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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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荒ぶる剣ですが、なにか?

「でも、ねーちゃんはここまでな」
 そういって完爾は、千種の肩に手を置いた。
「……え?」
 気づくと、千種は「門脇コンサルティング」の事務所に立っていた。
「……ままー……」
 と、いち早く千種に気づいた翔太が抱きついてくる。
「……あんにゃろ……」
 転移魔法によってここまで送られたのだと気づいた千種は、低く唸った。

「仲間外れにして、あとで怒られませんか?」
 ユエミュレム姫が、完爾にいった。
「……んー……」
 完爾は無意味に天井を見る。
「たぶん、怒られるんだろうけど、ここから先は本気で危いかも知れないからなあ」
 一般人であるねーちゃんまで巻き込むのは、気が引けるわぁ、と、完爾はいう。
「賢明な判断だとは思いますけどね、おれも」
 兜を脱いだ靱野が、仮想巻物に高速で流れる文字をチェックしながらいった。
「ただ、例の剣が暴走したときの対処法ってのが、ちょっと思いつかないんですけど……。
 その辺は、どうするつもりなんですか?」
「ユエと靱野さんに協力して貰って、おれの魔力で押さえ込む」
 完爾は胸を張っていった。
「そいつは……」
 靱野は一瞬、目を見開いたあと、
「……ま、それしかないでしょうねえ。
 現状では……」
 といった。
 剣の制御法の詳細が判明していない以上、完爾の膨大な魔力に賭けるしかないのだった。
「申し訳ありません」
 ユエミュレム姫が靱野に頭をさげる。
「無茶な賭けにつきあわせてしまって」
「いえいえ。
 お気になさらず」
 靱野は苦笑いを浮かべる。
「なんだかんだいって、こっちもこういうのはいつものこってすから」
 この靱野なども、潜ってきた修羅場の数は完爾よりも多いのだろうな……とか、完爾は思っていたら、靱野の体がぐらりと揺れる。
 同時に、展開していた仮想巻物が点滅をはじめた。
「……おっと」
 完爾は手を伸ばし、靱野の背中を支える。
「面目ない」
 低い声で、靱野はいった。
「限界。
 どうやら、おれの魔力が完全に底をついたみたいです」
「ちょっと荒っぽいけど、パスを通しておれの魔力をそちらに流れるようにします」
 即座に、完爾は決断する。
 靱野と完爾の精神体に直接干渉し、手を加えれば、そんなことも可能ではあった。
 少なくとも、理論上は。
 たとえていうのなら、ろくな準備も器具も麻酔もなしに有り合わせの刃物だけ素人が外科手術をするような……そんな、かなり乱暴な行為ではあったが……。
「……それしか、手がなさそうですね」
 靱野は、掠れた声でそういった。
 完爾が「博士」のポケットに入れた式神の紙をトレースできるのは、現状、靱野ただ一人なのだ。 

 品川駅近辺にあるホテルの一室に、「博士」はいた。
「手練れ二人を一度に相手にするのは、いささか無謀だったか」
 声に出して、そう呟く。
 体中汗まみれで、衣服が肌に張りついていた。
 汗を流したい、という気持ちも強かったのだが……。
「博士」は、手の中にある抜き身の魔剣バハムを見おろす。
「……ふふ」
 ついつい、小さな笑い声を漏らしてしまう。
「ふふふふふふ」
 ついに、これを、手に入れたのだ。
 新しい世界への扉を開く鍵……に、なりうるものを。
「博士」は、目新しいものに餓えていた。
 好奇心が強い上に、「アカシックレコードを読む」とさえ揶揄されるほどの極端に精密な操作能力を持ち、おまけに事実上不老不死で極端に長い寿命まで持っている。
 これだけの条件が揃ってしまえば、どのようにふるまっても退屈するしかない。
 なまじものの本質や来歴を見極められるため、膨大な過去の知識を参照すればたいていの事物の将来像もおおかた予想できてしまう。
「博士」にとって生き続けるということは、過去に繰り返し読んだ本や観賞した映像を、さらに何度も、しつこく繰り返して見るように強制されていることに等しい。
 なにもかもが見慣れたもの。見おぼえがあるもの。
 そんな中、「博士」の能力では見通せなかったユエミュレム姫の存在を知った。
 異世界から来た人。あるいは、もの。
「既知」ではなく、「未知」のもと出会うこと自体が、「博士」にとってはかなり新鮮な経験だった。
 その上、興味を持って調べていくと、魔剣バハムとかいうものを使用すれば、他の世界に行ける可能性すらあるという。
 興味を持たないわけにはいかなかった。
 その存在を知ったときから、この手に取り、自在に使いたい衝動に駆られた。
「博士」は、その手の中に収めた魔剣バハムを子細に観察する。
 本体である刀身は、材質不明の金属で造られている。少なくとも、「博士」がまるで知らない物質であることは確かだった。
 柄の部分には、やはり正体不明の動物の革と布とが丁寧に巻かれていた。
 そして全体に、強度や耐久度を増強する魔法が幾重にもかかっている。この魔法は、製造時からかかっている魔法であるのか、それとも、現在の所有者である完爾がかけたものなのか、「博士」には判断がつかなかった。
 それ以外にも、柄の周辺に、まだかなり過剰な魔力がまとわりついていた。
 もともと、鞘から抜かれないための封印として使われていた魔力であった。その封印を「博士」が解いてしまったため、他に行き場がなくて剣の柄周辺に留まっている。
 たかだが「封」をするのに使用するのにしては、あまりにも膨大な魔力量だった。

 そうだ。
 この魔力を、そのままこの剣の機能を検証する為に使うことしよう。
「博士」は、そう思い立つ。
 これほど膨大な魔力をそのままにしておくのは、あまりにも勿体ない。

「博士」は、慎重に、自分の全能力を解放して、剣の内部を解析しはじめる。
 物理的には、ごく普通の「剣」であった。
 丁寧な鍛造をなされたことは確認できたが、ただそれだけだ。
 普通の剣としても、まず第一級の品質だとは思うが……構造としてはとても単純なもので、とてもではないが、世界とか次元を操作するような仕掛けがあるようにも見えない。
 人の手が加わっているとはいえ、基本的には単なる金属の塊でしかなかった。

 剣そのものに仕掛けがないとすれば……。
「博士」は、今度は、本体以外の部分を子細に検証していく。
 とはいえ、鞘も置き去りにしてきたしまったので、もう柄に巻いてある革や布くらいしか、未検証の部分は残っていないわけだが……。
 それでも、念のため詳細に探ってみた。
 なんの動物の革かまではわからなかったが、革は革。
 どんな植物から繊維を集めたのか判別できなかった、布は布。
 本体である剣と同じく、由来が不明であるという以外には、なんの変哲もない代物だった。

 それでは、この剣の特異な性質はどこに由来するのか?
「博士」は、これまで以上に慎重な態度で、魔剣バハム全体を点検していく。
 そして、ごく些細に、ではあるが、剣の周囲の空間が不自然に歪んでいることに気づいた。かなり注意深く観察しなければ判別できないほどに、小さな歪みではあったが……。
 質量を有した物質の周囲では、空間が歪む。その空間の歪みを、この世界の人間は「重力」と名づけている。
 だから、どんな物質であれ、質量があるのならばそれなりに周囲の空間に影響を与えているわけだが……そうして自然法則に則ったものではない、「博士」のような特異な能力の持ち主でなければ関知できないような些細で不自然な歪みが、魔剣バハムを覆っている。
 ……これか。
「博士」は、そう思い……その歪みの一番目立つ部分に、剣にまとわりついいていた完爾の魔力を押し込んでみた。
 一度刺激してやると、剣を覆った歪みは、最初はゆっくりと、そして、徐々に速度を増しながら、魔力に吸い込みはじめた。
 一度吸い込みはじめると、あれだけ膨大にあった完爾の魔力が、みる間に魔剣バハムに吸収されてしまう。
 ……なんだ、これは?
 と、「博士」は訝しむ。
 あれほど膨大な魔力を吸い込みながら、しばらくは、魔剣バハムがなんの変化も示さなかったからだ。

 しかし、しばらくしてから、変化は唐突に現れた。

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