をつかみ返した。

「ッシャラぁ!」

 漆黒の「ディストキーパー」が獣めいた雄叫びを上げると、腕と化したツインテールが異形型の前肢を引きちぎった。「ディスト」特有のあの声が悲鳴のように響き渡る。

 自由になった彼女は大鎌を手に取る。ツインテールから影が染みだし、彼女の体を伝うようにして今度は大鎌の先端に集まり、影色の巨大な刃となった。

「死ね」

 より鋭く巨大になった大鎌を、漆黒の「ディストキーパー」は無造作に振り下ろす。柔らかいケーキに包丁を入れたがごとく、異形型の巨体を真っ二つに斬り裂いた。

 笑ってる。

 前肢を引きちぎられ真っ二つになった異形型を前に、漆黒の「ディストキーパー」は、面白くって仕方ないという顔をしていた。幼い子どもが戯れに虫の足をもいだ時のような顔だ。

 助けられている側なのに、キミヨは背筋がぞくりとした。

 二つに分かれた体から鉄色の繭のようなものをごとりと落とし、異形型は塵となって消えた。漆黒の「ディストキーパー」は笑顔を消して、物憂げにそれを見下すと、興味が失せたのか歩き去ろうとした。

「待って!」

 その背中に、キミヨは声をかけた。

「ありがとう、その……助けてくれて」

 彼女は振り返ると、キミヨの顔を見てまた笑った。今度は声を出して笑った。哄笑は灰色の「インガの裏側」中に響くように大きく、キミヨはゾッとする。あの異形型を前に死を覚悟したのと、同じ感覚が蘇ってくる。

「お前、どこの『ディストキーパー』だ?」

 叫びでも単語でも笑い声でもないその声は少し低い。声変りをしていない下の弟みたいなトーンだ、とキミヨは思う。

「ふ、鱶ヶ渕、だけど……」

 そう応じた瞬間、キミヨは彼女の持つ大鎌で斬り裂かれたような感覚を覚えた。いや、違う。彼女はあそこに立ってるし、胸元をさわって確認する、斬られてなんていない。

「そうか、お前らがねえ……」

 にやりともう一つ笑って、彼女はまたキミヨに背を向けた。もう声をかける気になんてなれない。ただ会話しただけなのに、異形型と戦うよりも疲れていた。歩き去る彼女の背中を、キミヨはへたり込んで見送った。

「ん……」

 隣で声がしたのでそちらを見ると、スミレが目を覚ましたようだ。

「あれ、あいつは……?」
「知らない『ディストキーパー』が、助けてくれた……」

 説明しながら、どこの誰かを聞くことすらできなかったな、と気付く。互助会の人なのか、この宇内市の近辺の「ディストキーパー」なのか、それともオリエが言っていた「ノマド」というやつなのか。

「すごく強くて、一撃で倒しちゃって……」

 ゾッとするくらいに、と内心で付け加える。

 スミレはあまり興味なさそうに、「ふうん」と鼻を鳴らした。

「そういえば、ランちゃんは?」
「あ……!」
「逃げたの?」
「ううん、丸呑みにされて……」

 真っ二つになってたけど、大丈夫かな。異形型が斬り倒されたところを見ると、鉄色の繭がまだあった。

「丸呑みって、死んじゃったんじゃないの?」
「滅多なこと言わないでよ」

 自分もそれで死にそうだったくせに、とまではさすがに言わなかった。

「あの繭の中かな? 体の中から出てきたし」
「小っちゃいあの『ディスト』が詰まってたりして」
「嫌なことばかり言わないの」

 わらわらと出てくる数えきれない小さい異形型の群れを、一瞬想像してしまった。

 二人で繭に近付くと、金属が引き裂かれるような音を立てて繭が砕けていく。

 中をのぞき込むと、ランがその身を守るように丸くなって目を閉じていた。気絶しているらしい。

「これ、なんなんだろうね?」

 砕けた繭の破片をつつくスミレに、キミヨも首をかしげて見せた。あの異形型の能力なのか、それともランの力なのか、見当がつかない。

「とりあえず、パサラに報告するね」

 呼びかけると、やや間があった後パサラは応答した。キミヨは少し考えて、謎の「ディストキーパー」のことは伏せておくことにした。「ディスト」は自分たちで倒した、と報告すると、パサラは特に気にした風もなく、「そうかい、お疲れ様」と通信を打ち切った。パサラにしてみれば、「ディスト」を倒せれば何だっていいのかもしれない。

 ただ、あの目。鱶ヶ渕だとキミヨが答えた時の彼女の目、今思い出しても身震いする。

 近いうちに、また出会うのではないか。そんな予感がしていた。
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