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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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試写ですが、なにか?  

 二月に入り、完爾はしばらく別の仕事をさせていたデザイナー二人に本来の業務をやって貰うことにした。最初ということもあって、会社の中では低価格帯品になるプラスチック製品のデザイン案を提出して貰い、営業さんなどの意見もフィードバックした上で完成させ、その場で完爾が五十個づつ作った。

「こうした低価格帯の商品というのは、実は、ほとんど利益はでてない。
 じゃあなんでうちがこういう低価格帯を作り続けるのかというと、ひとつは若年層へうちのブランドを印象づけるため。もうひとつは、こういう場所で市場の傾向を探る、一種のマーケットリサーチとして活用しているわけで……」
 だから、単価が安い商品でも馬鹿にしないように、と説明したあと、二人のデザイナーに実際に店頭に立って、自分の商品を売らせてみた。
 一応、先に売り切れた人に、金額はそれなりだが金一封を出す、とはいっておいた。
 この場合、金額の多寡よりも、自分でデザインした商品を自分で売ってみて、手応えを感じて貰うこと、それに、競争意識を持って貰うことが目的だった。

 実は、完爾の会社で扱っている商品のうち、比較的高額な、オーソドックスなデザインの商品については、宣伝らしい宣伝をしなくても堅調に売れている、という現実がある。王族であるユエミュレム姫が見知っていたデザインをそのまま流用しているのだから、長い年月で淘汰され、洗練されたデザインになるのは当然のことで、このラインが会社の利益の大きな柱になっている。
 ただ、いつまでもその堅調な分野にばかり頼っているのも危ういから、安手の商品や外国人観光客向けの奇抜な商品なども展開しているわけだが、新たに採用したデザイナーにはやはり今までにはない分野を開拓して貰いたいものだと、完爾は期待している。
 堅調な部分は堅調な部分として大事にした上で、攻めるべき部分では攻めていかなければ、事業が縮小していくばかりではないか。
 完爾自身は自分を経営者として優秀であるとは全然思っていないのだが、それでも先細りになる一方の未来よりはそうでない未来の方を選択する。そのためには、それなりの布石を今のうちに打っていく必要があるのだった。

 取材の件は、ぼちぼち落ち着いてきている。
 職場に張りついていた取材クルーの人数が徐々に少なくなっている最中だった。あと何日かすれば、完全に撤収を完了するのだろう。
 編集作業などの作業があるで、実際に番組の完成品ができあがるまでにはまだ何日かかかるようだが。

 取材班と入れ替わるように、学術関係の調査依頼が何件か会社宛に来るようになった。
 この間行った筑波での公開実験の際、映像や観測データをリアルタイムで内外の研究者へ送信していたらしく、追試の要請を直接こちらに送ってきたのだった。

「あまり大人数が来るのでなかったら、うちの職場にいらしてください」 
 それらの要請については、完爾は一律にそう返答をした。
「こちらの職務に差し障りがない範囲内でなら、協力できます」
 つまりは、仕事を休んでまで対応するつもりはない、ということだった。
 その条件を了解できたいくつかの団体が、後日、機材を持ち込んで職場まで押し掛けてくることになるのだが、完爾の側としては特に期待することもなかった。
 せいぜい、完爾の使用する魔法に種も仕掛けもないということを証言する人たちが増えていくことくらいか。
 千種によれば、完爾の魔法を実見した様子の報告もぼちぼち学会方面に流通しているようだが、まだまだ実測データを整理している段階であり、魔法がなぜ実現するのか、といった本質的な疑問に切り込んでいる者はいないということだった。
 ま、そんなに簡単には解明できないだろうな、と、完爾も思う。
 それでも、学者さんたちに協力しておけば、いつかは魔法についても科学的な見地で説明をしてくれる日が来るのかも知れない……という希望もあったので、応じられる範囲内で協力はしておく、というのが、完爾のスタンスであった。

 二月に入ったある日、取材班が完全に撤収してから数日が過ぎてから、門脇家に一枚のDVDが送られてきた。
 編集作業を終えた取材班が、放映用のデータを送ってきたのだった。
 たまたま在宅していた日だったため、ユエミュレム姫がそのDVDを受け取り、そのことをメールで完爾に連絡してきた。
 せっかくだから、完爾はその日の仕事をいつもよりも早めに切りあげ、普段よりも早めの時間に帰宅し、ユエミュレム姫と一緒に鑑賞することにした。

 遅めの夕食を摂りながら観たのだが、そのドキュメンタリー番組は、意外なことに冒頭で完爾の空白の十八年間についてそれなりに時間を割いて説明していた。
 姉の千種をはじめとして周囲の人々への証言や役所の記録なども丁寧に取材して、完爾がどのように失踪し、どのようにまた姿を現したのかを明らかにし、そのあと、完爾が再びこの世界に現れてから半年後に突如出現したユエミュレム姫の少し長めのインタビューへと移る。
 ユエミュレム姫は淡々とインタビュアーに問われたことに答えていくだけだったが、編集がうまいのかかなりの緩急があって、興味が持続するように仕上がっていた。

 ユエミュレム姫の故郷と、こちらの世界との比較。
 完爾が、むこうではどのような存在であったのか。
 こちらの世界のこと。
 今、ユエミュレム姫や完爾を取り巻いている状況。
 魔法について。
 そうした要素について要所を押さえた上で、短い時間にまとめられていた。

 それから、現在の完爾がしている会社について、どのように設立し現在に至るのかの説明が入り、従業員や周辺の人々の証言や完爾が仕事をしているときの様子などが挿入される。
 このパートも、短い時間で手堅くまとめられていた。

 そのあと、昨年末の東京湾の一件のときのニュース映像を編集したものが挟まれ、
「このニュースのミスターKKとは、実は完爾のことである」
 と明示するナレーションが入る。

 完爾がこの世界に帰還してからのことを簡単に説明し、その流れで過去に行った二度の公開実験の映像が挿入された。
 それから、三度目の、つい先日、筑波で行った公開実験の様子へと移行する。

 番組の趣旨としては、ここからが本番なのだろう。

 筑波での実験と平行して、魔法の存在について対立する意見を持つ科学者やジャーナリストの証言が交互に画面に出てきた。
 その中には、昨年の委員会経由で完爾が対談した先生方も何名か含まれていたわけだが、彼らは比較的冷静なコメントを寄せていたように思える。

「……そんなことあるわけがない!
 そんなことをいう人もいますが、現にそのあり得ないはずの物質がこの手の中にあるのだから、仕方がない」
 海外のある学者は、完爾の会社の製品を手にしてそんなこをいっていた。
「理論的な裏付けをとるのは、あとでじっくりとやればいい。
 それよりも重要なのは、こうした驚異的な技術を一部で独占させず、広く普及させることです。
 こんなものが手軽に製造できるようになれば、われわれの生活は一変しますよ。
 建物、乗り物、その他、あらゆる工業製品が姿を変えるでしょう。
 簡単にいえば、もっとずっと軽くて頑丈になるんです。
 乗り物は燃費がよくなりますし、建物はもっと安価に、頑丈になります。
 それに、そうですね。
 たとえば、この技術を使ってロケットを作れば、モノを軌道にあげるコストを大幅に縮小することが可能です。
 今後の宇宙開発も、現在よりもずっと速いペースで推移していくことでしょう。
 彼らがもたらした魔法は、おそらくこの世界を一変させるだけのポテンシャルを秘めています。
 そんな大きな可能性を、時代錯誤な偏見で潰してしまっていいものでしょうか?
 今、われわれがやるべきことは、彼の魔法について非難をすることではなく、よりよい利用法を見極め、有効に活用していくことです」
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