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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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海外展開ですが、なにか?

 完爾が夜中に行った会談については、すべてキャプチャー動画としてクラウドスペースに保存し、ユエミュレム姫や千種もあとでチェックすることができるようにしていた。リアルタイムで中継することも可能ではあったが、二人とも夜は就寝している以上、そうするより他に方法がない。
 魔法についての具体的な知識などが公開されていない今の時点では、完爾たちの意思確認を行いあわよくば少しでも有利な条件を引き出そうと揺さぶりをかけてくるのが深夜の会談相手の主な目的であり、従ってあまり突っ込んだ交渉もなされていないので、完爾一人でもどうにか相手をすることができている。

「……おれも、英語くらいはおぼえておいた方がいいのかな……」
 ある朝、食事の席で完爾はそんなことを呟いた。
 完爾が使いこなせる言語は、日本語とエリリスタル王国語のみである。
「使用言語が増えればそれだけ可能性が広がるってことだから、おぼえないよりはおぼえた方が有利ではあるんだが……」
 千種は、軽い口調で答える。
「……それよりも、お前、そんなことをしている余裕はあるのか?
 あと、英語なら義妹ちゃんの方が最近ではいい線いくようになってきたし……」
「英語は、語順が故国の言葉に似ているので、かえっておぼえやすいです」
 ユエミュレム姫はことなげにそういってみせた。
 このユエミュレム姫は最近、電子辞書やネットの力を借りて、英語をおぼえはじめている。
 海外の反応とかをチェックする際、翻訳に頼っている現状がどうにももどかしくて……というのが動機らしかった。
「……ユエは、そういうの得意だもんな」
 完爾が、呟く。
 極めて短い期間で日本語を習得した実績を考えると、完爾が英語をおぼえるよりはユエミュレム姫が英語をおぼえる方が、よほど時間がかからなそうだった。
 意欲や集中力の問題か、それとも頭の出来が根本から異なるのか……。
「ま、おれも、あくまで自分のペースでおぼえてみるよ。
 今後、どうやら英語くらいはできないとやばそうな雰囲気だし……」
 実際、国外とのやりとりが増えていくに連れ、いつまでも相手方が用意した通訳に頼る状況に、完爾としても危機感をおぼえはじめてはいるのだ。
 あまり突っ込んだ内容を協議していない今の段階ならともかく、これからシビアな交渉を強いられることは十分に考えられる。
 そのようなとき、言語や相手方の背景に対する知識の有無が明暗を分けることも十分にあり得るだろう。
 なんだか、どんどんややこしいことになっていくなあ……と思わないでもないのだが、愚痴をいったところでこの複雑な世の中が単純なものに姿を変えるわけでもない。
 結局、環境に適応していくしか、進むべき道は残されていないのだった。

 海外といえば、本業の方でも直接海外に商品を持ち出し、売りに行く営業が何人か現れた。
 海外むけの販路を作れ、との声は以前から出ていたのだが、製造数の上限が決まっていて今以上の増産が不可能な現在、わざわざコストをかけて新たに販路を拓くメリットが見いだせない……そのような理由で、完爾は要請を却下していた。
 これに痺れを切らした、というわけでもないのだろうが、語学に堪能でなおかつそれぞれに地縁のある地域を持つ営業さんが何名か、示し合わせたかのように自腹で会社の商品をまとめ買いして海外に出かけ、売りさばくというようなことをしはじめている。

「年末、社長が目立つことをしちゃいましたからねー。
 それ以前にも、知る人ぞ知るみたいな感じでマニアックな人たちから注目を浴びてはいたんですが……」
 とは、台湾とか香港の富裕層にコネを持つとかいう営業さんのはなしだった。
 彼女は、一度に五十以上の商品を持ち出して十日から二週間ほどですべてを完売した上、次の予約まで取ってくる。
 信頼性と運送コスト、それに、実際にかかる時間を考えると、ある程度まとまった数を持ち歩いて直接売って回った方がかえって安くあがるという。
「もともとうちの商品はクオリティもいいし、それに話題性が加わってニーズが高まっている状態ですね。
 お陰様で、稼がせて貰っています」
 その他、南北のアメリカやヨーロッパ、中東までコネがあるらしい営業さんがいたりして、入れ替わり立ち替わり商品を持って入出国を繰り返しはじめた。

 そうした営業さんたちには、定価から営業の歩合を差し引いた金額で商品を卸している。
 そして完爾は、その商品に現地でどんな値段をつけて売りさばいているのかまでは関知していなかった。
 複数の営業さんが忙しく海外と日本との往復生活をしはじめたところをみると、それなりに旨味があるのだろうな……とは思うのだが、完爾としては彼らがどれほど儲けていようとも、正直、あまり興味が持てなかった。
 一度売った以上、その商品はその人の所有物であり、そのあとにどのような処分をされてもいちいち関知すべき理由がない。
 それに、いくらコネがあったとしても、身一つで異国の地で高額な商品を売る行為はそれなりにリスクを伴うはずであり、それを考慮すれば多少、儲けてもいいじゃないか……という気もするのだった。

 なぜ、今になって営業さんたちが忙しなく儲けに走りはじめたのか?
 しばらく、完爾は気づかなかったのだが、少し間を置いてから、
「……ひょっとして……」
 と、思い当たることがあった。
 ……魔法の知識なりなんなりを公開するようになったら、今の商売自体が根底から崩れてしまう。
 と、そのように考え、魔法の知識が解禁される前に、売れるだけ売っていこう……と、いうことなのかな、と。

 実のところ、魔法による製造費の圧縮や強度の補増以外の要素、商品のデザインなりを気に入ってくれる顧客も多かったし、だからこそ安定的な売り上げが確保できているのだが……。
 仮に魔法がこの世界でちっとも珍しいものではなくなったとしても、うちの会社の商品には、それなりの魅力なり売りになる要素なりが残されているはずだ……と、完爾は考えている。
 とはいえ、危機感を持つことは悪いことではないので、魔法知識が解禁される数年後を睨んで、せいぜいいい商品を製造して少しでも多くの固定客を増やしていこう、と、そうも思うのだった。

「通常の金属加工なんかよりもずっと強度が増しますので、ものすごく細い部分を作れたり、今までとは比較にならないくらいに精緻な細工が可能なのが強みですね。
 魔法を使えると」
 最近、デザイナーということで採用した人はそんなことをいった。
 今は売場とか国内にいる営業さんについていって貰って、現場の声に触れさせている段階だが、それでもどん欲に新商品の企画案やイメージスケッチを完爾のところに持ってくる。
 そうした意欲を持った人を採用したのだから、当然といえば当然だったが。
「それと、今までの商品、どれもどことなく品があるデザインで、魔法とか噂とか関係なく、そちらへの興味で買い求めている人が多いと思います。
 そうした既存のラインに負けないくらいいいデザインをあげていかなければならない、っていうのが、こちらにしてみればプレッシャーではありますが……」
 新商品の企画案に関しては、完爾だけではなく営業さんや問屋などの意見も聞いた上で、慎重に、数を絞りながら出していく予定だった。
 従来の商品が堅調に売れ続けている現在、新製品の投入を焦るべき理由もなかったし、なにより製造できる上限が決まっている。
 しばらくは、動きが悪くなってきた旧製品のデザインに手を入れたり、市場の動きを観察してどういった商品が求められているのか、肌で感じて貰いたかった。

 ……もう少し落ち着いたら、今度は国外からデザイナーを採用してみるのも手だなあ……と、完爾は、そんなことを考えはじめている。
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