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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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事後処理ですが、なにか? 

 完爾が変身済みギミック使いニ体を瞬殺した日からその出来事を報道した週刊誌が発行されるまでの数日中、完爾も世間の人々も別に時間を止めていたわけではなかった。
 主としてSNSに出来事に関する写真や実況記事がアップされ、それをまとめて一覧できるようにしたサイトが出現するまでに半日もかかっていない。

 後日発行される週刊誌はこれらweb上の内容に様々な裏付けを行った上で再編集した内容であり、完爾の十八年間謎の失踪をしていた過去や半年ほど前に子連れで突如出現したユエミュレム姫の存在、そのユエミュレム姫の手記が城南大学のサーバ上に学術的な資料としてアップロードされていることまで、
「短期間でよくここまで調べたものだ」
 と、完爾が感心する程度のことは網羅されていた。
 時間も紙幅も限られ、様々な制約があった上でここまで調べあげたプロの手腕に、完爾はむしろ感心した。

 完爾や千種も、こうした興味本位な媒体に取り上げられることは以前より想像してはいた。
 そのときもいろいろと話し合ったものだが、結局は、
「仮にマスコミの標的にされることがあっても、しばらく放置しておけば静まるだろう。
 そうなったら、慌てず騒がず堂々と受け答えをしてやり過ごすことにしよう」
 という結論に至ったのだった。
 基本、この国のマスメディアは移り気でたったひとつの話題に対して長期的に食いつくという事をしない。
 嵐が来るのであれば、それが通過するまで頭を低くしてやり過ごそう、というわけである。

 そうした話し合いをした当時と現在を比較すると、状況的にいくつか異なっていることがあった。
 まず、完爾の近くにユエミュレム姫や暁が存在していること。
 次に、完爾が事業を立ちあげている経営者であること。
 最後に、今世間を騒がせ、従って注目も集めているギミック使いたちの一件と完爾の会社が扱っている商品とが関連づけて考えられはじめていること。
 その週刊誌は記事中でいくつかの大学や企業に完爾の店で販売している商品を持ち込み、その加工法について推測をさせていた。
 どうやってその素材でそんな強度を出せるのか、と首を捻る専門家が大半であった。
「……こんなことができるのなら、もっと実用的な方面に利用した方が……」
 とか、
「これは……既知の技術体系では、絶対に製造できません」
 という意見が頻出した。
 その週刊誌が発行されたその日から、完爾の自宅と会社の電話がひっきりなしに鳴り響き、取材許可を求めてきたのはそうした嫌疑があったためである。
 魔法のような加工技術を持ち、しかも外部に対してはその方法を一切漏らそうとしない完爾の会社が、あのギミック類の製造に関与しているのではないか、と。
 もしそうであるのならば、不思議な完爾の経歴などとは違って、今現在世間を騒がせている事件の一因に、完爾が関与していることになる。
 報道する側としては、なにがなんでも直接取材をして裏を取りたいところなのだろう。

 前述した通り、完爾がギミックにより変身した万引き犯を捕らえてからその週刊誌が発行されるまで、わずか数日とはいえ時間的な猶予があった。
 完爾たちがその時間を無駄にするわけもない。

 万引き犯を捕まえたその日、完爾は駅前の携帯ショップに寄って新しいスマホを契約した。
 これは、ユエミュレム姫用のものであって、これから自宅の固定電話に不用な着信が殺到することを考慮して連絡用に持たせるつもりだった。
 もともと門脇家の固定電話の使用頻度は多くはない。
 五月蠅くなったプラグを引っこ抜いて放置しても支障がないくらいであり、それにぼちぼちユエミュレム姫専用の回線を契約してもいいかな、と思っていたところでもある。
 昼間にも一度、隙間の時間を使用してユエミュレム姫に連絡を取り、ざっと事情を説明しておいたのだが、帰宅してから新たに契約したスマホをユエミュレム姫に渡し、さらに詳しく一連の成り行きと今後予想されるであろう外部の動きについても説明しておいた。
 ユエミュレム姫はユエミュレム姫で、昼間完爾から一連の情報を受け取ってからずっとネットで検索してその事件に関する情報を集めていた。
 予想通り、携帯だかスマホだかで撮影したと思われる、事件当時の不鮮明な画像が何枚かネット上に流通しており、完爾自身や変身前後の万引き犯の姿があかるさまに公開されていた。
 完爾の店の住所やピンクフィッシュブランドの通販ページ、完爾と店の来歴まで、かなり詳しく調べてまとめたサイトまで存在する。
 よくもまあ、この短時間で……と、完爾は苦笑いしながらそうしたサイトを眺めた。
 そうしたサイトによると完爾自身の評判はかなりよく、
「身を挺してギミック使いを取り押さえた」
 という事実が好印象を与えているようで、十八年間の行方不明期間に対して過剰に反応する者はあまりいなかった。

 万引き犯を捕まえた翌朝、完爾は、会社の従業員たちを集め、
「これから少々騒がしくなるけど、引き続き仕事ができる体制を整えるつもりだから、あまり心配しないように。
 最悪、一時的に操業停止に追い込まれるようなことがあったとしも、最低限の賃金は保証します」
 と宣言した上で、これまで秘密にしていた魔法による製造過程をその場で実演してみせた。
「おれについてはいろいろと噂されているようですが、少なくともこうした魔法が使用できるということは事実です。
 別に違法な行為ではありませんが、世間並みの常識に照らし合わせて受け入れがたい事実であると判断してこれまで秘密にしていました。
 機械加工であろうが魔法による加工であろうが、できあがった製品は製品、商品は商品です。
 事情が許す限りこれからも今まで通りの操業を続けるつもりですので、これからもどうかよろしくお願いします」
「しゃちょー」
 梱包作業員のひとりが、間延びした声をあげて質問してきた。
「社長はどうして、そんな魔法が使えるんですか?」
「えー……。
 ここで詳しく説明する時間はありませんが、ごく簡単にいってしてしまえば、行方不明中に別の世界にいって、そこでおぼえました」
「あの美人の奥さんも、そこで」
「……はい。
 その通りです。
 では、今日も一日、よろしくお願いします」
 そういって完爾は、滅多にやらない朝礼を打ち切った。
 製品の製造過程を秘密にしておくことはそろそろ無理めになってきた頃合いでもあり、身内だけにしてもこうして魔法の存在をおおやけにするにはいい機会であるともいえた。
 一度認めてしまえば、「完爾が魔法を使用する」という事実は口伝てに浸透していくことが予想されたが、いずれにせよあの捕り物騒ぎのあとではなにかと詮索されるはずなのである。
 こうなってしまえば下手に隠し事にしているよりは、公開してしまった方がこれからの仕事もやりやすい。
 まとめサイトの影響か、その日の来店者はいつもよりもずっと多かった。
 念のため、これまでは入れていなかった常駐の警備員を店の入り口前に二名ほど立たせていたのだが、それで混乱が起こるということもなく、その日は何事もなく営業時間を終えることができた。
 普段とは違った客層が興味本位で店を覗きに来たようだったが、犯罪行為でもしない限りはこちらから見咎めることはない。
 どんな動機で来店してこようが、多少なりとも金を落としてくれればすべてお客様、である。

 その他、関係各所と綿密な打ち合わせをしながら数日が経過し、例の週刊誌が発行された。
 会社の代表番号に、立て続けに取材申し込みの電話が入ったようだが、事務員にはすべてお断りするように申しつけておいた。
 自宅の固定電話に関しては、数日前からプラグを引っこ抜いて不通状態になっている。
 たまに、店頭なり事務所なりに直接足を運んでくる猛者もいたが、こうした人々に関してははっきりと取材を断った上で名刺を預かり、間際弁護士経由で「あまりしつこいと営業妨害で訴えるぞ」的に軽く脅して貰う。
 自宅の方に来訪して来た記者も何人かいたようだが、暁を抱いたユエミュレム姫が出て母国語で当たり障りのない世間話を長々と続けるとすぐに退散したようだった。

 完爾が多少有名になった、とはいってもあくまで三面記事的な意味で、であり、その程度のことでマスコミが総出で襲いかかってきてもみくしゃにされるわけでもなく、そうして数日やり過ごすと、すぐに以前と同じ日常が帰ってきた。
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