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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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騒動の余波ですが、なにか?

『見たぞ、門脇くん。
 神話や伝承の中にしかないようなものどもを相手にした十時間以上におよぶデスマッチ。
 実に、見応えがあった』
 辰巳先生は、そういった。
『勇者の、いや、元勇者の面目如実といったところか。
 これでもはや、門脇くん。
 君のことを軽んじる輩もいなくなることだろう。
 これからだ、これからが勝負だよ』
 いったい、なんの勝負なんだか。
 どうもこの辰巳先生は、完爾に過大な期待をしているような気がする。
『はい。うちの研究室でも大層な評判になっておりますね。
 ユエさんあてにも毎日多数の問い合わせが来るようになっています』
 これは、牧村女史の反応。
『あれが中継されて以来、どこで漏れたのか、ユエさんと完爾さんの関係もぱーっと広まったみたいで。
 うちのサーバのアクセス数も、連日鰻登りでして。ええ。
 それと、エリリスタル王国語関連の問い合わせも爆発的に多くなりまして、対応に追われているところです。ええ。
 いえ、対応が煩雑ではありますが、意外に知的で真面目な質問が多くて、ですね。
 魔法関連がどうこういう問い合わせには応じられないのですが、研究の成果に対して一般の方からこれほど関心を寄せられる機会というのはほとんどなく、うちの学生たちも含めて、かなり手応えを感じているところです』

 それ以外に、変わったところで某ブロダクションから対「大佐」戦の映像データをパッケージ化して市販したい、という申し込みがあった。キー局の下請けで報道番組を制作しているというそのプロダクションは、企画をしたのはいいものの、完爾の肖像権がネックになって進行が止まっているのだという。
 完爾としてはこれ以上余計なことに煩わされたくなかったので、千種と間際弁護士に相談して、二人の裁量で適当に処理をしてくれるように頼んだ。
 その内容はいわば、翔太が喜んで観るような特撮番組でいえば一年分以上の敵キャラをたった一日で、完爾ただ一人でばったばったと倒しまくった映像であり、かなり遠くから撮影されているためカメラアングルなどはそれなりに限定されていたものの、作り物ではないリアリティと迫力があった。
 後日になって決して少なくはない権利料が完爾の口座に振り込まれてくるのだが、それは何ヶ月も先のことになる。

 対「大佐」戦のおり、報道ヘリから望遠レンズで撮影された完爾の映像は、警視庁などから「個人情報の徹底を」という強い要請が行き渡っていたために公共の電波に乗る頃には顔などにモザイクがかかった状態で報道された。
 それでも完爾を知る人が観れば一発で正体が分かる程度のボカしかたであり、なにより関係省庁各所に完爾のことを知る人も多く、またこの頃になると、ネット上の噂などでも完爾の情報は好事家の間では半ば常識と化していた。
 その気がある者が調べはじめればすぐに完爾の正体に行きつくような状態になっており、まさしく「公然の秘密」的な扱いとなっていた。

「……しゃちょー……」
 そんな状態であったから、まかり間違ってこんな依頼も飛び込んでくる。
「なんか、広告代理店の人から奥さんコミで社長にテレビCMに出て欲しいっていってきてますけどぉー……」
 会社の事務所宛に電話でなされたその依頼を、もちろん完爾は謹んで辞退した。
 事務員たちには、
「ギャラがいい。会社の宣伝にもなる」
 とだいぶゴネられたが、完爾としてはこれ以上、目立ちたくはないのだった。

 あの事件直後にこそテレビ局は何度も繰り返してあのときの映像を放映したものだが、二日三日、一週間、それ以上と日数が経つにつれて「あのときの映像」が電波に乗る頻度もどんどん下がっていった。
 それでなくとも年末の、誰もが忙しい時期であり、視聴者は飽きやすい。
 当事者である完爾が公式に名乗り出て事態の本質を詳細に解説しはじめでもしなければ、あの一件は、どんなに異常で目立ったにせよ、「私有地で起き、その外にまで影響を及ぼさない」つまり、社会的な意義を見いだせない、小さな怪事件として処理されるしかない。
 あらかじめ、警察をはじめとした関係省庁に根回しをしていたのも奏功して、マスコミ各社もそれ以上の追求や掘り下げを行うことができないまま時ばかりが流れ、ニュースとしての新鮮味を失っていった。

 あの件以来、ネット上には、完爾に関する情報が格段に増えることになった。
 以前から「知る人ぞ知る」的な扱いで「十八年間の失踪」や「ユエミュレム姫と事実上の夫婦生活を起こっていること」などが専用Wiki(というものが、いつのまにかできていたのだ)に記載されていたのだが、あの一件以降はそのWikiを訪問する人や書き込む人が格段に増えた。
 ただ、内容的にいうのなら必ずしも内容の正確さに重きを置いたをものばかりではなく、第三者の空想や願望、妄想のたぐいを勝手に書き連ねたような無責任な記述も決して少なくはなかった。
 真偽玉石とり混ぜて、情報量ばかりが無秩序に増大していった。
 完爾にしてみれば、そうした不正確な情報もまた、事実関係を埋没させ、格好の煙幕と機能するわけで、そのまま放置することにした。
 いや、それ以前に、「自分自身について第三者が勝手に記述した情報」なんて気持ちの悪い代物に、自分自身で手を加える、などという行為に手を染めること自体を、完爾はとても「気持ちが悪い」と思う感性を持っていたため、よほどのことがない限り放置するつもりではあったのだが。

 周囲こそ、そんな具合に騒がしくなったものの、完爾本人はというと、あの一件以来、実はかなり落ち着いた生活をしていたりする。
「大佐」からの襲撃を警戒しなくてもよくなったことが一番の原因だが、例の委員会関係の外出を自粛していることと、自宅と仕事場をほぼ往復するだけの日々を過ごしていることが大きい。
 要するに、数ヶ月ぶりに「自分の家族と仕事のことだけを考えていればいい」、という環境になったわけで、人によっては「そんな地味で単調な生活は耐えられない!」などと不平を漏らすかも知れないが、完爾にしてみれば、むしろこんな静かな生活の方が好ましかった。
 仕事場へ往復する時間が転移魔法によりほぼゼロになったことにより、ユエミュレム姫や暁と接する時間が増えた、ということも大きかった。

 直接対面してはなし合う機会が減ったとはいっても、日本政府並びにその他の諸勢力が魔法への関心を失ったわけではなく、むしろ、対「大佐」戦の映像が広く公開されたことで従来以上に関心が高まっているわけで、完爾たちに対するプレッシャーは増大する一方であった。
 しかし同時に、あの映像を観れば分かるとおり、完爾一人だけでも相当な戦闘力を持つことも広くアピールした結果となり、強引にはなしを進めようとする者はほとんどいなくなった。
 完爾を敵に回しても、メリットはあまりない……という認識が、広く共有されるようになったのだ。
 ましてや、完爾たちは日本政府を通じて、条件つきではあるが魔法の知識を徐々に公開していくという姿勢を示している。
 焦って損害を被るよりは、無理をせずに時間に任せ、欲しい情報が転がり込んでくる方を待つ方が、結果としては得るところが大きい……という認識が、世界レベルで共有されるようになった。

 その代わり……というわけでもないのだろうが、来春から開講を予定されている、文科省主催による「エリリスタル王国語講座」への受講希望者が、数日で格段に増大した。
 国籍人種を問わず、世界中から受講を希望する者があの伝手この伝手を使って文科省にねじ込み、果ては恫喝さえしてくる。
 中には微妙な外交上の問題を譲歩することで日本政府に「貸し」を作り、そのことを材料にしてまで受講者を送り込もうとする国さえあった。
 そのすべてに色よい返事をしたわけではないのだろうが、日本政府としては当初予定していた会場をキャンセルし、新たに二万人を超える受講者を捌けるだけの会場を探しはじめた。
 同時に、牧村女史の研究室にかなり強硬な「要請」として、早急にエリリスタル王国語の講師となる人材を養成せよ、という「通達」を打ち出してきた。
 研究室側にしてみれば、教材不足を埋め合わせるために日夜奮闘しているところに、この通達である。
 この通達は寝耳に水ではあったが、本来理論や分析を携わっていた人材に急遽お願いして、一時的に講師としてやっていけるだけの知識を身につけはじめた。
 基礎研究よりも目先の実用性を優先した形であり、長い目で見るとこのような施策は研究にあまりよい影響を与えるとも思われないのだが、来春から開始される予定の「講座」受講者の中から優秀な人材が研究畑に来てくれる可能性もあり、このあたりは様子を見ながら臨機応変に対応していくしかないのだろうな、と、牧村女史は判断したのだった。
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