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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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送迎ですが、なにか?

 翌日から、通常業務。
 朝四時に起きて朝食の準備並びに弁当造り、六時に会社前集合、八時に始業で仕事が終わり次第帰宅。
 その日の仕事の状態により帰宅時間はバラバラである。
 午前中しか現場がない日もあれば、がっちり二現場やる日もある。
 こればかりは会社の営業状態の兼ね合いだから、完爾たち作業員が関与するところではない。
 何日か仕事をするに従って、完爾は、「安心して仕事を任せられる人員」という評価を社内で得はじめているようだ。
 肉体を酷使する業種なだけあって、入ってもすぐに辞めてしまう者も多く、逆に長居できる者は少ない。
 勇者の身体能力を持つ完爾にしてみれば、特に疲労を感じるまでもないのだが、普通の人々にとってはこれでなかなか重労働らしい。
 特に夏場は、熱中症で倒れる者が少なからずいるらしく、休憩を多くとって水分や塩分を摂ることが推奨されていた。
 仕事の内容と給金との釣り合いはともかく、この仕事は、事前に休むと知らせておけばいつでも休め、その気になればいつでも辞めることができる。その気楽さが、今の完爾にとっては都合がよかった。

 検診については、乳児である暁がいるため、長時間の外出は控えようという意図で、一度に短時間に、それを何回かにわけて行われていた。
 そのたびに完爾は仕事を休んでつき合うわけだが、職場での評価などまるで気にかけていない完爾は好きなだけ休みを入れた。それだけ頻繁に休みをいれれば当然理由をきかれるのだが、「家族の都合で」とか「病院につき添わなければならないので」とか説明している。
 完爾にしてみれば、いつ辞めてもよい仕事よりもユエミュレム姫や暁の事情を優先するのは当然の選択だった。
 そして、病院へいった帰りには、ショッピングモールなどに寄って服や細々とした雑貨類を買ったり、外食をして帰ることにしていた。
 そろそろ、ユエミュレム姫もこちらの世界に馴染んで貰わなければならない。
 その一環として、こうして少しづつ慣らしていくつもりだった。
 女性用の衣料品点や下着屋で、完爾ははなはだバツの悪い思いをするのだが、ユエミュレム姫はまだ普通に買い物ができるほど日常会話を習得していなかったので、おとなしくつき合うより他ない。
 いくつかの店を回った結果、完爾とユエミュレム姫は女性向けのファッション用品は、漠然と想定した以上に、全般的に割高であるということを知ることになった。
 下着に一セット、何千円という価格が設定されているなど、完爾の感覚でいえば狂気の沙汰ともいえたが、どうやら世間ではそれが普通の相場であるらしい。
 ユエミュレム姫なども最初のうち、ブラジャーという下着の用途と値段設定にたいそう驚いていたものだが、店員につけ方を習いつつ試着した結果、これはこれで必要かも知れない、とその意義を認めることになった。
 むこうの世界には、ブラジャーはなかったのだ。
 サイズの合う下着を買った後、ショッピングモールに入っていたブランドショップを何軒か回ってみたが、ユエミュレム姫は軽く鼻に皺を寄せるだけで、その手の店で買い物をすることはなかった。
 デザインや品質はともかく、ユエミュレム姫の感覚では、そうした衣料はどうにも高価すぎる気がしたのだ。
 結局、何件かを回ってテナントとして入っていたウニクロを見つけ、主にその値段とコストパフォーマンスが理由で、ユエミュレム姫はそこで普段着を揃えることにした。
 一応、小金は入ってきているわけだから、そこまで倹約しなくてもいいのになあ、とか、完爾は思うのだが、ユエミュレム姫としては、普段の出費は極力抑えたいらしい。
「まだまだ先は長いのですから、無駄遣いはほどほどにしておかないと……」
 などど、完爾が抱いている暁の顔を覗きながらいわれてしまったら、一勤務あたり八千円の仕事をしている完爾としては、返す言葉がなかった。
 保険が効かないため、病院へいくたびに数万円単位の金が飛んでいくのは確かなことので、無駄な出費を控えようという意見はしごくまっとうなものだったからだ。

 そうして何度か外出をして、ユエミュレム姫が外に馴染んで来たのを見計らって、翔太の送迎もユエミュレム姫にやらせてみることになった。
 つっこんだ会話はまだまだ無理だが、すでにユエミュレム姫は簡単な挨拶くらいはできるようになっている。それに、イントネーションも、以前と比較すればかなりマシになってきていた。
 アパートの住人やご近所の人たちにも早めに顔つなぎをしておいた方がよいという判断もあり、千種と相談の上、ここ数日頼んでいた「やちよさん」にはなしを通してから、ユエミュレム姫は翔太に手を引かれて保育園まで通うようになる。

 暁を抱えたユエミュレム姫が翔太と手を繋いで現れた時、当然のことながら、同じ保育園に通う父兄たちからは好奇の目で見られることとなった。
 一方のユエミュレム姫はといえば、不躾な視線を向けられても臆することなく、「おはよぅーござぁいますぅー」などと微妙なアクセントで愛想良く挨拶をする。
「誰、あの人?」
「門脇さんの……?」
 つい先日まで翔太の送迎をしていた完爾が保育園に通いはじめた時にも似たような騒ぎはあったわけだが、なにをいわれても完爾が面白い反応を返してくれなかったことと、それに、完爾は翔太を送り迎えするという用件さえすませてしまえばさっさと帰ってしまい、立ち話などにほとんど参加することがなかったことなどが重なって、すぐに話題にあがることがなくなった。
 このような場合、完爾のようなあまり愛想のない男は、極めていじり甲斐がない題材なのだ。
 しかし、ユエミュレム姫はといえば、どうみても日本人には見えない風貌とプロポーションや生後いくらも経っていないと思われる赤ん坊を抱いていること、それに、不自然なほど整った容姿など、興味を引く要素が多すぎた。
 それで、ユエミュレム姫が送迎をするようになってから数日間は無責任な憶測と噂が飛び交うわけだが、直接、ユエミュレム姫に問いただそうとする人は現れなかった。
 せいぜいが、保育園の職員にそれとなく確認してみるくらいが関の山である。
「先生がいうのには、翔太君のお母さんから送迎する人が変わりますという連絡は来ていたそうだけど……」
 平日、仕事を優先している千種は、保育園に顔を出す頻度も極端に少ない。
 千種と親しい人も保護者の中には皆無といってよく、それがさらに興味を掻きたてる材料となった。
「ねえねえ、翔太君」
 ある時、どうしても好奇心を押さえられなかった保護者の一人が、翔太に直接訊ねる機会があった。
「最近、園に送り迎えしてくれるあのきれいな人、誰?」
「ゆえさん!」
「そー。
 ゆえさん、っていうの。
 それで、ゆえさんって、翔太君にとってどういう関係の人かな?
 お母さんの知り合いの方とか……」
「かんちゃんの奥さん!」
「……え?」
 翔太のいう「かんちゃん」とは、つまり完爾のことだ。
「完爾さん、結婚したの?」
「いつの間に?」、とか、「子連れと?」、とかいう疑問を口の中に押し込んで、さらに翔太に確認する。
「ゆえさん、あきらちゃんつれて来た。
 きれいだった」
 翔太の答えは、一向に要領を得なかったが、さらに好奇心を掻きたて噂を拡大する材料にはなった。

 一方のユエミュレム姫はといえば、保育園の保護者方面で自分のことが噂になっているとも思わず、マイペースで「こちらの世界のこと」を学び、実践しはじめている。
 掃除、洗濯などそれまでやっていた家事に加えて、ゴミ出しや買い物などにも手を出すようになった。
 もちろん、最初の一、二回は完爾がついて説明したわけなのだが、ゴミだしは曜日や日時が決まっているわけだし、スーパーで食材を買うのも会話は特に不要なため、すぐにコツをのみこんでタイムセールや値引きが行われる時間帯を把握して活用するようになる。
 初めてスーパーの中にはいったとき、ユエミュレム姫はただただ各種の食品ばかりがひたすら並んでいるその品揃えに圧倒されてしまったが、以前、完爾に教えて貰ったこの国の人口をことを思いだし、
「それだけ人が多ければ、日々、必要とされる食料の量も多くなるか」
 と、すぐに納得した。
 その後、帰宅してから、
「この周辺にはどれくらいの人が暮らしていますか?」
 と、完爾に確かめてみたところ、完爾はタブレット端末でグーグルマップを検索して見せてくれた。
「この地図の、この列島が日本って国の領土な。
 で、今、おれたちが住んでいるのが、このあたり。
 この市の人口は……ええっと、今、何万だったかなあ?
 とにかく……こう、ズームしてみるとよくわかると思うけど……。
 ずうっと、建物が密集しているだろ? これ、ほとんど住宅だから。
 このあたり一帯をひっくるめて、首都圏っていい方をしているんだけど、この首都圏の人口が、今、三千四百万人くらい、だったかな……」
 その数字を耳にして、ユエミュレム姫は眩暈にも似た感覚を味わう。
 一国に一億を超える人がひしめいていることを知ったときもかなり驚いたものだが、ユエミュレム姫が当然と感じる「国」の規模とは比較にならないのだ。
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