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Chapter:2 アヴァンにて
Episode:29
「もう1匹いるか?」
 一匹丸ごとといっても、所詮は小魚だ。もう半匹くらいは食べられるだろう。
「え? あ、でも……」

 欲しいのに言えない。どうみてもそんな様子のルーフェイアが、可愛い。
 頭を撫でてやってから、立ち上がった。
「ここで待ってるんだ。もう1匹買ってくる」
 先程の屋台へ行く。

「おや、どうしたんだい? まさか気に入らなかったのか?」
「いえ、あの、魚を……」
 なんだか気押されながらも答える。

「魚? うちのは旨いぞ。それとも、そんなに不味いか?」
 更に予期しない方向へ話が転がった。

「いえ、ですから、その……もう1匹……」
「おぉそうか! そうだろそうだろ、なんせうちのは旨いからなー」
 いろいろな意味で、思い込みの激しい人のようだ。

「ほら、持ってけ持ってけ。
 ん? たった1匹か? ダメだダメだ、育ち盛りなんだから、せめて1人1匹づつだろ。
 え? あの子じゃ食べきれない? あーじゃぁ、この小さいのを持ってきな」

 また押し付けられる。
 だがさすがに、2度もタダというわけにはいかない。それをどうにか、屋台の店主にやっと伝えると、彼が笑い出した。

「律儀なお姉ちゃんだなぁ。分かったよ、こんだけ置いてきな」
 言われたとおりのコインを置いて、ルーフェイアのところへと戻る。

「――? 先輩も、ですか?」
「いや……まぁ、そうだな」
 いきさつを話そうかとも思ったが、そうするとまたルーフェイアが落ち込みそうな気がして、私は言葉を濁した。

「ともかく、食べないか? 熱いうちがいいだろうし」
「はい」
 不思議そうな顔をしていたこの子だが、それ以上は言ってこなかった。素直に魚に口をつける。

――タシュアなら、思い切り何か突っ込んだだろうな。
 彼はこういうことは、絶対に見逃さない。
 瞬間、また怒りがわいた。タシュアのために、せっかくあれだけ用意したのに……。

「あ、あの、先輩?」
 はっと気づくと、どこか怯えた風の、華奢な後輩が目に入った。
 心持ち身をすくめ、おどおどと視線を落とすルーフェイアは、今にも泣き出しそうだ。
 驚かせて、怖がらせたのだと悟る。

「――ルーフェイア」
 そっと呼んで、抱き寄せた。
「悪かった。私の……個人的なことだ。ルーフェイアは悪くない」
 腕の中から、安心した様子が伝わってくる。きっと自分が何かしたせいだと、勘違いしたのだろう。

 可愛かった。そして可哀想だった。
 あれに似た気持ちは、私も覚えがある。ずっと昔だが、今も時折心をよぎって、辛くなることがある。

 息をひそめて。目立たないように、怒らせないように、追い出されないように。
 そうやってただ黙って、どこかの隅で過ごす日々。
 学院へ来る、ずっと前の話だ。

 脅かされることのない居場所が欲しかったのだと、今ならば分かる。だが当時はそんなことは分からず、ただただ縮こまっているだけだった。
 この子もまた、そうなのだろう。

――ならば、この旅行でなおさら。
 楽しませてやって、笑顔が見たい。心からそう思った。





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