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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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資本主義ですが、なにか?

 翌朝、完爾はやはりいきつけのパン屋に向かった。
 仕事がある日に家を出る時刻と比べるとずっと遅いのだが、世間的にはまだまだ早朝といえる時間。ましてや、今日は日曜なのだ。
 もともと長閑な土地柄といういうこともあって、人通りはほとんどない。せいぜい、ジョギングだかウォーキングをやっているらしい人とか、犬を散歩させている人とたまにすれ違うくらいだ。
 何事もなく買い物を済ませて帰宅。

 いつ起きてくるのかわからない千種と翔太の分は後回しにして、ピザトーストを二枚分、オーブントースターにセットし、焼きあがるまでの時間でサラダとプレーンオムレツを手早く用意する。
 完爾とユエミュレム姫が食べ終わった頃に千種と翔太が起きてきたので、先ほど完爾の手順を見ていたユエミュレム姫が立ち上がって二人の朝食を用意しはじめた。
 サラダはさっき作ったばかりのものが冷蔵庫にあるし、他の工程もさほど複雑ではないので、完爾はうしろから見守るだけでやりたいようにやらせてみた。
 火加減が難しいかったの、オムレツを作る際に多少もたついたようだったが、それでもユエミュレム姫は特に問題なく二人分の朝食を完成させてみせる。
 その様子を見て、「少なくともキッチン周りの事に関しては、もう大丈夫かな」とか、完爾は思った。元々料理とかは、多少道具が進歩していても、材料を切るとか加熱するとか、基本的な部分はあまり変わらない。あとは地道にレシピを増やしていけば、さほど時間もかからずに大抵のメニューを作れるようになるだろう。あまり凝った料理に手を出さなければ。
 かくいう完爾自身も包丁もろくに握ったことがないことこからはじめて半年でどうにかここまで来た身である。
 日々の炊事をいくらかでも、無理のない範囲内で手伝って貰えるだけで有り難いのであった。
 それ以上に、平日の昼間はユエミュレム姫一人で留守番する事が多いので、その時の食事をあまり心配しなくてよくなったということの方が大きかった。いつまでも作り置きや冷凍食品を暖め直したものばかりでは味気がないし、健康にもあまりよくない気がする。

 日朝タイムを楽しんでいる千種と翔太を尻目に、完爾とユエミュレム姫は昨日、約束した通りに、半年分の完爾の家計簿を二人で読みはじめた。
 家計簿といっても、なんのことはない。一家の支出のうち、完全に完爾が消費した物だけをソートして印字しただけのものなわけだが、品目と金額が一対一で表示されているのでこちらの物価を教えるのにはもってこいなのだ。
 ユエミュレム姫は、数字はもうあらかた読めるそうなので、完爾は日本語の部分を指をさしながらむこうの言葉に翻訳していく。
 一通りの説明を終えた後のユエミュレム姫の感想は、
「食品類は、高い。
 衣料品は、安い」
 ということだった。
 むこうと比較して、なのだろう。
 むこうの世界は第一次産業が一番大事にされている中世的な世界であり、衣服に限らず不要不急な加工品は総じて高めの値段設定になっている。
 それ以外に判断に困るのは、ガスや電気、水道などのインフラに関わる料金、ならびに不動産料金。インフラ類に関してはむこうにはないも同然であったし、不動産に関してはあまりにも条件が違いすぎてなんともいえなくなってしいまう。
 ちなみに、むこうで考えられるインフラといえばせいぜい水脈の利権くらいになるわけだが、これについては主として農業用水確保のため、隣接する村同士で頻繁に争議が起こる。しかし、そういった例でも直接現金に関わる問題ではないのであった。利権は利権でも、むしろ、生存権とかに直結する深刻な問題だったりする。
 その他、スマホやパソコンなどの電子機器やかなりな割合を占める医療関係の諸経費については、金額として高めであることはわかるのだが、ユエミュレム姫の知識ではそれが果たして妥当な金額かどうかの判断はつかないようだった。
「……それで、これが今、日本で流通している金な」
 かなりの時間を費やして家計簿に関する解説を終えた完爾は、今度は財布の中から硬貨と紙幣を出してテーブルの上に並べだした。
「見たことはあるだろうが、改めてよく見ておいてくれ。
 そのうち、自分でもこれを使うようになるんだから」
「はい」
 ユエミュレム姫は一つ一つを手に取り、表と裏をひっくり返したりしながら真剣な顔でじっくりと眺めはじめた。
「紙の硬貨……紙幣というのは、この三種類ですか?」
「それぞれ、千円、五千円、一万円になるな。
 この他にも、二千円札というのも一時流通したそうだが、今では滅多にお目にかかれないから知らなくてもいい」
「……そうなのですか?」
「記念硬貨みたいな扱いだったそうだ。
 今でも、特定のATMとかではがっと出てくることがあるそうだけど……」
「そう。
 記念の……こちらにも、そういったものがあるのですね。
 それにしても、この紙幣というもの。
 印刷が精密ですね」
「偽造防止に、いろいろな工夫を凝らしているそうだ。
 おそらく、技術的には今の最先端に近いことをやっているんじゃないかな?」
「そう……ですね。
 紙を硬貨の代わりにすると、偽装対策も必要となりますか。
 軽くていいですけど、むこうの技術では無理なようです」
 高度な魔法を使えば偽造防止は可能な気もするのだが、そうすると今度は信用できる魔法使いをどこから連れてくるのか、という問題にぶちあたる。偽造対策に関わる根幹の魔法使いが自分勝手に紙幣を作ってしまいました、では済まされないからだ。
「この紙幣は、どこで作られるのですか?」
「造幣局だけど……実際に作業にあたっているのは、囚人だと聞いたことがある」
「……なるほど。
 勝手に作って外に持ち出したりできない立場の人を利用するわけですか」
 ユエミュレム姫は、一人、深くうなずいていた。

 完爾が近所のスーパーへ買い出しにいって帰ってくると、ちょうど段ボール箱を抱えた宅配業者が来たところにいきあった。
「……夕べ注文した服かな?
 ずいぶんと早いな」
 まだ昼前である。
 着払いだといわれたので胸ポケットに入れたままの札束の中から無造作に万札を何枚か抜き出して、押しつける。
 宅配業者の青年は札束の厚さにぎょっとした顔をしながらもすぐにお釣りを渡してきて、サインを受け取ってから玄関先に大きめの段ボールを置いていった。
 室内に入って開梱すると、シャツ、ジャケット、パンツがそれぞれ一着づつ。それと下着が何枚かとスニーカーが入っている。ブラジャーは、なかった。
「いや、あれは、実際に試着してから買わないと後で後悔するから。
 特に大きい人は」
「……そういうもんなのか?」
「そういうもんなの」
 不審な顔をする完爾に、千種はそう説明する。
 そういえばユエミュレム姫は、体格の割にはかなり「大きい」のであった。
「あの……カンジ」
 そのユエミュレム姫はといえば、段ボールの中に入っていた明細書を見て泣きそうな顔をしている。
「これ……高すぎると思います!
 カンジの一月分の食費より高額ではありませんか!」
「……いや、女性の服っていうものは、そういうもんだろう」
 という完爾にも、相場なんざわかりはしないのだが。
 というか、昨日、ネットで注文する際、値段は見ていなかったのか?
 完爾の見る限り、送られてきた服はユニセックスというか活動的な印象を受けるデザインのものばかりで、過度に華美なものには見えなかった。
「ちゃんとしたクオリティのものを選べば、それなりの値段はするさ」
 ユエミュレム姫の口調と表情からなんとなくどういう会話がなされているのかを察知した千種が、助け船を出してきた。
「それに、外に出た時に安っぽい格好をしていると足下を見られることもあるし。
 義妹ちゃんはただでさえ身元不明のガイジンっぽい見た目をしているんだから、外出時の服くらいはぱりっと決めていきたいところだよね。
 元お姫様なんだし、今の完爾はそれなりに懐も暖かいし、こういうところでお金をケチるのはやめておこう」
「服装で信用を買う、ということですか……」
 完爾が千種の言葉を翻訳して伝えると、ユエミュレム姫はなんとか納得してくれたようだった。
「……そうですね。
 わたくしは、ここでは異邦人なわけですから……」
 今着ているような、サイズの合わないスウェットスーツ姿で外出されるよりははるかにマシであることは、いうまでもない。
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