「私たちも……戻るか?」
他に誰も居なくなってがらんとした庭に、なんとなく言う。
「……ですね」
二人で日の傾きかけた庭を、屋敷のほうへ戻る。
夕暮れが迫るたび、少しだけ憂鬱だった。
休みの終わりが近い。あと数日のうちには、学院に戻らなければならない。
分かってはいるのだ。何も考えず、ただ帰ればいいのだと。
なのに、躊躇う自分が居た。タシュアの事を考えるたび、どうにも複雑な気持ちで、ずっとここに居たくなる。
帰ればタシュアは、何ごともなかったように私を迎えるだろう。そのことが癪に触った。
いろいろ立てた計画も、ホテルの予約も何もかも、なかったことになってしまう。私一人が、右往左往しただけになってしまう。
ワガママだとは思いながらも、やっぱりそれは嫌だ。
そんなことを考えながらルーフェイアと一緒に屋敷へ戻ると、先客が居た。
「姉さん!」
嬉しそうに、この子が駆け寄る。
同じような金髪に碧い瞳の……車椅子の女性。年齢は、私より上だろうか? 二十代の半ばくらいに見える。
姿は似ているが、ルーフェイアのような優しさや儚さよりは、強さを感じる人だった。
「姉さん、いつ来たの?」
「さっき、着いたところよ。
――ルーフェイア、そちらが先輩かしら?」
彼女の言葉に、慌てて頭を下げる。
「おじゃまして……すみません。シルファ=カリクトゥスです」
私の挨拶に、彼女が微笑んだ。
「こちらこそ、挨拶するのが遅れて申し訳ありませんでした。サリーアと申します。ルーフェイアの従姉ですわ。
シルファさんのことは、ルーフェイアからよく聞いております」
丁寧な言葉遣いに、にこやかな表情。だがなぜか、圧倒される。
「何かご不自由なことがないと、いいのですけど。ここの者にはよく申し付けておきましたが、大丈夫でして?」
この人を前にして「問題がある」と言える人が、いるのだろうか。一瞬、そんな思いが頭をよぎった。
理由が分からないが、ともかくそういう感じの人なのだ。
「何かあったら、遠慮なく言ってくださいね。ルーフェイアはこのとおり、抜けた子ですから」
「姉さん……」
「あら違ったの?」
少し怒ったようなルーフェイアと、面白そうに笑う従姉のサリーア。どうやらここでもルーフェイアは、オモチャにされているようだ。
拗ねる様子が可愛くて、気の毒と思いながらも、私もつい笑う。
サリーアが、ルーフェイアの頭を撫でてやりながら言った。
「お夕食はどうなさいまして? もしご予定がなければ、私もご一緒させていただければと、思うのですけれど」
「あ、はい、もちろん」
気づくとそう、答えていた。だいいちこの状況で、断れるわけもない。
この女性が、にっこりと微笑む。
「嬉しいですわ、許していただけて」
言葉遣いといいしぐさといい、ルーフェイア以上にしとやかそうだ。どこかの貴族の娘と言っても、通用するかもしれない。
そこへ、ここの人らしい男性が来た。私たちの手前で止まって、丁寧に一礼する。
サリーアが私たちに会釈して、男性を近くへ呼び寄せた。
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