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Chapter:2 アヴァンにて
Episode:16
「こっちは、空いてますよね? それもダメなら……他へ、回りますけど」
 よく分からないことを言いながら彼女が差し出したのは、1枚のカードだった。
 何で出来ているのか完全な透明で、内部に小さな記録石と、1本の金のラインとがある。だが、文字などは一切なかった。

「これが何か?」
「ご存知、ないですか?」
 が、偶然奥から出てきた別のフロント係が、そのカードを見て血相を変えた。手に持っていた書類を、放り出す勢いで駆け寄ってくる。

「君、このカードを知らんのか!」
 応対していた男性を叱って下がらせた後、彼は私たち――正確にはルーフェイア――の方へと向き直った。

「大変失礼いたしました」
「えっと、チェック、お願いします」
 カードを受け取ったホテルマンが、再度青くなる。

「ぐ、グレイス様?!」
 あり得ない存在に遭遇したような、そんな慌てぶり。
 ふと、思い出す。確かタシュアは、ルーフェイアのことを「代々続く家の跡取り娘」と、言ってなかっただろうか?
 あの時はそんなものかと聞き流したが、その家というのは、相当のもののようだ。

「あの、あんまり大きい声で……言わないで……」
「申し訳ございません」
 傍から見ていても既に、お客とホテルマンというより、屋敷の主人と使用人、という感じに近かった。

 当然、私は蚊帳の外なわけだが……。
 ただ、どこまでもルーフェイアが丁寧なのが、見ていて可笑しかった。高飛車にならないのは、いかにもこの子らしい。

「例のお部屋でよろしいでしょうか?」
「あ、えっと……」
 この子が私の顔を見る。

「あの、先輩、えっと……どうしましょう?」
 どうしようと訊かれても、実際には私も、どんな部屋か分からないのだが。
 とはいえ、この子を困らせるのも可哀想だった。

「ルーフェイアがいいと思うようにしてくれ。助かる」
 これからホテル探しをすることを思えば、泊まれるだけでも十分だ。ましてやこの扱いで、文句があるわけもなかった。
 答えを聞いて、ルーフェイアが安心した表情になる。

「あの、学校の先輩と一緒なので、そういうふうに……できますか?」
「かしこまりました」
 別のホテルマン――といっても、きちんとしたスーツに蝶ネクタイ――が呼ばれて、私たちに一礼する。荷物の方は、専門の運ぶ人が預かった。

「館内をご案内致します」
「お願い、しますね」
 ルーフェイアはにこにこしているが、私の方は戸惑うばかりだ。
 そのまま成り行きで一通りホテル内を案内され、昇降台へと乗り、別館らしいところのかなり上の方の階へ着いた。

「こちらのお部屋をお使い下さい」
 ドアの内側の様子に呆然とする。

――普通に泊まったら、いったい幾らするんだろう?

 そのくらい、立派だった。寝室や応接室、食堂など何部屋にも分かれていて、ベッドも大きいサイズだし、どの家具も相当の高級品だ。
 その中でホテルの人が、いろいろと中の備品や呼び出し等について説明していた。
 ルーフェイアは慣れているのだろう。すでにちょこんと座って、用意してもらった飲み物を手にしている。




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