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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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対策委員会ですが、なにか?

 その日、完爾が午前中の仕事を終えてから社長室で弁当を食べ、一息ついたところで、
「……社長ー。
 奥さんがお見えですよー……」
 と、パートのおばさんに声をかけられた。
 どうせなら一緒に行こう、ということで、ここで待ち合わせをしていたのだ。
 ユエミュレム姫の容姿について従業員たちにひとしきり軽く冷やかされてから、完爾はユエミュレム姫を伴って駅へと向かう。
 ユエミュレム姫は会社まで、何度か訪れたことがあり、路線バスの使い方にもそれなりに慣れていた。
 以前、家族で江ノ島に行ったときとは違い、今回は切符を買わずにICカードを使って改札をくぐる。以前のときに慣れたのか、今回、ユエミュレム姫は特に大げさな反応をすることもなく、平然と改札を通過した。

 昼下がりの電車の中は、乗客も疎らであり、二人ともシートに座ることができた。
「やはり、シンジュクなのですか?」
「そう、新宿。
 そこで東京メトロの丸の内線に乗り換えて、一本で到着」
 ネットで検索してみたところ、新宿から霞ヶ関までには、十六分ほどで到着するらしい。
 ……ここからだと、新宿までに出る時間の方が、よほど長い。
 封書の中にあった案内書によると、霞ヶ関の駅に着いたら担当者に連絡してくれ、とのことだった。
 完爾は実体をよく知らないのだが、官公庁の庁舎ともなればかなり大きいはずであり、慣れてないと建物の中に入っても迷子になる心配があるのかも知れなかった。

「でも、本当になんの用件なのでしょうかね?
 仮にも国の機関が、見返りもなしに特例を認めてくれるとは思わないのですが」
 ユエミュレム姫が、そんなことをいう。
「行って、実際に話を聞いて見ないことにはわからないな」
 完爾は、そう返答した。
「第一、政治向きの事でユエにわからないことが、おれなんかにわかるわけがない」
「……いくつか、想像できることはあるのですが……」
 といいながらも、ユエミュレム姫はそれ以後、完爾にははっきりと説明せずに口を閉ざすのであった。

「これが、地下鉄ですか?」
 丸の内線のホームに入ってから、ユエミュレム姫は完爾に確認した。
「普通の電車と、あまり変わらないように見えます」
「変わらないよ、基本は」
 完爾は、簡単に説明した。
「線路が地下に潜っているのが、地下鉄。
 でも、必ずしも地下ばかりを走っているわけではないか……」
 例えばこの丸の内線も、結構地上に出ている部分が多いような気もする。
「……そういや、なんで地下鉄なのに地上を走っているんだろうな?」
「地上も走るのですか?」
「ああ。
 ま、その辺は、乗ってみればわかる」
 新宿からこの方向だと……確か、四谷駅前後で地上に出るはずだった。

「電車は、やはり外の景色が見える方が面白いですね」
 というのが、霞ヶ関の駅で降りたときに述べた、地下鉄に関するユエミュレム姫の感想だった。

 改札のところで待ち合わせた間際弁護士と合流し、「担当者の連絡先」とやらへ「到着しました」メールを送信する。
 するとすぐに完爾のスマホに着信があり、若い男の声で、
「すぐにお伺いします。そこを動かないでください」
 といわれた。
 それから五分も待たないうちに、二十代後半くらいのスーツ姿の男が完爾たちの居る場所にやってくる。
「どうもどうも。
 本日はご足労をいただきまして」
 そういってその男は、完爾たちに名刺を差し出して来た。
 完爾や間際弁護士も、それぞれの名刺を渡す。
「宮式さん、ですか?
 外務省の……これは……」
 男の名刺を見て、間際弁護士が小声で呟く。
「新設の部署になりますね。
 さらに詳しくご説明を申し上げますと、一応、外務省が仕切っておりますが、実質は関係省庁から来た人たちの寄り合い所帯でして……」
「……境界例対策委員会、ですか?」
 完爾も、怪訝な顔をする。
「官報に魔法とか異世界とかの浮ついた単語を乗せるわけにはいかないとの配慮から、便宜上、そんな曖昧でどうとでも解釈ができる命名となりました。
 詳しいことは、後ほどご説明させていただきます」
「……外務省は、そちらにはないのでは?」
 宮式が進もうとしていた方向に疑問を呈したのは、間際弁護士だ。
「適当な部屋をキープできなかったので、合同庁舎の会議室をお借りしました」
 基本的にこの辺は官公庁関係の建物が多く、特に駅の周辺はお役所関連の建物しかない。
「……本当に、詐欺じゃあないんでしょうね?」
「政府直轄のこの場所で詐欺を働こうとする者も、いないでしょう」
 完爾と間際弁護士は小声でそんなことを囁き合い、ユエミュレム姫とともに宮式のあとを追う。

 宮式に案内された会議室とやらで、完爾たちはその場にいた人々と名刺を交換する。
 外務省だけではなく、産業労働省、法務省、それに……。
「……警視庁の、警視さん、ですか?」
 完爾は、軽く眉根を寄せた。
 完爾も別に警察の階級に詳しいわけではないのだが、警視といえばキャリア中のキャリア、相当なエリートのはずだ。
「伏見といいます」
 その六十年輩の、目元が涼しい男性からは、意外に柔和な印象を受けた。
 制服ではなく、普通の、一見して仕立ての良さそうなスーツ姿だった。
「これでも四号……通りのいい名前でいえば、グラスホッパーの昔の協力者でして。
 彼は、その……元気でやっていますでしょうか?」
「ああ、はい」
 完爾は、素直に頷いた。
「少し前にみたときは、ずいぶん元気そうに見えました」
 伏見警視は、「そうですか。それはよかった」と、目を細める。
「今回、門脇さんたちの案件を取り扱うに当たり、その手の奇妙な事件に長いこと関わってきた者としてこちらの皆さんに協力を仰がれた次第でして。
 具体的な実務に携わるというより、助言を乞われたときに口を挟む、いわゆるアドバイザー的な者だと思ってください」
「……そう、ですか……」
 としか、完爾は答えようがなかった。

 名刺交換が一通り終わると、まず間際弁護士が、
「この場でのやりとりを録音させていただいてもよろしいでしょうか?」
 と断りをいれ、鞄の中から出したICレコーダーのスイッチを入れる。
「よろしいですかな?」
 口火を切ったのは、外務省所属の村越氏だった。
「まずは、門脇さんたちにご足労いただいたことにつきまして、お礼を申し上げます」
 完爾とユエミュレム姫は素早く目配せをし合い、結局、完爾が応じることになった。
「いえ。
 礼には及びませんが、それよりも本題に入ってくれるとありがたいのですが」
「そうですな。
 時間も惜しいことですし……」
 村越氏は宮式に合図し、宮式が完爾たち三人に分厚い冊子を配る。
「……それは、こちらでまとめさせていただいた、昨今の門脇さん周辺の問題とその対策となります。
 いや、門脇さん。
 あなたは若いのに似ず、これまでよくやって来たと思います。
 が、ここに来て、身内だけで解決できるレベルを超えてきたようで……」
「……全面的な日本政府の庇護に入れ。
 その代わり、対外的な干渉からは守ってやる、ってことですか?」
 その冊子をパラパラと流し読みしながら、完爾が予想される結論を述べた。
「単刀直入にいえば、そういうことです」
 村越氏は、鼻白む様子もなく、完爾の言葉を首肯する。
「どう思う? ユエ」
 完爾は、ユエミュレム姫に水を向けた。
「ムラコシさん」
 ユエミュレム姫は、まっすぐに村越氏の目を見据えて、そう切り出した。
「それだけでは、ないのでございましょう。
 その程度のことでしたら、わざわざわたくしたちをここまで呼びつける必要性がございません。
 安全保障ということでしたら、この完爾と魔法を組み合わせれば一定の効果をあげることはできるという点も、みなさま方はすでにご確認済みのはずです」
「……やはり、素直に頷いてはくれませんか」
 数秒の沈黙のあと、村越氏は短く息を吐いていった。
「そうですね。
 それでは……ユエミュレム姫。
 あなたは、故国では王家の一員であったと聞いています。
 この日本に……大使館を置くか、それともいっそ、亡命政府を樹立する気はありませんか?」
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