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Chapter:3 ルアノンにて
Episode:42
◇Rufeir
 森の中は、どこまでも静かだった。
 見上げても、空はほとんど見えない。厚い緑の隙間から、ちらちらと覗くだけだ。
 整備された遊歩道を歩く、走竜の足音だけが響く。

 昨日の大峡谷と違って急斜面はないけど、大森林というくらいだから、徒歩じゃ回りきれない。かといって人造の乗り物だと、森を傷めてしまう。
 そんな理由で、ここも走竜が使われていた。

 あれほど逃げ回ったのに、この森のようすを、あたしはほとんど覚えていなかった。遊歩道があることにさえ、気づかなかったくらいだ。
「まぁ歩道があるとこなんて、一部だしな」
 広い森だから通りかからなかったんだろうと、イマドは言う。

 いまあたしたちは、森の奥を目指してるところだった。
「この座標だと、途中からは道もねぇな」
「ごめん……」
 つい謝る。

 2年前敵に追われて、兄さんとあたしはこの森の奥深くに逃げ込んだ。だから、道なんてあるわけがない。
 ただそれでも、血の跡を辿られて見つかって……。
 どうしようもなかったと、わかっている。二人とも死ぬか、片方だけでも生き延びるか。そういう状況だった。

 でも、今も納得は出来ない。
 もしかしたらほかに、何か方法があったんじゃないか。もっと早い時点で違うルートを取ってたら、助かったんじゃないか。そんな思いが常にある。

「この先ははぐれないように、気をつけたほうがよさそうだな」
「まぁ、ひたすら北へ行きゃ、どうにかなりますけどね」
 先輩とイマドが、そんな会話をしている。

 行くべき場所は、わかっていた。
 あのとき停戦になってから、家のほうから兄さんの捜索隊が出された。彼らはとても頑張ってくれて……でも兄さんは、遺体で見つかった。
 その正確な位置が、夕べ峡谷から帰って来て問い合わせたら、わかったのだ。

――思っていたよりずっと、ルアノンの町に近かった。

 兄さんと別れてから町まで丸3日かかったから、もっと遠いと思ってたのだけど、日の出とともに出れば、徒歩でも午後には着くだろう。疲れて消耗していたのと、森のなかだったのと、敵の目を逃れながらだったのとで、時間がかかってしまったらしい。

「おい、あれじゃないか?」
 言ってイマドが走竜を止めた。
 あたしも、緑の間に目を凝らす。

「あの、泉……?」
「ほかにこの辺、泉はここだけって聞いたし。間違いねぇと思う」
 実家からの話だと、兄さんはこの森の中、泉に手を入れた格好で見つかったという。火傷が酷かったから……水を求めて、そこまで来て力尽きたんだろう。

 涙があふれるのを、止められなかった。
 走竜を泉に寄せて下りる。
 水の中に手を入れる。
 熱くて苦しくて、この冷たさにすがったんだろう。

「兄さん、ごめん……」
 自分も死んでしまいたかった。兄さんを死なせて、なのに生きている自分が許せなかった。




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