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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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推測ですが、なにか?

 警察の車両に先導されて去っていく自分自身の姿を靱野は物陰から見守っていた。
 今、二輪車種族に跨がって移動しているのは靱野が式紙術式から作り出した、外見のみを模倣するダミーだった。怪人側もマスメディアその他で配信されている情報はチェックしているはずだし、この先、自分の行き先を予測して準備されても無駄に疲弊するだけと判断して、昔なじみの伏見警視と相談の上、ダミー式紙を多用することにした。
 これら各種式紙などのアイテム類は過去に靱野自身が自分の魔力を込めて製造したものであり、その使用にあたってもほとんど体内魔力を損耗しない仕様となっている。まだまだ数多くの敵が健在な今、いかに自分の損耗を押さえて最後まで戦い抜けるかというのが大きな鍵となっている、と、靱野は思っており、特に魔力は可能な限り温存していく方針を固めていた。
 もちろん、身体的な負傷にも十分気をつけることは大前提になっているわけだが。
 各種術式やアイテム類に守られているとはいえ、靱野は完爾のように無尽蔵の魔力や体力、それに負傷してもすぐに再生すうような不死身の肉体を持っているわけではない。
 戦い続けるためには、戦略も戦術も必要不可欠だった。
 靱野は懐中から人型に切り取られた紙片を何枚か取り出し、数十秒呪文を詠唱してからそれに息を吹きかける。
 するとその紙片は靱野の吐息に舞い、空中で翻って現在の靱野と寸分違わぬ姿に変じた。
 ダミーを作成する式紙、だった。
 機能は外見を模倣して指示をした方向に漂うことのみで、物理的な攻撃力や守備力はまったくなく、目くらましや攪乱くらいにしか使えない。
 しかし、現在の状況下において、靱野はその攪乱機能をまさくし必要としていた。
 靱野は式紙で作ったダミーに、
「別々の方向に進み、誰にも捕まらないように進み続けろ」
 という単純な指示を与えて、その場から去る。
 次の怪人がいる現場へ、と。

 モニターにはグラスホッパーや完爾が次々と怪人たちの犯行現場を力づくで制圧していく様子が映し出されている。そのほとんどが、テレビ局から普通に中継されている画像だった。見覚えのあるアナウンサーが実況している場合もある。
 二人とも神出鬼没であり、次にどこに現れるのか、事前に予測することは不可能だった。
 テレビのある局ではネットの巨大匿名掲示板やSNSなどのメディアの反応についてもチェックしていたのだが、特にグラスホッパーの目撃情報はかなり錯綜しており、それらの目撃情報をつなげると、同時に何人ものグラスホッパーが存在している、という結論になってしまう。
 今、この時期に限って多くの偽物が出現しているとも考えられないから、グラスホッパー自身がなんらかの工作をしているのだろう、と、ユエミュレム姫は予想した。
 完爾ほど自由に魔法を使用できない靱野は、そうして自分自身が移動する間にも敵を攪乱しようとしているのだ、と、ユエミュレム姫は予測する。
 現実的な視野に立った対処法だった。
 数分に一回、どこかに出没しては短時間でその場の事態を収めてすぐに姿を消していくグラスホッパーと比較して、完爾のやり方はもっと乱雑でぶっきらぼうだった。
 現場のただ中にいきなり現れて、魔法によってその場にいる怪人の動きを問答無用で封じ、民間人の安全を確認してから姿を消す。そして、ほとんど時差をおかずに次の現場に唐突に現れる。
 自身の安全にはあまり関心を払っていないのか、ときに大きな負傷も負っているようだが、例の再生能力によってすぐに回復して数分後には涼しい顔をして立っている。
 その場に居合わせた民間人たちは、、場合によっては自分たちに直接的な被害を与えていた怪人たちよりも、そんな人間離れした完爾にむけた視線の方が痛々しいものになっていたのは、気のせいだろうか?

「……あの二人ならば……」
 あの二人が同時に動き始めたのなら、もはやこの事態全体が収まるのも、時間の問題となるだろう。
 そう、ユエミュレム姫は思った。
 怪人たちは、一般市民や警官には強く出られても、あの二人に対抗できるほどには強力な存在ではないようだった。
 そして、その結論に対して……ユエミュレム姫は、強い違和感をおぼえた。
「……では、なぜ……」
 今の状況は、わざわざ作られたのか?
 靱野=グラスホッパーは、彼らにしてみれば旧知の敵であったはずだし、完爾も、年末の対「大佐」戦をみれば、どれくらい脅威となるかは理解できそうなものだ。
 完爾もグラスホッパーも、怪人だけで手に負える存在ではない。
 にもかかわらず……現在のこの状況を演出し、自分や千種をこんなところにまで連れてきて監禁する、その意図はどこにあるのか?
 そもそも。
 自分や千種を、このどこともわからない空間に隔離したことには、いったいどんな意味があるのだろうか?
 誘拐……としてみると、かなり不完全な形だった。
 なぜなら、自分たちはここに連れてこられただけで、残された完爾には、どんな通告も要求も出されていない。
 人質を取って、その人質の安全を保証する代わりになんらかの要求をすることで、一般にいわれる「誘拐」という犯罪行為は完結するのではないだろうか?
 その意味で、現在、ユエミュレム姫と千種が置かれている状況はどうにも意味が理解できず、いっそう不気味に感じた。
 ユエミュレム姫は傍らにいる千種に、今感じている危惧について、論理立てて説明していく。
 千種はユエミュレム姫の説明を一通り、静かに聞いたあと、
「……わたしたちが自力でここから脱出することは?」
 と、短く訊いてきた。
「可能か不可能かといったら、おそらくは可能だと思います」
 ユエミュレム姫も、短く答える。
「ですが、敵の意図がわからない以上、そうした場合、なんらかのペナルティが発生する可能性もあります。
 その辺は、賭けになりますね」
 実は、ユエミュレム姫自身も、ここに連れてこられてからすぐに、そうしようかと迷ったのであるが……いろいろ考慮した結果、おとなしく軟禁されるままになることにした。
 ユエミュレム姫の魔法を使用すれば、この場をなんとかすること自体はたやすい。
 しかし、わざわざ人を使ってこの場へ連れてきた以上、そこにはなんらかの意味があるはずなのだ。
 現に、ユエミュレム姫がこの場にいる以上、この場から動いたら、首都圏の他の場所にいる怪人たちが暴れ出す恐れがあった。
「……わたしたちをこの場に隔離したこと自体が、敵の意志表示……というわけか?」
 短い言葉だけを受けて、千種も、自力でユエミュレム姫と同じ結論を出す。
「まあ、実際に自分たちの身に危険が迫っていない以上、わざわざ自分でより危険になる可能性をあげるわけにもいかないから、しばらくおとなしくしているのはいいとしても……。
 なんか、引っかかるなあ」
 千種は、そういって、しばらく低く唸る。
「わたしたちがここに隔離されることで、やつらにいったいなんのメリットがあるんだ?」
 その千種の言葉に触発されて、ユエミュレム姫の頭脳が回転数をあげる。
「……完爾に、選択をさせます」 
 ユエミュレム姫が、低く告げる。
「……選択?」
 千種はユエミュレム姫に訊き返した。
「いったい、なんの?」
「……ます最初は、わたくしたちと、それに、保育園。
 そのすべてを質に取って、誰を最初に救い出しにいくかという選択を迫りました。
 その次は、行方知れずとなったわたくしたちと、その他の一般大衆。
 そのどちらを優先して救いにいくかという、選択です。
 彼らは……いえ、この事態を作りあげた者は、大勢の怪人たちを利用して、ただ一つのことをしているのです。
 完爾に多くの選択を迫り、完爾の価値観を探ろうとしているのです」
「……この大騒ぎ自体が、性格テストやアンケートみたいなもんだっていうのか?」
 千種は、ユエミュレム姫の推測を耳にして唖然とする。
 なんと壮大で、そして無駄、無意味な……。
「ただそんだけのために、一体どれほどの被害を出しているのかって考えると……なんというか……」
 あまりにも、リアリティを欠いた発想だ、と、千種の中の常識的な部分がユエミュレム姫の推測を否定している。
 しかし、そもそも……完爾やユエミュレム姫たち自体が、その常識から大きく逸脱した存在ではなかったのか?
 彼らの属する場所でなら、そんな破天荒で狂った論理も、まかり通ってしまうのかも知れない……と、千種の中で腑に落ちる部分も、あるのだった。

「……そんな、馬鹿な……」
 と、もう一度、千種は呟く。
 あるいは、自分自身に対して、そう言い聞かせようとしているのかも知れなかった。
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