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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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対策ですが、なにか?

 月日がたつのも早いもので、もう十月に突入した。特に朝晩は肌寒い日が続いているし、暦の通り、日に日に秋の風情が強まっている。
 完爾はといえば、相変わらず仕事三昧の日々を送っていた。
 多少、要領のよくなって、在庫のヤリクリなどを楽にこなせるようになったことを除けば、以前とあまり代わり映えのしない生活を送っている。
 商売の方は、問屋関係の信用が厚くなり、受注状況はすっかり安定した。
 逆に、生産の方が追いつかない状況になっており、商品全般に渡る品不足はもはや慢性的な状態になってきている。
 なるべくまんべんなく生産しているつもりだが、なにかの拍子で特定の商品がしばらく市場に出ないようになると、ネットオークションなどでその品が瞬間的に高騰したりする。
 自分らの知らないところで自社製品がやり取りをされるのも悔しいから、なるべくまんべんなく商品を生産し、欠番が出ないように気をつけてはいるのだが、肝心の生産活動を完爾一人で支えている現状では、どうしてもある程度、手薄になる部分ができてしまうのであった。
 いわば、作る端から売れている状態なわけであり、そのおかげでせっかく生産した商品が安く買い叩かれることもなく……商売としてみれば、かなり安定している状況だった。

 そうこうしているうちに、完爾の店舗がある駅前の様子も、少しずつ様変わりしてきている。
 全国展開をしているコーヒーショップが進出してきたのを皮切りに、小洒落た飲食店やラーメン屋、若者向けの古着屋などが何軒か立て続けに開店した。
 ほとんどシャッター通りと化して商店街が、にわかに活気ずき、道行く人の年齢層がかなり若返った。
 私鉄沿線の、どちらかといえば寂れた場所だったその駅前は、いつの間にか、通過するだけの場所から人が足を止め、立ち寄る場所に変わりはじめていた。
 そのすべての原因を完爾の店舗に求めるのは傲慢なのかも知れないが……いくらかは契機として貢献しているのではないか、と、完爾は思っている。

 その他では……業務マニュアルも整備し、事務員の人数も増やし、商品の製造以外の仕事は、完爾が不在でも回るようにした。
 営業や出入り業者とのやり取り、従業員の勤怠管理、給与の計算や経理全般……一口に事務仕事といってもその内容は多岐にわたるわけだが、その一つ一つを虱潰しにマニュアル化し、事務員にも処理できるように定型化していく作業は、思いの外、手間も時間もかかったものだが……なんとか、やり遂げることができた。
 今や、完爾の仕事は、肝心の商品製造と、どうしても完爾が顔出さなければ処理できない商談への参加、つまり、「会社の顔」としての役割くらいとなった。
 つまり、ようやく、細々とした雑用はすべて従業員だけで回せるようになったのだった。
 商談の場に完爾が呼び出される頻度も、以前と比べるとそれなりにあがってきているのだが……全体的に見れば、完爾の仕事量は減ってきていた。

 本業の方で余裕ができてきた代わりに時間を割かねばならなくなってきたのが、例の防犯対策である。
 従業員たちにもさり気なく、
「どうもうちの会社に悪意を持っている人たちが居るようだ。
 身辺には気をつけるように」
 と伝えてある。
 防犯カメラの数も増やし、警備会社とも契約して頻繁に巡回してくれるように頼んだ。
 警察に関していうのなら、伏見警視が手を回してくれたのか、自宅や仕事場近辺を日に何度かパトカーや制服警官が巡回してくれるようになった。
 これらはあくまで予防レベルの措置であり、本格的に悪意を持った者への対抗策とはなり得ないのであるが、それでもなにも対策を講じないのよりははるかにましなのであった。
 その他にも、クシナダグループの橋田管理主任などは水面下でそれなりの活動をしているらしく、国際的な情報網を駆使して襲撃が予想される組織の情報などを幅広く収集しているという。
 盗聴に関していうのなら、発信器を発見するという触れ込みの会社に頼んで一度自宅を探って貰ったのだが、こちらははかばかしい成果が得られなかった。
 橋田管理主任にいわせると、
「本格的な諜報活動でしたら、今は、痕跡が残る盗聴器を仕掛けるよりも集音マイクとフィルタリングソフトを活用するのが主流ですね」
 ということだそうだ。
 それなりの予算は必要となるが、結構昔からある手段であるらしい。
 こうなると、半径数百メートルの範囲内をくまなく捜索する以外に対応策はなく、一民間人という立場でしかない完爾たちにはどうにも手が着けられないのであった。

 橋田管理主任や伏見警視からは、「大使」らと関係があって暴発しやすい組織や個人を選定してその資料なども送られてくる。
 完爾もそれなりに目を通すのだが、完爾の目には、それら組織的犯罪者はどのような信条や動機を抱えていようとも単なる犯罪者にしか見えず、
「今後こちらに危害を加えてくるようなら、遠慮なしにぶっ飛ばせるな」
 程度の感慨しか抱けなかった。
 刑法的には過剰防衛なりなんなりがあるから、一気に命を奪うほど苛烈な攻撃方法は採用しないつもりではあったが、少なくとも少人数でかかってくる限りにおいては、完爾一人が相手にしても特段の危機感をおぼえるほどの相手は皆無だった。

 盗聴されるおそれがあると判明して以来、靱野はまずメールか電話でアポを取り、そのあとに直接自宅内に転移魔法で現れて、魔剣バハムの調査状況を伝えがてら、直接対面して情報をやり取りすることにしていた。
 ユエミュレム姫単独で話し合うこともあったし、完爾と一緒に会うこともあったわけだが、その際に確認したところでは、やつらは、
「こちらでの伝統的なオカルト知識と断片的な魔法を組み合わせて使用する例が多い」
 ということだった。
 初期においては、自分たちの身体に直接改造を加える例が多かったが、ここ数十年は、魔法を仕込んだなんらかのデバイスを使用して身体を強化する方法にシフトして来ているという。
「やつらもやつらなりに、自律術式から学んだ知識を生かそうと賢明なのでしょうが……」
 靱野にいわせると、彼らの魔法知識は、
「そもそもの基礎知識がまったくできていないから、全般的に明後日の方向に発展していている。
 あまり実用的な発達の仕方をしていない」
 という。
「……それでもまあ、流石に使用者の生命や身体を保護することを優先的に設計されてはいるようですが……」
 そうしたデバイス使いが現れたら、遠慮なくぶちのめしてくれていい、と、靱野は保証してくれた。
 生半可なダメージを与えても平然としているはずだし、目一杯攻撃したとしても、それらのデバイスはその衝撃から使用者を守ろうとし、短時間に魔力を使い果たすはずである……とのことだった。
 そうしたデバイスを使用した疑似魔法使いと会ったら、遠慮なくぶちのめすのが、一番安全確実な護身法である……と、靱野は、保証してくれた。

「……それはいいんですが……。
 そういう、デバイス使い、ですか?
 そいつらの見分け方って、あります?」
 完爾は、靱野に質問してみた。
「そういうデバイスを使い慣れているやつらは、たいがいがデバイスの威力に陶酔しています。
 まさか、自分の側が負けるとは思ってもいませんから、正面から現れて挑戦してきますよ。
 ひょっとしたら、馬鹿正直に名乗でてくるやつなんかもいるかも知れない」
「そいつは……恥ずかしいなあ」
 完爾は、そう感想を述べた。
「できれば、そんな恥ずかしいやつらとは出会いたくはないもんだ」
「実物を見ると、もっと恥ずかしくなると思いますよ」
 靱野は、そうつけ加える。
「やつら、動物の意匠を取り入れたり、なんだか知らないけどケバケバシい色にするのを好みますから。
 ときおり、ハロウィンとかで仮装しているやつと戦っているような気分になってくる」
「それは……ああ。
 実に、ニチアサ的だなあ」
「そうですね。
 そんなやつらの相手をしている自分を振り返えると、ひどく空しい気分になります」
 完爾と靱野は、しみじみとした口調でそういい合った。
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