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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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招かれざる客ですが、なにか?

『……それで、その緑川とか「博士」とか名乗った人は、そのまま去っていった、と……』
「ええ」
 ユエミュレム姫は、今、門脇家の固定電話から完爾のスマホに語りかけていた。
「普通に歩いて、公園を出て行きました」
『歩いて、ねえ』
 電話のむこうで、完爾が息を吐いた。
『意外と普通なんだな』
「外見上は、普通の人に見えました」
 ユエミュレム姫は、冷静に告げる。
「ですが、あの威圧感は……」
『威圧感?』
 完爾の怪訝な声が、受話器から聞こえてきた。
『ユエが感じたのか?
 そりゃ……相当な相手だなぁ』
「……ですから!」
 ユエミュレム姫は、少し声を怒らせる。
「もう少し真面目に取りあってください!」
『……うん。
 わかった』
 完爾の声も、流石に真剣身を帯びてくる。
 ユエミュレム姫が昼間の、完爾が仕事をしている時間に直接電話をかけてくるのは、これがはじめてなのだ。
 それだけ、緊急性がある案件だと判断したのだろう。
『と、いっても……今すぐ、具体的にできることはあまりないと思うけど……。
 そうだな。
 その人が靱野さんの知り合いだというんなら、問い合わせてみたら?』
「一応、メールで一通りのことを報せておきましたが……」
 ユエミュレム姫は説明する。
「ですが、あの方も、いざとなるとなかなか捕まりませんから……」
『あれで、忙しい人だからなあ……』
 完爾も、ユエミュレム姫の言葉に頷く気配がする。
『今頃、どこでなにをやっているんだか……』

 その頃、靱野は、セーフハウスのひとつに転移してきて物々しい装備一式を脱ぎ、シャワーを浴びてきてところだった。
「……なんだよ……」
 スマホを手にとってメールをチェックし、そのまま、濡れたままの髪を指でがしがしと掻き回す。
「……「大使」の次は、「博士」まででてきちまっちゃたかぁ……。
 なんでこう、次から次へと厄介な連中ばかりが……」
 ぶつくさと独り言を呟きながら、靱野は、「ユエミュレム姫に連中についてどうやって説明しするべきか」と考え込みはじめる。

「……さて、と」
 通話を切り、完爾は次にどうすべきかを考える。
「……まずは……」
 クシナダグループの橋田管理部長と伏見警視にでも伝えておくか、と思った。
 靱野が関連する事柄を相談できそうな人材は、他にはいなさそうだった。
 ひょっとすると、そのどちらかが、「博士」だとか名乗った女性についての情報を持ち合わせている可能性もある。
 完爾は仕事用のノートパソコンを立ち上げ、メモ帳に橋田管理部長へ宛てるメールの文面を書きはじめた。
 すると、
「……しゃちょー……」
 と、作業員から声をかけられる。
「なんですか?」
「社長に、お客さんですけどぉ。
 なんでも、奥さんに関することでお話があるとかでぇ……」

「……商談なら、事務所を通してくださった方が……」
 完爾は初対面の白人男性に、そういった。
 作業所出口を出てすぐの野外、搬出入のときに入る車両用の駐車場でのことである。
「先ほどもお伝えしたとおり、businessではなくてご家族の用件です」
 その男性は、端正な発音の日本語で完爾に告げる。
 文中に出てくる「business」という単語のみ、やけに綺麗な発音の英語だったから、なおさら違和感を感じた。
 明らかに日本人ではない風貌の持ち主が流暢に日本語を操る様子には、完爾もこの仕事をするようになってきてから何度も遭遇してきている。
 しかし、そうした人たちとこの目前の男とでは……具体的にどこがどう、とは指摘できないのだが、「なにか」が、大きく異なるような気がするのだ。
 直感というか……いつの間にか完爾は、以前、別の世界で魔族の相手をしていたときのような圧迫感を自覚していた。
「それで、おれの家族にどのようなご用件が?」
 緊張を隠して完爾は、問いかける。
「少々込み入ったはなしになります。
 ここでもいいのですが……もしよろしければ、どこか、落ち着ける場所へいきませんか?」
 そういって、そいつは……実に人の好さそうな笑みを浮かべる。

「ぼくのことは、どうか「大使」とお呼びください。
 他にもいろいろ便宜的に使っている名前はありますが、すべて偽名ですし、なにより「大使」という呼び名が一番多くの人に知られているわけですから」
 事務所の応接セットに場所を移してから、その男は完爾に名刺を差し出す。
 確かに、ゴシック体の漢字二字で「大使」と、印刷されていた。
 小さな活字で電話番号とEメールのアドレス。住所はなし。
 肩書きは……。
「……玩具ですか?
 これは……」
 完爾が、渋い顔を作って呟く。
 堂々と、「悪の秘密組織仲介業者」と印刷された名刺を手渡されれば、誰だって不機嫌になろうというものだ。
「いえいえ、滅相もない。
 ぼくのbusinessを端的に日本語で説明するとそうなってしまうので、正直にそのまま印刷したんですが……」
 男……「大使」は、悪びれる様子もなく、笑顔を崩さない。
「あれ?
 お気に召しませんでしたか?
 せっかく、今日のために作ってきたのに……」
 ぶつくさと低い声でそんな独り言をいいはじめた。
 どこまで本気でいっているのかにわかに判断できないのだが……この「大使」とやらは、完爾がこれまでに出会ってきた人々と比較して、どんなカテゴリにも属さないような難物らしかった。
 ……正直、頭が痛い。
「それで、その悪の秘密組織仲介業者さんが、うちの家族にいったいなんのご用事で?」
「ああ、そうでした。
 早速、商談といきましょう」
「大使」は姿勢を正し、完爾に向き直る。
「こちらの用件を単刀直入に申し上げます。
 門脇さんのお家で保管している魔剣バハム。
 あれを、ぼくらの方に預けて調べさせて貰いませんかね?」
「お断りします」
「大使」の語尾に食い気味になるくらいに、完爾は即答する。
「……決断、はやっ!」
「大使」は、わざとらしく背を反らして驚いてみせた。
「流石は、元勇者。
 判断能力は衰えていませんね。
 では、せめて、お断りする理由をお聞かせ願いませんか?」
「あんたらがおれたちのことをどこで知り、どこまで知っているのかは、おれたちはまるで知らないわけだが……」
 完爾は、淡々と続ける。
「……魔剣バハムの存在を知った上でわざわざ欲しがっていることだけでも、十分に、怪しい。
 あんな物騒な代物、正体がよくわからない連中にむざむざ預けるわけがないだろう」
「城南大学のサイトで知りました……と、いったら?」
「可能性がないわけではないだろうが……あの内容を本気にして、魔剣バハムだけを名指しで欲しがる理由がわからない。
 あんたの仲間かどうかはよくわからないが、うちの嫁さんも今日、不気味な人物と接触したばかりだっていうし……」
「……はぁ!
 奥さんに接触ぅっ!」
「大使」が、声を大きくする。
「……一体、誰が……。
 いや、見当はつくんだが……まいったなあ。
 自分からは滅多に動かない、あの人まで興味を持っているのか……」
「……あんたの仲間じゃないのか?」
「なにぶん、どこからどこまでが仲間でどこからどこまでが仲間じゃないのか、その区分が不明瞭な業界ですので。
 だからこそ、ぼくのような仲介業者が介在する余地があるってもんですが……はぁ。
 そうですか。
 彼女が、もう動いているのですか……」
「彼女、って……やっぱり知り合いじゃないか」
 完爾は、まだ、この「大使」には、ユエミュレム姫に接触してきた人物の具体的な情報を開示していない。
「この時期にわざわざ自分で奥さんに接触しようだなんて物好きな人は……「博士」くらいしか心当たりがありませんよ。
 ここだけのはなしですが、彼女にはアカシックレコードを読む能力がありましてね、この世のことなら、わからないことはなにもない存在なんです」
「アカシック……って、なんだ、そりゃ?」
「この世の根元にある、すべての事象の原型。
 意味については聞き返さないでくださいよ。
 ぼく自身も、完全に理解できているわけじゃあないんですから。
 とにかく、彼女は……非現実的なほどに物知りなんです」
「ああ。
 それで、「博士」ね」
 どこまで本気にしていいのか判断がつかず、完爾はぼんやりと頷いた。
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