挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

129/170

イメージ戦略の必要性ですが、なにか?

「……なんか、ネットの様子が変なような……」
 一月も半ばを過ぎたある朝、千種がそんなことをいい出した。
「変って、どんな風に」
 完爾は、聞き返す。
 なにかの拍子に極端に偏向した意見が幅を利かせることがあるので、完爾はネット上の言説にはあまり信頼を置いていなかったのだが。
「ここ数日、妙に魔法をDisる意見を多く見かけるようになったんだな。
 例の東京湾の件自体を、マスメディアが総出で仕組んだ陰謀呼ばわりしたりする意見が増えてきたり……」
「そんなもん、そのまま放置しておけばいいじゃないか」
 完爾は、軽く流した。
「その手の陰謀論が出てくるのは、今にはじまったことではないし」
 今の完爾にとっては、今日これからどの在庫を優先して補充するのかという問題の方が、そんなことよりもよっぽど優先順位の高い問題だった。
「流言飛語に本気で対応しても埒があかないと思います」
 ユエミュレム姫も、完爾の意見に同調した。
「いずれときが経てば、否応なく事実は明らかになるわけですから」
 まだ少し先のことになるはずだったが、エリリスタル王国講座の成果が出て一段落したら、この世界での魔法知識の普及が本格的に開始される。そうなればいくら魔法の存在を否定しようが、意味はなくなるはずだった。
「噂なんていつだって無責任なものなんだから、いちいち相手にすることないよ。
 あんなの、別に店の売り上げに影響を与えるわけでもないし……」
「……単なる噂で済めばいいんだけどな……」
 軽い口調でいなそうとする完爾に、千種は冷や水を浴びせる。
「そういっているのは名のある経済学者さまで、掲載されたのは全国紙のwebページだったりする」
「……全国紙?」
 はじめて、完爾の表情が真面目なものになった。
「それって、新聞社のサイトにか?」
「うん」
 千種は頷いて、持っていたタブレット端末を完爾にも見える位置まで滑らせた。
「結構真面目な論調だな。少なくとも書いている人は、本気でそう信じているみたいだ。
 真偽を確認できない読者さまは鵜呑みにするんじゃないのか、これ」
 完爾は慌ててタブレット末端の画面に目を走らせる。
 ユエミュレム姫も顔を近づけて、同じ画面を覗き込んできた。

 今年の日本経済を展望する、という記事の中で、
「海外では日本政府が魔法の実在を認め、今後、積極的にそれを活用することがあたかも既定のことであるかのように扱われはじめている。そのことが日本への投資を活性化させる一因にもなっているわけだが、このような政策について、現時点では、日本政府から正式な発表はなされていない。
 このような信憑性のない情報に基づいて判断をするのはいかがなものだろうか」
 うんぬんの前置きのあとに以後、延々と「理性あるはずの人々が魔法という空想上の存在を本気で信じはじめている」現状への違和感を表明し、いわゆる「警鐘を鳴らす」論調を展開していた。

「……事実を知っているうちらにしてみれば噴飯ものだけど、事情を知らされていないパンピーにしてみれば、こっちのがマトモで常識的な言説に見えるんじゃないかな?」
 千種は、そういった。
「掲載されているサイトがサイトだし、権威大好きな年配の人なんかにとっては、こういう論調の方がかえって安心できるだろうし」
 そして、「これだけじゃあないんだよねえ」といいながらタブレット端末を操作して、海外の科学情報を扱っているサイトを表示してみせる。
 もちろん、記事は英語で表記されているわけで、こちらは完爾には内容を確認することができなかった。
「こっちは、ピンクフィッシュの商品について強度実験をしたレポートを、味噌糞に貶している記事。
 もっともらしいいい方をしているけど、その論拠は、まともにやったらこんな数値がでるはずがない、の一点張り。
 本当に実験結果を否定したかったら、追試なりをして反証すればいいだけのことだろうに……」
「このサイトは、その、権威ってやつ、あるの?」
「科学ジャーリズムを謳ってはいるけど、要するに入ってきた情報をそのまま配信します、ってさいとだからな。
 権威はあまりないけど、勢いと知名度はある。購読者数もかなり多い。
 寄稿された記事はあまり審査せずに載せているから、慣れた人は寄稿者の名前で情報の正確さを判断しているはずだけど、そういうリテラシー意識がない人は、やっぱり鵜呑みにするんじゃないかな。
 ま、どんなに否定したって同じような実験は世界各地で行われていて、その結果も公表されているし、時間が経てば経つほど感情的な懐疑論者の立場は悪くなるんだろうけど。
 それでも、今の時点ではそれなりの影響力を持つと思う。
 こういってはなんだけど、使用者の人口で考えたら、日本語と英語では規模が違うから……」
 ま、今すぐどうこう、って影響もないと思うけどな、と千種はつけ加えた。
「それでも、放置しておけば……」
 ユエミュレム姫が、考え深げな表情になった。
「追い風か逆風か、って考えたら、逆風にはなるだろうねえ」
 千種は、そう結論する。
「魔法とか、ひいては、義妹ちゃんの存在自体を真っ向から否定して、詐欺師扱いにしているわけだから……。
 実害はあまりないとは思うけど……イメージ的なことを考えると、こういう声があまり大きくならないうちに、なんらかの対策をしておいた方がいいと思う。
 あとで面倒なことにならないうちそうしておいた方が、予防になるというか……」

 その日から前後して、国内のいくつかの雑誌や新聞でも魔法の記事を見かけるようになった。
 以前にも週刊誌などで完爾のことが取りあげられたことがあったが、あのときは完全に興味本位なスタンスであった。今回は、完爾なりユエミュレム姫なりへの、つまり個々人へ対する興味というよりは、完爾たちを取り巻く環境へついての分析が興味を引いている。
 急遽予算を計上し、海外からの留学生さえ誘致しているエリリスタル王国語講座。それを主導しているのは、他ならぬ日本政府であった。この事実は、少し調査すれば誰にでも裏を取ることができる。
 しかし、この「エリリスタル王国」なる国家なり文化圏なりは、この地上には実在しない。
 ではなぜ、この実在しない王国で使用されている言語を政府は少なからぬ予算を計上して普及させようとしているのか?
 完爾たち、当事者や事情を知る者たちにとってはなんの不思議もない一連の動きも、情報が不完全にしか公開されていない現在、不審やあらぬ憶測を生じるのに充分な怪しさをはらんでいる。
 一応、ユエミュレム姫の視点から見た事情は城南大学が用意してくれたブログで公表してはいるのだが、一当事者からの見解を直ちに「事実」とは認めないのがジャーナリズムの基本的な性質でもある。
 政界や産業界など、各方面に取材して関係していそうな人々の声を集め、誠実に検証した記事もあったが、その反対に、取材らしい取材もせず、偏向した価値観や先入観だけが先走った、想像力が豊かすぎる限りなく創作に近い記事も多かった。
 いや。
 数でいえば、前者よりも後者の方が圧倒的に多かった。
 入手できる範囲内でそうした記事を一通り見て、完爾は一言、
「なんだかなあ」
 と感想を漏らす。
 なんだって、エリリスタル王国語や魔法の普及活動が、某国や共産主義者による日本政府を陥れる陰謀になるんだろうか?
 ざっと読んで一笑にふしてもいいような記事も含まれていたわけだが、それなりにもっともらしい論旨を展開してその記事を執筆した者にとって都合のよい結論に結びつける態の提灯記事はもっと多かった。
 完爾たちを取り巻く状況を利用して、自分たちの思想なりメッセージなりを喧伝するためのだしにしようという連中が、ここに来て急激に増えはじめたのであった。
 千種のいい草ではないが、完爾は早急に「なんらかの対策」をする必要があるのではないか、と、思いはじめている。
 これだけ情報量が多くなると、それも、ネットのような有象無象による発信でではなく、それなりに注目度の高いマスメディアからノイズが多い情報が発信されるようになると、これから公式な発表が日本政府なり完爾たちが行う際、奇妙な色眼鏡でみられることにもなりかねない。
 別に情報統制を求めるつもりもなかったが、特に魔法に関連した事項に関しては、それなりに統一された意思に基づいたイメージ戦略が必要になるのではないのか。

 こりゃ、はやいうちに相談しておいた方がいいな……と思い、完爾はクシナダグループの橋田管理部長へ連絡を取ってみることにした。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ