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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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脱出の試みですが、なにか? 

 魔法を使用してドアの鍵を変形させて、機能を喪失させる。そうすることでユエミュレム姫と千種はモニターばかりが設置された異様な部屋からあっさりと脱出した。
 ドアのむこうはなんの変哲もない廊下、だった。
 照明がついていなかったのでかなり暗かったが、それをのぞけばとこかのビルの一角、といってもなんら違和感がない光景である。

「……なんか、普通だな……」
 拍子抜けしたような口調で、千種がいう。
「見張りとかもいないみたいだし……」
「まだ、油断はできませんけどね……」
 ユエミュレム姫は千種をたしなめた。
「このままうまく、カンジと連絡が取れる場所までいけるといいのですが……」
「そうだなあ。
 うまいこと公衆電話がある場所までたどり着くか、それとも親切な通行人と出会ってその人に警察まで連絡をして貰うか……」
 二人ともユエミュレム姫が作った多重の自衛用術式に保護されている身なので、自分自身が傷つけられる可能性を案じてはいなかった。
 そのせいか、二人とも口調が軽く、緊迫感がない。
 二人は忙しなく周囲の様子を伺いながら、慎重に暗い廊下を歩きはじめた。
「……窓もないというのは不自然だなあ……」
 千種が、そんなことをいう。
「せめて、スマホが取りあげられていなかったら、その明かりが使えるんだけど……」
 実際、廊下は足下を非常灯の頼りない明かりが照らしているだけの状態で、歩いているととても心細く感じる。
「……荷物もすべて取りあげられてしまいましたからね」
 ユエミュレム姫はそう答えておいた。
 二人とも、スマホが取りあげられたのは、スマホがGPSにより現在地を発信する機能がついているせいだと理解した上で、あえてそのことを口に出そうとはしていなかった。

「敵の目的がわからない、ってはなしなんだけど……」
 心細いのか、千種は会話を途切れさせないように気をつけているようだった。
「そもそも、わたしらを捕まえて隔離したのはなんでなんだろう?
 わたしらをだしにして、完爾を脅したということもないようだし……」
 モニターに映った光景を観ていれば、それくらいのことは想像がついた。
 どうみても、モニターの中の完爾は脅迫によって行動の制限を受けていたようには見えない。
「わたくしたちとカンジとを、引き離すこと自体が目的だった……とか?」
 ユエミュレム姫も首を傾げる。
「……その点は、確かに不可解ですね」
 完爾と自分たちを引き離さなければならない理由、というのが、思いつかない。
「まあ、それをいいだすと、今回の一連の騒動全部が、なんかチグハグで根本的なところで噛み合わっていない印象があるんだけど……。
 そもそもの目的がわからない、とか、やり口が遠回りで無駄が多いとか……」
 廊下はどこまでも続いているような気がした。
 しばらく歩けば非常階段かエレベーターに出ると踏んでいたのだが、なかなかそうした脱出口には出くわさない。
 廊下の壁には一定間隔でユエミュレム姫や千種が出てきたようなドアが並んでいるのだが、そのひとつひとつを手探りで開けてみようとしても、鍵がかかっているのか開かなかった。
 ユエミュレム姫の魔法により開鍵することは可能だったが、そもそも周辺に自分たち以外の気配がまったく感じられない。
 開けたところでこの場から脱出にすることに役立つものが入手できるとも思えず、そのまま進むことにした。

「それにしても、ずいぶんと大きな建物のようですね。ここは……」
 ユエミュレム姫が、そんなことをいう。
「そーだねー……」
 千種も、軽い調子で返答した。
「……ただ、近場でこれほど大きな建物となると、それなりに数も限られてくると思うんだが……」
 あくまで千種の体感で、だが、かれこれ百メートル以上も直進を続けている気がする。
「……ここが近場とは限らないのではないでしょうか?」
 ユエミュレム姫が疑問を口にする。
「目隠しされていたとき、転移魔法を使用されたような感触もありましたし……」
「……知らないうちに国内脱出とか、勘弁して欲しいなあ」
 千種は、そうぼやいた。
「パスポートも持っていないのに……」

 そんなやりとりをしているうちに、どうにか非常階段らしき場所にたどり着いた。「らしき場所」というのは、ドアの上に「exit」という表示があったからだった。
「英語か」
 千種が呟く。
「やっぱ、国外なのかな?」
「外に出てみればはっきりします」
 ユエミュレム姫は、そのドアの錠の部分を魔法で変形させながら、答えた。
「さ、開きましたよ」

 二人はそのドアを開き、中に入った。
 やはり非常灯以外の照明はついていなくて、とても暗い。
 そこは鉄筋が剥き出しになった階段で、階下へと続く方向は鎖で閉ざされて、「Keep out」と書かれた看板がその鎖にぶら下がっていた。
「……上への一方通行か……」
 千種が呟く。
「なんだか、変なにおいがしますね」
 ユエミュレム姫が鼻に軽く皺を寄せた。
「……機械油の匂い……かな?」
 千種も、首を傾げた。
「ボイラー室でも近くにあるのかな?
 とりあえず、素直に上にいってみようか」
「そうですね」
 ユエミュレム姫も素直に頷く。
「通行止めになっているところへ、わざわざ足を運ぶ必要もないでしょう」
 そして二人は、その階段を上へ上へと昇りはじめる。

 そしてその階段を最後まで昇り、そこあったドアも壊して開いた先にあった光景を見て、二人は息をのんだ。
 そこには、予想外の光景が広がっていたからだ。
「……海?」
 千種が、茫然と呟く。
 空気が、磯の香りを含んでいる。
「海……ですね」
 ユエミュレム姫も、頷いた。
「今までいた場所は、大きな船の中だったみたいです」
「こりゃ……本格的に隔離されたっぽいな」
 微妙な表情になった千種が、そういった。
「これじゃあ、助けを呼ぶこともできやしない。
 仮にここで他の人を見かけたとしても、この分ではまず確実に敵の仲間だろうし……」
「……公衆電話もありませんか?」
 ユエミュレム姫は、そんなことをいった。
「……ないだろうねえ」
 千種は、ため息混じりにそう返す。
「この分では、わたしらの現在地を陸地に伝える方法はほぼ取り上げられているんじゃないかな?」
 周囲を見渡していたユエミュレム姫が、なにかを見つけてそちらの方向を指さした。
「……むこうに、陸地が見えますよ」
「なに?」
 千種は、ユエミュレム姫が指さした方向をむいて、甲板の上を駆けだした。
 そして、甲板の橋にある手すりから身を乗り出して叫んだ。
「本当だ本当だ!
 あれは……スカイツリーが見える!
 ここ、東京からまさそんなに離れていない場所だ!」
「でも……泳いで渡る距離でもありませんよね」
 千種と並んで目をすがめながら、ユエミュレム姫が冷静に指摘した。
「かなり、遠そうですが?」
「……だよねえ」
 千種も、気の抜けた声を出した。
「ああ、もう!
 見えるのに手が届かない距離ってのが一番もどかしい!
 なんか、むこうにこちらの居場所を知らせる手段はないかなあ!」
「……日本の近海にこれだけ不振な船がいれば、怪しまれないものでしょうか?」
 ユエミュレム姫が、首をひねる。
「これだけ大きな船でしょうし……普通の航海ではありませんよね? 今の状態は……」
「そういえば、走っていないな。この船」
 千種も、ユエミュレム姫の言葉に賛同する。
「漂流……ってところかな?
 こんなデカい船だし、半端に陸地に近いし、いずれ、海上保安庁がなんらかのアクションを起こしてくれるか。
 ……っていうか、他に人いないのかな。この船。
 敵だろうななんだろうが、こんなデカい船にわたしらだけ放置って、あまりにも意味不明すぎる」
「やはり、わたくしたちを他の人たちから隔離すること自体に意味があったのでしょうか?」
 ユエミュレム姫はそういった。
「敵にとって、ということですが」

「ご明察、といっておきましょうか」
 いつの間にか、白いタキシード姿の白人男性がすぐそばに立っていた。
「こうしてきちんとご挨拶するのははじめてのことになりますね。
 ユエミュレム・エリリスタル姫様。
 それに、門脇千種様。
 わたしのことなら「大使」とお呼びください。本名ではありませんが、そちらの名な一番通りがいい。
 ところで……」
「大使」は、最後にこうつけ加えた。
「……お二人は、わたしの名刺を必要としますか?」
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