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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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緊急避難ですが、なにか?

「コンサルティング」に出現した千種はしばらく呆然としていたがすぐに気を取り直し、事情を聞きたそうな顔をしている白山さんにむかって手を伸ばして、
「電話、貸して」
 といった。
「はいはい」
 白山さんはすぐに自分のスマホを千種に手渡す。
 事務所の固定電話もあるのだが、こちらは現在ひっきりなしに電話がかかってきていて二名の事務員が対応している状態であり、しばらくは使用不可能だった。
 千種は記憶していた牧村研究室の番号を入力してそこに電話をかけ、出てきた人に名乗ると単刀直入に、
「この春に開講予定のエリリスタル王国語専門学校の所在地」
 を訊ねた。
 電話に出た者はいきなりの質問に面食らったようだったが、すぐに、
「麻布です」
 といったあと、具体的な住所まですらすらと答えたくれた。
 千種は手短に礼を述べて通話を切り、今度は白山さんにむかって、
「靱野さん、グラスホッパーが最後に確認された場所は?」
 と問う。
「テレビで確認できたのは、六本木ね。
 大きなカエルと戦ってたけど……」
「そのあと、南下して麻布方面へバイクに乗って移動している目撃情報がネットにありました!」
 事務員の一人が、勢いよく情報を補足する。
「……六本木から麻布なら、目と鼻の先か」
 千種は、小さく呟く。
「ねえ、白山。
 その辺で、だだっ広い場所っていったらどこになる?」
「広い……ですか?」
 白山さんは、怪訝な顔つきになる。
「具体的に、どれくらいの面積を考えればいいのかで違ってきますが……」
「広ければ広いほど、いい」
 千種は断言する。
「なんか危なそうな……いきなりぼかーんと爆発するかも知れない実験をするとして、周囲の被害をあんまり与えなさそうな、そんななにもない場所は……」
「……この過密な東京に、そんな場所が……」
 と白山さんがいいかけると、
「陸上でなくてもいいのなら、すぐそこにちょうどそんな場所がありますけど」
 事務員が、口を挟んできた。
「……陸上で、なかったら……」
 千種は目を見開いた。
「……そうか!
 東京湾!」

 直接、他人の精神体に魔力を注ぎ込む行為は完爾にしてもはじめてのことだったので、ユエミュレム姫にも手伝って貰うことになった。
 というか、こんな乱暴な行為は、普通にやらない。よほど必要に迫られなければ、まずやらない。
 魔力も精神体も目に見える物体ではないので、「なんとなく」というかなりアバウトな感覚だけが頼りになる。
「……行きますよ」
 完爾が靱野に声をかける。
「いつでも」
 こころなしか硬い声で、靱野が答える。
「ここいらで……たぶん、いいと思うんだけど……」
 完爾は自分の魔力を収束させて、靱野の体幹部、みぞおちのあたりに突き刺そうとする。
 魔力は物質ではない。
 だから、「突き刺さる」という表現は実は妥当ではないのであるが、とにかく、細長く収束した完爾の魔力は靱野の体内に潜っていった。
「痛みとかは感じませんか?」
 ユエミュレム姫が、靱野に確認してきた。
「痛みはないですが、違和感というか不快感というか……もやもやーっとした感じがします」
 靱野はそう応じる。
 ……精神体とはいえ、自分の内部に異物が入ってきているのだから、それなりに「感じる」ところはあるのだろう。
 精神体に神経が通っているわけではないので、「気のせい」といってしまえばそれまでなのだが、その「気のせい」が現実に反映してしまうのも魔法という現象の特色でもあった。

「少し、魔力を注いでみます」
 完爾はそういい、即座にその言葉を実行した。
「……お? お?」
 靱野が、奇妙な声をあげる。
「むず痒いというかなんというか……妙な感覚が。
 あ、あ」
「特に不都合な変化はないようですね」
 靱野の体周辺の魔力の動きを追っていたユエミュレム姫が、慎重な口振りでそういった。
「靱野さん、ご気分は?」
「変な気分です」
 靱野は、即座に答える。
「なんというか……うまく、言葉にできない」
 魔力不足で落ちていた靱野の周りの仮想巻物のウィンドウが、いつの間にか、明かりを取り戻していた。
「もうちょっと、ドカッと入れますか? 魔力」
 問題はなさそうだ、と判断した完爾は、そういった。
「そうですね。
 いっちゃってください」
 靱野も、そう応じる。
「時間が惜しいし。
 ……って、あれ!」
 仮想巻物をチェックしていた靱野は、いきなり大声をあげる。
「魔剣バハムの異常を観測。
 周囲の空間が歪みはじめています!」
「そいつは、大変」
 次の瞬間、完爾は三つのことを同時に行う。
 靱野の体内に一気に魔力を送り込む。
 魔剣バハムを「引き寄せる」魔法を発動。
 同時に、転移魔法も使用した。

「……うわっ!」
 靱野はまた大声をあげて、その場に尻餅をつく。
 一気に体内魔力が充填されたため、目眩を起こして立っていられなくなったのだった。

 そして、完爾の手には、抜き身の魔剣バハムが握られていた。

「……ヤバいなあ……」
 魔剣バハムを一瞥し、完爾が呟く。
「こいつ……おれの魔力を、一気に吸い込んでやがる……」
 靱野に与えた量とは比較にならないほどの魔力を、魔剣バハムは吸引していた。
「……制御、できませんか?」
 ユエミュレム姫が冷静な声で訊ねる。
「おれが逆に聞きたい!」
 完爾は少し声を大きくした。
「どうすりゃあいいんだ?」
「……魔力を吸い込んでいるってことは、その剣はもう起動しているってことで……」
 靱野がユエミュレム姫の周囲にもモニター用の仮想巻物を浮かべながら、冷静に指摘する。
「早いところ止めないと、暴走する可能性もありますね」
「こいつ、暴走するとどうなるの?」
 肝心なことを完爾が確認してきた。
「さあ」
 靱野は、首をひねる。
「そこまで大量な魔力を消費しているということは……おそらくは、空間操作系の機能をかなり大規模に発動中なんでしょうけれど……。
 具体的な効能となると、さっぱり……」
 冷静に説明しながらも、靱野の額にはびっしりと冷や汗が浮かんでいた。
「魔力の送信を強制的に中断したら、どうなる?」
 完爾は次の質問をぶつけた。
「予測不可能です」
 今度はユエミュレム姫が答えた。
「機能を停止するのか、それとも半端な形で空間を歪めようとするのか……わたくしたちの採取したデータからは、そのどちらともいえません」
「……そんじゃあどうしろってんだよ、これ!」
 完爾は大声を出す。
「とりあえず、場所を変えましょう」
 靱野は提案した。
「空間の歪みがこれ以上大きくなる前に、周辺になにもない……万が一のことが起こっても、あまり迷惑がかからないようなところに移動しておいた方がいいかと……」
「この剣……もうかなり、周囲の空間に影響を与えはじめているからなあ」
 品野の提案を聞いて、完爾は顔を歪めた。
「今の状況で転移魔法を使用しても、着地点を正確に限定するとは思えないし……長距離も、無理だ。
 せいぜい三十キロ……以下、くらいの移動距離しか保証できない」
「それだけあれば十分です」
 ユエミュレム姫はそう指摘した。
「ここはアザブ。
 それくらい南下すれば、そこはもう海の上です!」
 当然のことながら、ユエミュレム姫は準備中だったエリリスタル王国語学校の所在地を知っていた。
「そうか、東京湾ね」
 完爾は、呟く。
「それじゃあ、そこに跳ぼう」
 ユエミュレム姫と靱野は素早く完爾の肩を掴み、次の瞬間には三人の姿はその場からかき消えている。
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