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Chapter:4 ノネ湖にて
Episode:58
「ここへって……診療所の、手伝いですか? でも私は、医務官の授業はほとんど……」
 応急手当などはひととおり学んだが、それだけだ。何より人を相手にするのは、私は苦手だった。
 だがそれを、どう言ったらいいものか。

 黙ってしまった私に、先輩が言う。
「嫌なら、診療所は手伝わなくて構わない。そういうのを一切抜きにして、ここへ来てくれないか?」
 ますます意味が分からない。

「誘っていただけるのは、ありがたいですけど……でも、あんまりそれじゃ、来る意味が……」
 まさかここへ来て、毎日観光するわけにもいかないだろう。
 それから思い当たる。

「もしかして、この村の……警護に、ですか?」
 だとしても何年も先の話で、それまでにどこかと契約するだろうから、私の入る余地があるかどうか。

 とはいえ、そう悪い話ではないだろう。のんびりしたところだし、今日のような騒ぎはそう多くない。医師をしている先輩の口添えがあれば、雇ってもらえそうだ。
 もちろん、それまで先輩がここに居れば、だが。

「それなら、考えてみます。それでもし、雇ってもらえそうなら……」
「そういう話じゃないんだ!」
 とつぜん先輩が語気を荒くして、私は思わず黙った。何か、根本的に食い違っているらしい。

「えぇと……つまり、どういう……」
「だからそういうのは抜きにして、一緒にここで暮らさないか、って言ってるんだ」
「……え?」
 さっき以上に意味が分からなくて、考え込む。住むところを提供してくれるのかとも思ったが、なんとなく違う気がした。

 悩む私に、先輩がさらに言う。
「だから、タシュアと別れたんだろう?」
「……勝手に決めないでもらえますか?」
 自分で自分の声が、冷たくなるのが分かった。

「勝手にも何も、夏休みの旅行にタシュアとじゃなく、後輩と来てるじゃないか。そう言うことなんだろう?」
「いい加減にしてください!」
 気づいたときには、強く言い返していた。

「たしかにタシュアとは来てませんけど、それとこれとは別です!」
 なんで私が、こんな思いをしなければいけないのか。
「あとは、自分でやりますから! 失礼しますっ!」
 鞄を掴んで部屋を飛び出す。後ろで何か先輩が言ってるようだが、聞く気もなかった。

 なんで私が、またそう思う。
 せっかくお金を貯めて予約も取ったのに、タシュアが勝手に出かけたせいで台無しだ。
 しかも、こんなことまで言われるなんて……。
 新しい部屋のドアを、八つ当たり気味に勢いよく開ける。

「……先輩?」
 私の勢いに驚いたのだろう、どこか怯えたような表情の、ルーフェイアが居た。
「あの……?」
 強引に抱き寄せる。

 まるで枕か何かの代わりだが、この子は逃げなかった。満足そうに、身体を寄せてくる。
 こんな私に対する、絶対の信頼。
 やわらかい金髪を撫でているうち、気が静まってきた。伝わってくる子供特有の高い体温が、私の中の何かを溶かしていく。

「――ルーフェイア、何が食べたい?」
 訊くと、この子がきょとんとした表情を見せた。
「えっと、えっと……」
 急に言われて焦っているのだろう、困るようすが相変わらず可愛らしい。
 この子が文句を言わずについてきてくれて良かった、そう思いながら言う。

「今日は、とびっきり美味しいものにしよう」
「はい!」
 ルーフェイアの顔に、嬉しそうな微笑みが広がった。



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