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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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新年の生活ですが、なにか?

 ひさびさに伏見警視から直々に連絡があり、
『これはあくまで任意であり、強制ではないのだが……』
 と前置きされた上で、
「改めて、完爾の能力を悪用しない旨」を誓約書にしたためて提出していただけないだろうか、と提案された。
 例の東京湾の一件がなければ暗黙の了解というやつでなあなあでいけたのだろうが、あれで完爾の持つ能力が衆目に晒されてしまった。なかでも、その破壊力について強く印象づけてしまった。一般市民やこれまでに完爾の存在を知らなかった各所からの問い合わせや不安の声が多数よせられた結果、完爾の存在や能力が刑法にも法律にも触れるものではないとした上で、完爾と当局との間になんらかの取り決めをする必要がでてきた、と、説明された。
「銃器や刀剣類だって、所持するためには登録をする必要がある。
 たとえ人権があるにしても、それ以上の破壊力を持つ完爾をこのまま野放しにしておいていいものか?」
 その多数寄せられた「不安の声」をかなり大ざっぱに要約すると、そんなところに落ち着くらしい。

「武道の有段者が喧嘩沙汰とかになったら、武器を持っていたという扱いになるそうですしね」
 伏見警視の説明を聞いたあと、完爾は他人事のような口調でそんなことをいった。
「おれみたいなのがいると知れたら、不安になる人多いでしょう」
 当然のことながら、あの中継をみた大多数の人々は完爾の性格などについてまるで知識を持たないのだ。
 ナントカに刃物ではないが、不安になるというのもそれなりに理解はできる。
『警察内部でもそうだが、他の省庁に関しても君のことを知らされていない部署がほとんどでね』
 苦笑いを含みながら、伏見警視はそう教えてくれた。
『いってみれば、これまで君の存在を内密にされていた部署からの嫌がらせという側面もある。
 あの件がなかったとしても、君たちの存在は、いずれはもっと穏やかな形で周知される予定だったのだが……』
「まあ、やっちまったことはやっちまったことということで。
 アレがなくても夏のギミック類の騒動がありましたし、魔法の存在自体はかなりオープンになっていたわけで……」
『それを使いこなし、あれほどの威力をあからさまに行使してみせた個人がいる、というのがこの場合は問題なのだが。
 魔法関係の法整備は目下様々な状況を想定したシミュレーションをして研究している段階で、実際に発布するまでにはまだまだ年単位の時間が必要となるだろう。
 それまでは、済まないが……』
「いえいえ。
 その程度のことで皆さんが納得してくださるのなら、こちらとしても協力するのにやぶさかでもなく……」
 そのあと、誓約書の具体的な内容や書式についていくらか打ち合わせをしたあと、完爾は伏見警視との通話を終えた。
「……だんだん、具体的になっていくな」
 通話を切ったあと、完爾は一人でそう呟く。
 この世界における魔法の位置づけが、であった。
 完爾やユエミュレム姫の思惑はどうあれ、とうの昔に後戻りできないところまで来てしまっている気がする。
 だとすれば……。
「あとはできるだけ、今後、魔法がこの世界にとっていい影響を与えるように……」
 自分たちが、環境を整えていかなければならない。
 それができる者は、自分たちしかいないのだった。

 年末に開催された海外向けの説明会で「大使」に突きあげを食らったから、というわけではないのだろうが、今年に入ってから各国の政府も正式の外交チャンネルを通じて完爾たちに接触を試みるようになってきた。
 だいたいは窓口である日本政府を通してなんらかの交渉を持ちかけてくるわけだが、これについては完爾が時間を作って対処することにしていた。
 ユエミュレム姫の方が別件で忙しかったということもあるし、そうした用件はできるだけ本来の勤務時間外に済ませておきたいという完爾の都合もあった。
 たいていは深夜から朝方にかけて、まっとうな社会人の大半は寝静まっている時間帯に調整してビデオチャットなどを利用して会見をする。ビデオチャットを使用するのは完爾の方から提案したのだが、最初の何件かで実績を作ったら、以後の人たちも軒並み直接対面するのを避けてビデオチャットを使用するようになった。時差の関係でその方がかえって都合がいい国も多かったのだ。
 実際のところは、完爾のような破壊的な能力の持ち主と直に会い、もしものことを考慮してて警戒しているだけではないのか……と、完爾は勘ぐっている。
 いずれにせよ、そうした会見の場では日本語に堪能な通訳も相手側が用意し、時間をかけて対話を行うことになった。
 たいていは、ユエミュレム姫が日々城南大学が用意したブログで公表しているメッセージがどこまでこちらの本音なのかを探るような空気がかなり濃厚に感じられたのだが、完爾は意に介さずに淡々と普段思っていることを口にし、相手の質問に答えていった。
 完爾たちになにか隠された目的のようなものがあるのではないのか……とこちらの腹を探られることもあったし、高圧的に、あるいは逆にへつらうような調子で「自分たちを優遇してくれ」みたいな意志を示してくる国も少なくはなかったが、完爾はやはり淡々と「そうした差別を行うことは予定していません」と伝えるのみだった。
「魔法知識の公開は予定されていますが、準備の関係もあり、具体的な時期は未定です。
 まずはエリリスタル王国語に堪能な人材を育成してください。
 魔法を使用する際には必須の言語です」
 完爾は相手を変えながら、辛抱強く同じ主張を繰り返した。
 エリリスタル王国語が必須というのはまるっきり嘘というわけではない。
 少なくとも、魔法を修得するにあたって必要となる初歩的な概念のいくつかは、こちらの世界の語彙には翻訳不可能なのだ。そうした概念をこちらの言語に翻訳しようと思えば、とたんに必要となる単語数が百倍以上になる。
 エスキモーが「雪」という概念を説明するのに何十種類という単語を使い分けているように、魔法の根本的な部分を説明するためには、抽象的な概念の微妙な差異を理解する必要があり、エリリスタル王国語はその微妙な差異を的確に一言で説明する語彙が多く内包されていた。昔から魔法とつき合って文明を築いてきただけあって、魔法に必須の概念が文化の一部に溶け込んでいるのだ。
 一度原理や原則さえ理解してしまえば、あとは日本語だろうが英語だろうが、その他の言語であろうが、多種多様な呪文で発動が可能なのだが。
 事実、完爾は気合いをいれるため昔やったゲームの呪文名を口にすることがあるし、そもそも呪文を全く詠唱しないで魔法を発動させることもある。
 こちらの言語で魔法の原理や実用方法を説明するよりもエリリスタル王国語で説明する方がずっと円滑に説明できるというのは事実であった。
 なにより……経済力や人口など、初期条件があまりにも異なっている多くの勢力に対して、同じスタートラインに立たせるための方便としても、この「エリリスタル王国語必須」というお題目は有効だった。
 相手側がどんな態度で完爾に挑んでこようとも、完爾の側は常に冷静さを心がけ、辛抱強く自分たちの方針を説明することに徹した。
 こうした会談を申し込んでくるという事実自体が、完爾たちが今後の発揮しうる影響力を相手が評価しているということを証明しているようなものなのだから、焦りはなかった。
 少なくとも、正攻法で対話を求めてくる相手に関しては粗略に扱うことはなかった。
 信用とか理解とかは、一朝一夕に求められるものではない。
 最初からそう覚悟を決めていたので、とにかく相手が納得するまでつき合うことにした。

 朝、八時前に転移魔法で出勤。
 それから会社でなにがしかの仕事をして、だいたい午後九時か十時頃にやはり転移魔法で帰宅。
 冷蔵庫の中身をチェックして、必要であれば有り合わせの素材で冷凍も可能な総菜を作る。門脇家では以前から簡単に解凍できる素材を多品種作って保存している。
 調理とか食事をしながらユエミュレム姫や千種と情報交換や打ち合わせ。
 夜間は、なにもなければそのまま就寝するが、用事があれば再び会社へ魔法で転移して狭い社長室に閉じこもり、各国のお偉方と忍耐力の限界を試されているような会談を行う。 
 朝、七時になったら、多少、会談がヒートアップしても一時中断して、
「これ以降は、次の機会に」
 といって魔法で帰宅。
 家族と朝食を摂って一服したあと、転移魔法で出勤。

 ……というのが、年が明けてからの完爾の生活だった。
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