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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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素朴な疑問ですが、なにか?

「これだけ豊かなのに、なぜコレエダはそこまで悲観的なのですか?」
 逆に、ユエミュレム姫に問い返されてしまった。
 食品にせよ雑貨にせよ衣料にせよ、店へいけば品物が溢れかえっている。娯楽も、多種多様。教育も、充実している。
 ユエミュレム姫の故郷と比較すると、こちらは楽園みたいな場所だ。
 それなのに、なぜそこまで将来を悲観しているのか、ユエミュレム姫は素で疑問に感じた。
「……あー、それは……」
 完爾は、言葉を濁す。
 こういう素朴な疑問こそ、十分に納得のいく解答を提示するのが難しい。
「多分……この世界が、狭くなり過ぎたんだな。
 人が増えすぎて……」
 それが、しばらく考えたすえ、完爾が提示できた解答だった。
「人が増えすぎると、悲観的になりますか?」
 ユエミュレム姫が、首をひねる。
「労働力が増えて、豊かにはなりませんか?」
「労働力は増えるけど、一人一人がそれ以上のモノを望むようになる。
 おそらく……この世界の大きさに対して、人が増えすぎたんだ。
 資源的な意味で」
 さて、どう説明するか……と、考えつつ、完爾は言葉を絞り出していく。
「最近の大きな戦争は、だいたい資源の奪い合いからはじまっている。
 中には、思想的、宗教的な要因が火種になっている場合もあるけど……」
「資源……鉱山の利権争いですか?」
 ユエミュレム姫には、「国同士の戦争とは、あくまで領土を奪い合うもの」、という先入観があった。
「昔はそういうのもあったようだけど……最近では、もっぱら石油かな」
「油ですか」
 原油、というものが現代社会の中で大きな比重を占めていることは、一応の知識としてユエミュレム姫も知らされてはいた。
 だが、あまりピンとこないようだ。
「今の社会の中で生きようとすると、膨大な原油を消費するが必要があるんだ。
 先進国だと、一人当たり年間ドラム缶で何百本分も必要となる。
 でも、発展途上国の人たちが同じような消費社会に移行しようとすると、ぜんぜん足りなくなる」
「は……はぁ……」
 キョトンとするユエミュレム姫。
 やはり、よく想像できないらしい。
「石油だけのはなしではなくて……今、この世界の人口が七十億くらいだってことは、前にはなしたよな?」
「はい。
 すごく、多いですね」
「でも、この世界自体は有限だ。
 土地も、資源も」
「だから、取り合いになると?」
「ちょっと前、何十年前とかほど露骨ではないけどね。
 CO2ガス規制なんっていうのは、あれは形を変えた資源の争奪戦だよなあ。
 ……CO2については、説明し出すとまた長くなるから後で改めて説明する」
「はい。
 つまり、カンジは……人々の数と比較して、この世界が狭くなりすぎた……のが、原因だと?」
「それが、一番の根元にある……と、思うな。
 うん。
 もちろん、他にも色々な要因があるけど……」
「なに?
 義妹ちゃん、今度はなにに疑問を持ったって?」
 千種が、茶々を入れてきた。
 それで、完爾がこれまでの会話をざっと説明してみる。
「どアホ。
 それ、理由づけいくらなんでもマクロな方に寄りすぎだ。
 ええっと……半世紀以上前にこの世界を二分する大戦争があってな、この国はその戦争では、負けた側の陣営に属していて……」
 千種はそういって、戦後日本経済史の概略を語りはじめる。
 終戦の焼け野原、その直後に起こった朝鮮戦争の影響を受けての好景気、それをスポリングボードにした長い高度成長期と、失われた十年……。
 完爾は、しどろもどろになりながらも、千種の説明をなんとか翻訳してユエミュレム姫に伝えた。
「……というわけで、かれこれここ十年か二十年、この国は先行き不透明で不景気な時代に突入しているわけだ。
 特に、完爾よりも若い世代なんかだとバブルの残照も記憶にないだろうから、生まれたときから不景気な状態しか知らないことになる。
 しかも、この不景気は好転する兆しや材料がまるでない。
 これじゃあ、行き詰まりを感じてもしかたがないだろう?
 金融政策でどうにかしようって動きもあるけど、あれはどうかなあ? 一時的なカンフル剤程度の効果はあるのかも知れないが、ああいう実体がない好景気っていつ弾けるのかわからないバブルを人為的に作ろうってことだから、大局的にみるとかなり危なっかしい手段だと思うんだけど……」
 以下、完爾でさえ正直あまりよく理解できていない経済講義がしばらく続く。
 しかし、ユエミュレム姫は、完爾の拙い翻訳でも理解できたのか、完爾が意外に思うほど千種の解説に食いついてきた。
「……生活には困らないものの、希望が持てない時代……ですか?」
 しばらく千種の説明に聞き入った後、ユエミュレム姫はポツリと一言、そう感想を漏らした。
「そういうことになるかな」
 千種は、ユエミュレム姫の感想を首肯した。
「富の一局集中化が進み、ごく一部の富裕層とその他大多数の貧困層の二分化が促進する。
 その結果、後者は……真綿で首を絞められ続けているようなもんだ。
 今現在ちゃんとした職に就けていても、なんらかの理由でドロップアウトした時の救済措置が極端に少なすぎる。
 金になる専門技術を持っていたりすれば別だが、凡庸な人は将来に対して不安を感じないわけにはいかない。
 良くも悪くも……今は、そういう時代だよ」
 千種がそう締めくくると、ユエミュレム姫は思案顔をしてしばらく黙り込んでしまった。

「この世界のことを、もっと知らなくてはなりません。
 いえ、知りたいです」
 夕食の後、ユエミュレム姫はそんなことをいい出した。
「これから、わたくしと暁が生きていく世界のなのですから」
「そりゃあ、勉強したいっていうのなら協力するけどさ……」
 完爾は、慌てずに答える。
 千種の説明に聞き入っていた時から、なんとなく、「こういう反応をするんじゃないかな」、と予想はしていたのだ。
「……その前に、言葉、なんとかしないとね。
 参考書になる文献は、すべてこっちの言葉で書かれているわけで……」
「……あう」
 完爾の返答を聞いたユエミュレム姫が、覿面にしょぼくれた。
「漢字……難しすぎます。
 何通りも読み方があったり、一文字に複雑な概念が内包されていたり……」
 むこうの言語は、表音文字で表記されていた。
 発音も子音が中心だったから、こちらでいうアルファベットに近いもの文字なのかも知れない。
「ユエは、難しく考え過ぎなんだよ」
 完爾は、苦笑いする。
「もう日常会話は、だいたい理解できるようになってきたんだろ?」
「はい。
 聞き取る程度でしたら、六割から七割方は理解できているかと……普段の会話は、定型句が多いですから……」
 ユエミュレム姫がこちらに来てからまだ一月も経っていないということを考えると、これだって驚異的なペースなのだが。
「……じゃあ、焦らないでいこうよ。
 暁の世話をしながらなんだしさ」
 結局、言語の習得は、「慣れ」に拠るところが大きい。
 より多くの時間、その言語に取り組み触れれば、それだけ早くその言語を習得できる。
 会話には不自由しなかったとはいえ、むこうでまったく未知の言語を苦労して習得しなければまるで読み書きができなかった完爾は、自分の経験からもそう断言することができた。
「ユエは、もうカナは大丈夫なんだし、あとは地道に多くの文章を読んで多くの漢字の使用例に当たっていくしかないと思うな」
「地道に……ですか?」
「漢字って、何万字ってあるんだよ?
 日常的に使うのだけでも、二千字くらい?」
「……そんなに……」
 一瞬、ユエミュレム姫の上体が揺らいだような気がしたが、おそらく気のせいだろう。
「そのかわり、おぼえればそれなりに便利だから。
 字面をざっと斜め読みしただけで、だいたいの意味が掴めるようになったり……」
「でも……書くの、大変ですよね? 漢字」
「……まあ、なあ。
 でも……手書きで長文を書く機会というのも、実際には少ないと思うけど……」
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