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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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生ける都市伝説ですが、なにか?

『……靭野九朗、ですか?』
「ええ。
 そう名乗っていました」
 その日はたまたま、牧村女史との週に二回あるビデオチャットの日にあたっていた。
 それで、雑談になったとき、ユエミュレム姫は今朝遭遇した奇妙な人物のことを話題に出したのだった。
「わたくしたち意外にも他の世界からこちらへ来ている方がいることを知って、とても驚きました」
『……その割には、随分と落ち着いていらっしゃるように見えますが……。
 いや、待てよ。
 シナノクロウ、シナノクロウ……どこかで聞いたような……えーと……。
 ああ! そうだ!
 あの、都市伝説!』
「都市伝説、ですか?」
 耳慣れない単語を聞いたユエミュレム姫は、軽く首を傾げた。
「それは、どういう伝説なんでしょうか?」
『グラスホッパー!
 化け物とか怪人を退治してまわる怪しい人がいるっていう噂があって、確かその怪しい人がときおり名乗る名前が、確か靭野九朗だったような……。
 ちょっと待ってくださいね……』
 牧村女史はなにやらキーボードを操作している様子を見せる。
『ほら、あった! メールを送りました。
 このページに……』
 ユエミュレム姫はメールを受信し、そこに記されているURLアドレスを開いてみた。
 輪郭がはっきりしない、焦点のあっていない写真が大きく貼ってあるサイトだった。
「……グラスホッパーの伝説……ですか?」
『都市伝説……怪談と同じような扱いですね。
 四十年前くらいから断続的に、あちこちで目撃されています。
 というか、彼のお陰で助かったと主張する人々はかなり多いようです。
 その割に、何故だかはっきりとした映像記録はほとんど残っていないようなのですが……』
「この写真、バイクに乗った人影のように見えます」
『妙に生物的なフォルムのバイクと、頭全体を覆うような丸いヘルメットがトレードマークだそうです。
 怪物と戦うときは、たいていこの格好をするそうで……』
「ヘルメットというより、これは、特殊な兜に見えます。
 ただ……こんな形ですと、馬……ではなく、バイク、ですか。
 ともかく、高速で動く乗り物を操作するのには、適切ではないのではないでしょうか?」
 そのヘルメットには、目がある位置に、一本線のような覗き窓があるだけだった。
 これでは、視界はかなり悪くなるはずだ。
 どう見ても、オートバイに乗るのに適した形状には見えない。
『それが、不思議なことに、運転はかなりうまいそうです』
 牧村女史は真面目な顔をして頷いた。
『誰も乗っていないバイクが勝手に動いたり、壁を駆けたりしたこともあるそうです。
 少なくとも目撃した人たちは、そう証言しています。
 しかし……そうですか。
 グラスホッパーが現れましたか……』
「なにか問題でも?」
『いえ。
 グラスホッパーが姿を現すと、その周辺で立て続けに不可解な事件が起こりはじめる、という傾向がありまして……。
 詳しくは、そのサイトにある事件簿のデータベースを参照してください』
「……牧村さん。
 随分とお詳しいのですね?」
『実は、二十年ほど前、城南大学周辺に集中的にグラスホッパー関連の事件が起こったことがありまして……。
 その当時はわたしはこの大学とはなんの縁もありませんでしたが、こちらに勤務するようになってから、このサイトも何度か見てはいました』
 城南大学とは、牧村女史が所属する研究室がある大学だった。
 私立ながらそれなりに歴史があり、世間的な評価も高い大学であるそうだ。
『だけど……本当にいたんですねえ。
 グラスホッパー。いや、靭野九朗』

 その頃、グラスホッパーこと、靭野九朗はというと……。
「……うはぁ!」
 ギシリ、と結界全体が軋み音をあげたような気がして、肩をすくめていた。
「保つかなあ? 保ってくれよぉ……。
 念には念を入れて頑丈に造ったつもりだけど……ここまで深く潜ると、水圧が凄いからなあ……」
 日本海溝内某所、魔法による結界で水を弾きながら、さらに深い場所まで潜行中であった。
 靭野九朗は自分の意思で活躍する場所を選べるわけではない。
 都市部や町村など、人目がある場所に回収を必要とするモノを発見することよりも、海の中で発見することの方がよほど多かった。
 面積的に見れば、陸地よりも海上の方がよほど広いのであるから、確率的にいっても自然な分布といえるのだが、回収をする方にしてみればそれだけ手間がかかる。
「危険物回収業も、楽じゃあないねえ……」
 などというぼやきも、自然と口をついて出てこようというものだ。
「……そんじゃあ、今回も……ちゃちゃっと済ませましょうかぁ!」

 結局、近くの事務使用可のマンションを借りて事務所とし、少し離れた場所にある広めの倉庫も借りて、完爾は店舗兼倉庫とその二カ所とを頻繁に往き来して過ごすようになっている。
 免許も持たず、免許を取りに行く時間もないため、移動には自転車を使用するようになった。
 事務員が仕事に慣れるまでは事務所にいる時間が多かったが、派遣の事務員たちも最近ではすっかり仕事や癖の強い営業さんたちの扱いに慣れてきているため、完爾が事務所に立ち寄る頻度もかなり少なくなってきている。
 駅からかなり離れた所にある、畑の真ん中にぽつんとあるような倉庫には、いまだに頻繁に出入りしていた。
 その倉庫内には完爾以外は立ち入り禁止になっている小さな区画があり、昼間、他のバイトやパートが居る時間帯にはこの区画が完爾の作業場所となっているのだった。
 バイトやパートたちの間では、完爾がその区画に閉じこもることを「天の岩戸」とか「鶴の恩返し」とか呼んでいる。完爾がしばらくそこに入ってから出てくると、どこからともなく商品が補充されてくるからだ。
 完爾は、「予備の在庫を出しているだけ」と説明しているのだが、あまり納得したような顔をしてくれない。
 日々出荷される製品が補充されてくる現場を誰も見ていないのだから、当然といえば当然なのだが。
 そもそも、この会社で扱っている商品がどこで作成されているのか知っている者が、社長である完爾以外に誰もいないのだ。
 夜中、少なくともパートやバイトが帰宅してから翌朝、出社してくるまでの間に、いつの間にか補充されている。
 製品の原料となる素材は、倉庫や店舗兼倉庫の方に毎日のように送られてくる。
 これについて、完爾は、
「夜中にやってくる工場との直通便に、商品の補充と入れ替えに渡している」
 と、説明していた。
 今のところ深く詮索してくる者はいないようだったが、よくよく考えると不思議なところが多い会社ではあった。
「商品の製造元がわからない」ということ以外にも、商品そのもののクオリティからして謎が多い。
 非常識に、頑丈。
 モノによっては、微細な細工が施してある。
 にも関わらず、急な大量発注にも応じられるほど、短期間での大量生産が可能。
 製品により、金属製であるのにも関わらず妙な伸縮性を持っていたりする。
 などなど。
 従業員たちはもとより、社外の加工業者にも大いに不思議がられる存在としてそれなりに注目を浴びているのであった。
 そして今、完爾は、その「天の岩戸」に閉じこもって製品の製造に余念がない。
 プラスチック製の箱の上に素材を置き、錬金術系の術式を心の中で唱える。
 当然、製品ごとに形状はことなり、従って細かい術式も違ってくるわけだが、毎日毎晩のように繰り返してきたので、特によく出荷される商品についてはすべて暗唱できるようになってしまった。
 また、製造する速度も、この仕事を開始した当初とは比較にならないくらいになっている。
 たいていは時間を節約するため、同時にいくつかの製品を並行して作成することにしているし、術式を駆動することに慣れてきたこともあって、同じ製品であっても作成開始から完成までの時間そのものがかなり短縮されていた。
 今となっては、必要な製品を作り出すために必要な素材の重量を計算する手間の方を、よほど煩わしく感じるくらいだ。
 ブレスレットとかの小物ならば一分もかからずに作り終えるし、より複雑で多くの素材を使うベストのたぐいでも五分以上の時間はかからない。
 ましてや、元勇者である完爾の保有魔力は無尽蔵に近かった。
 並行して何種類もの製品を製造しながらも、完爾自身は折りたたみ椅子に腰掛け、続々と製品が完成していくのを眺めるだけだった。
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