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Chapter:9 閑話休題、孤島にて
Episode:86
◇Tasha side

 月明かりが、辺りを照らしている。
 気晴らしと涼を取るのを兼ねて出てきた外は、思っていたより快適だった。このまま外で一晩過ごしたほうが、いいくらいだ。
 どういう理由か例の屋敷は、室内を冷やすということをしていない。そのせいで夕食後、若干ではあるが持参した例の資料に目を通していたのだが、いまひとつ頭に入らなかった。

 こうして歩いている庭も、意外なくらい暗い。節約なのか別の理由なのか、屋敷の内外は魔光灯があまり点いていなかった。
 内装には贅を尽くしているにもかかわらず、冷やさなかったり明かりをほとんど点けないのを面白く思いながら、裏庭を抜けて歩を進める。

(さて、どうしたものですかね……)
 よぎるのはシルファのことだった。

 黙って準備をしていたのは、二人での旅行を計画した際に、ついでに驚かせたいというのが出てきのだろう。
 ただ、それが次第に、驚かせたうえで旅行をしたい、という目的にすり替わってしまってしまったらしい。

 こちらにしてみれば学院を発つ直前、もしくはベルデナードから連絡した際に打ち明けてくれれば、都合をつけることができた。だがシルファは前者の時は動揺して、後者の時は最後の一言で頭に血が上ってしまって、言えなかったのろう。

(目的がすり替わってどうしますか……)
 まぁその辺り、らしいと言えばそうなのだが。
 シルファ本人が隠し切れていると思って、何か企んでいるのを見るのは可愛いと思うし、それを迷惑に思ったことはない。

 今回も結果的にこんなことになり、シュマーの総領であるカレアナに呼び出されはしたが、シルファに対して負の感情は抱いていなかった。
 一方で彼女が怒っているのは……要するに、気持ちの整理がついていないのだろう。しかもその状況でいきなり会ったために、現状、全ての想いをあんな形でぶつけてきている。

(困りましたねぇ)
 普段ならそっとしておいて、シルファが落ち着くのをただ待つのだが。

 片をつけようと思えばあっさり片付くのかもしれない。
 ただ、こうも思う。
 本当にそれでいいのか、と。

 先ほどの会話が浮かんでくる。もっと構え、喜ぶことをしてあげろ、と。
――だが。
 学院やケンディクでの、恋人同士のべたべたした、甘ったるい言動を思い起こす。
 シルファがああいったのを望んでいるとは思えないし、そもそも望まれても自分には無理だ。

 そして、何よりも自覚していることがある。
 他人に何かをして欲しいと思わないだけに、他人に対して何かをする、ましてや喜んで貰おうという考えが、欠落していることを。

(良い機会なのかもしれませんね)
 自分自身のシルファへの、そしてシルファ本人が己の感情を見直すのに、だ。

 学院で最後に顔を合わせてから今日まで、およそ3週間。一緒に居るようになってから、これほど長く顔を合わせなかったのは、初めてのことだった。
 とは言うものの彼女の実家を調べていたこともあってか、普段よりもシルファのことを考えていたような気がする。

 現状、自分に最も近しい他人。
 単純に構うだけなら、できるとは思う。声をかけ、誘い、話せばすむことだ。
 だがやはり……それは何か、違う気がした。




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