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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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育児のあれこれですが、なにか?

 ユエミュレム姫がこちらの世界について一番驚いたのは、家電製品や電気、ガス、水道などのインフラでもなく、保険や義務教育など、発達した社会保障制度だったりする。

「でも……予防接種は、もう少し少なくてもいいような気がします」
 暁の、である。
 案内が来るたびに、暁を抱えて保健所とか市に指定された病院に行かなければならない。
 たまにならまだいいのだが、これが予想外に頻繁にあった。
 抗原どーの抗体反応がこーの、とかいう予防接種の原理を完爾と千種から二人がかりで説明されたとき、素直に関心をしたおぼえがある。
 精密検査を受けたおり、ユエミュレム姫に植え付けられた注射恐怖症を払拭すべく、二人がネットで検索した知識も援用した上で熱心に講義してくれたわけだが……そのおかげでユエミュレム姫も医療行為として注射針を体内に突き立てることを容認するようになっていた。
 ユエミュレム姫は大人である。
 だから、理性と理論によって注射の必要性も理解できる。
 しかし、暁はまだ言葉も持たない赤子であり、当然のことながら、ユエミュレム姫ほどには理性的に注射の必要性を理解できるものではない。
 だから、暁が泣くのは、正しい。
 正しいのではあるが……。
「こうも頻繁だと……」
 痛々しい。
 それ以上に、うるさい。
「……予防接種、もう少し減らせないものでしょうか?」
 バスが来るのを待ちながら、泣きわめく暁を必死であやしつつ、ユエミュレム姫は小声でそんなことを呟く。

 門脇家の家計、そのうち、食費や光熱費その他の雑費など、生活する上で必要となる経費は人数によって頭割りされた上で精算される。
 これは会計士の資格を持ち金銭に関することについてはかなりきっちりしている千種が、完爾にもかなり詳細にわたる家計簿をつけるように躾た結果でもあるのだが、そうした慣例もユエミュレム姫の目から合理的で好ましいものに思えた。
 ユエミュレム姫が門脇家の家事労働の大半を担当することになっったときも、千種はその分の労賃をユエミュレム姫に支払うべきだと提案した。千種が日々の家事の大変さを理解した上で労働には正当な賃金を支払うべきだというのが千種の意見であり提案であったが、これについては当のユエミュレム姫自身が早々に辞退をしている。
 ユエミュレム姫と暁は、本人の意図ではないとはいえ予告もなしに押しかけてきて居着いた居候であり、その程度のことをするのはむしろ当然である、というのがユエミュレム姫の意見だった。
 その家事労働についても、掃除機や洗濯機、食器洗い機まで完備した現代のそれと基本的には人力頼りであるユエミュレム姫の世界とでは、その煩雑さや大変さが天地ほども違う。現代での家事は、ユエミュレム姫にいわせれば鼻歌まじりに遊び半分でこなせる楽な仕事なのだった。

 その千種は、特に多忙な時期でない限り、土曜日も仕事を休むようにしていた。平日は夜遅くまで働いているため、そうでもしないとまだ幼い翔太と過ごせる時間がなかなか取れないからだ。
 完爾が帰還するまでは、平日は保育園の延長保育という制度を利用した上で、信頼できるベビーシッターを雇って翔太を預けていたそうだ。
 これで千種は高学歴な資格持ちの専門職従事者であり、本業の収入だけでも平均的なサラリーマンのそれを軽く越えている。それに加えてアパートの家賃収入も毎月入ってくるので、毎日のようにベビーシッターを利用する経済的な余裕もあった。

「それで、春からのことなんだけどな」
 そんな週末の昼下がり、千種はユエミュレム姫に切り出した。
「どうすんの、暁ちゃんの世話とか。
 語学講座とかその他とかで、結構忙しくなるんでしょ?
 うちも家事とかやってくれるのはありがたいんだけど……大人が三人もいるんだから、そっちは分担してやればどうにでもなるよ」
 現在、ユエミュレム姫は門脇家の家事全般をほとんど一人で担当している。これは暁ともども住まわせてくれることの礼として、ユエミュレム姫自身から自発的に申し出てきたことだった。こちらの世界の家電製品を使った家事のやり方が物珍しく、完爾から教えてもらったばかりのそうしたやり方を実践してみたかった、という好奇心もかなりあったのだが。
 それに、現在保育園に通っている翔太の送迎などをして貰う都合もあった。
 この役割は、ユエミュレム姫が来る前は完爾が担当していたわけであるが……いずれにせよ、千種からみれば翔太の面倒をみてくれるおかげで延長保育代、シッター代が浮くわけであり、それだけでも大変に助かる……という感覚があった。
 その翔太も、今度の四月から小学校にあがる。
 どうせユエミュレム姫が外で働くようになれば暁のためにベビーシッターを頼む必要性が出てくるわけであるし、放課後には翔太もついでに面倒をみてもらうことになるわけなのだが……少なくとも毎日の送迎は必要なくなるし、必要となる手間も今よりずっと少なくなるはずだった。

「いきなり毎日働くことはないですけど……週に何日かは、そちらに出ることになると思います。
 それ以外に、カンジの会社の方にも、今までよりも頻繁に顔を出したいですし……」
「そんじゃあ……いっそのこと、暁ちゃんを保育園に預けてみる?
 翔太が通っている保育園なら、今から申し込めば間に合うと思うけど……」
「アキラにはまだ少し早いかも知れませんが……それがいいのかも知れませんね」
 ユエミュレム姫にしても、同様のことを考えたことはあったのだ。
 乳母などに預けて育児を任せるのが当然の環境で育ったユエミュレム姫は、保育園に暁を預けることにも特に抵抗をおぼえなかった。
 四月から……となると、暁もなんとか一才を越える。
 まったく不安を感じないといえば嘘になるが……大丈夫だろう。おそらく。たぶん。

 暁が日々成長して体重を増やすように、翔太も現在進行形で育っている。
 ユエミュレム姫も完爾も、彼らを取り巻く環境も、日々変化していく。
 同じような毎日を繰り返しているようでいて、その毎日は少しづつ変容していく。
 この世に、完全に制止し、変化をしないものはなにもない。

 完爾やユエミュレム姫も、自分たちの都合によってこちらの世界になにがしかの変容を迫っている最中であるのだが、その結果がどうなるのかは今の時点では誰にも確かなことが予測できない。

 そうした遠大なことはさておき、今はもっと卑近な問題について決めていかねばならない。

「翔太が小学校にあがったら、学童ってところに申し込んで、放課後は夕方まで預かって貰おうかと思っている。
 それから、この家の大人たちの誰かが帰ってくるまでは、シッターさん頼りになると思うわけだが……」
 学童を利用するのは、そうすればベビシッターに支払う報酬がいくらかでも削減できるからであった。
「暁も、保育園の延長? ですか。
 それを利用した方がよろしいのですか?」
「そうだねー。
 翔太の学童が終わる時間に合わせて、暁を持ち帰って貰えばちょうどいいかなー……。
 それから、二人いっしょにシッターさんにみて貰って……」
 翔太一人でも留守番ができないものとも思わないのだが……千種も完爾も基本的に帰りが遅い。
 ユエミュレム姫まで外で働くようになると、保護者不在の時間がかなり長くなる。
 第一、翔太だけでは暁の世話まではできないだろう。
 千種の判断は、現実的なものに思えた。

「暁ちゃんの世話も大切だけど、今の義妹ちゃんにしかできない仕事があるのなら、そちらの方も大切にすべきだよ」
 というのが、千種のいい分だった。
 ユエミュレム姫が自由に動ける環境づくりを、今のうちから準備しておかねばならない……ということで、今回の話し合いになったらしい。

 完爾の姉である千種はユエミュレム姫からみれば小姑にあたるわけだが、千種の性格が大きいのであろう、二人の仲は良好であった。
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