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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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「大佐」との決戦ですが、なにか? 

 いろいろ考えた末、完爾はある対応策について、ユエミュレム姫に相談してみた。
「それは……」
 完爾のいうことを一通り聞いたユエミュレム姫は、そういったきりしばらく絶句し、それから、こう続けた。
「……ずいぶんと危険な賭だと思いますが……。
 本当に、実行するつもりなのですか?」
「嫌いか?
 こういう解決の仕方は?」
「好きとか嫌いかはともかく……とてもカンジらしい方法だと思います。
 それに、カンジならばたとえ止めたとしても、絶対に実行します」
 消極的な賛成、といったところか。

 とりあえず、ユエミュレム姫の了解を取った完爾は、警視庁の伏見警視やクシナダグループの橋田管理部長へ連絡して、必要な準備を整えるよう、要請した。
 日本政府内部では、「本当にそんなことが可能なのか?」と疑問視する声も大きかったが、それ以上にようやくこれから魔法普及の準備が整いつつあるこの時期に完爾の意向を無視することのリスクの方を重要視し、結局、完爾が要請した通りの準備を整えた。
 半年くらい前には単なる無職だったのに、いつの間にかおれも大物になったもんだ、と、完爾は心中で苦笑いを浮かべる。

 完爾が「大佐」と思われる存在に襲われたときの状況を細かに分析した結果、ある程度の傾向を把握することができた。
 四度ほど仕事場の近所でも襲われているが、自宅付近で襲われたことはない。
「大佐」の襲撃は、だいたい、完爾が都内に移動したときに集中していた。
 時刻的には、夕方から深夜にかけてが多かったが、これは完爾が都内へ移動する用事はだいたい委員会関連であり、本業の仕事を中座して行くことが多かったからに過ぎず、したがって時刻による規則性はあまりない、とみた方がいいだろう。
 さらに「大佐」が完爾を襲撃した場所を分析していくと、川や海の近くで襲われることが多いことが判明した。
 統計的なデータに過ぎないのだが、他にすがるべき指針がないため、都内で水場に近く、なおかつ、完爾が多少暴れてもあまり迷惑がかからない場所を選定して貰う。
 同時に、完爾の方も仕事を調整し、丸一日、仕事場に顔を出さなくてもいい時間を作った。

 そしてある日、完爾は完全に通行を遮断した東京湾沿いのある一角に姿を現す。
 そこは、もともと製鉄所かなにかの大規模な工場があったというが、施設の老朽化に伴い、これから解体を待つばかりになっている場所だという。
 敷地はかなり広く、そうした場所ならば、完爾たちが多少暴れたところで、あまり迷惑はかからないだろうと判断されたわけだった。
 動きやすく汚れても破損してもいい服装、ということで昔使っていた作業服と安全靴姿の完爾は魔剣バハムを肩に乗せて地べたにあぐらをかき、来るかどうかさえあやふやな「大佐」の到来を朝から待ち続けた。
「大佐」が出没しやすい場所に長時間、滞在し続ける。
 完爾自身を餌にした罠、のつもりであった。
「大佐」の扱いについて、完爾が出した結論とは、「とことん、ぶつかり合う」であった。

 靱野は、「故意に負けてやる」ことでやり過ごすことを選択したという。
 それはそれで賢いやり方だとは思うが……どうも、完爾はその方法に対して、違和感をおぼえてしまった。
 それでは……根本的な問題は、なにも解決されていないのではないだろうか?

 辰巳先生は、「ともに寄り添ってやる」ことで、敵意を和らげるのだと指摘してきた。
 そういう方法もあるのだろうが……それでは、悪霊たる「大佐」の悪意は行き場所を失って、果てしなく空転しまう。
 完爾が「大佐」に寄り添える間は大人しくしてくれたとしても、そのあとは、また誰かに害を与える存在になってしまうのではなかろうか?

 幸か不幸か、現在の完爾はほぼ不死身の体を持っている。
 これまでは、周囲に被害が及ぶことを恐れて、そうそうに「大佐」を撃退することしか考えていなかったわけだが……一度でも、とことん、全身全霊を持ってやり合えば、悪霊たる「大佐」の気も、少しは晴れるのではなろうか?
 ……などの理屈をこねて、関係者一同を協力させてきたのだった。

 そして現在、完爾は「大佐」の訪れるを、静かに待ち続けた。
 夜明け前から待ち続け、結局、「大佐」が来たのは、正午をいくらか過ぎた時刻であった。
 今度の「大佐」は、大きな黒い犬の形をしていた。
「大佐」には決まった形状がないらしく、襲われるたびに、姿形は変わっている。

「ようやく来たか」
 完爾は立ちあがって、鞘に入ったままの魔剣バハムを手に取った。
「それであんたの気が晴れるのかどうかはわからんが、今日は、とことんやり合おう」
 完爾がそういうと、その「大佐」は牙を剥いて獰猛な笑みを浮かべる。

 そしてその犬の体から、墨のように黒々とした闇が周囲に溢れ出した。
 完爾の決意を汲んで……というわけでもなかろうが、「大佐」の方も、今日はいつもとは違った方法で攻めてくるようだ。
 完爾とその犬を含め、その周辺のかなり広範な地域が黒々とした闇に包まれていく。
「……悪霊、呪い、呪詛……なんでもいい」
 完爾が呟く。
「なあ、「大佐」さんよ。
 あんたがそこまでこの世を呪わなくてはいけなかった、そもそも原因ってのは……いったいなんだったんだ?」
 粘つく、黒々とした物体が、完爾の足を這いのぼってくる。
 まるでタールのような感触の、どろりとした物体。
 これも、物体化した呪いの一形態なのだろうか?
 地面から沸きだしてきたその物体は、いつしか完爾の下半身をすっかり覆いつくし、その上までせりあがろうとしている。

「……せいっ!」
 気合いを入れて、完爾は風の攻撃魔法を自分の周辺に発動した。
 黒々とした粘着質の物体が千切れ、周囲に飛び散っていく。
 完爾の下半身、黒い粘液質に覆われていた部分の作業服は、強い酸にでも触れたように焼けただれ、煙を吐いていた。
 もちろん、直接完爾の肌に触れた部分も無事では済んでいないのであるが、そちらに関しては完爾の超人的な治癒能力のおかげですでに再生をはじめている。
 苦痛は別にして、大事はないといえた。
「こんなもんで、済むわけもないよなあ」
 また、もぞもぞと集まってきた黒い物体をみて、完爾は呟く。
 こいつは……本当のところ、いったい、なんなのだろうか?
 その正体をしっかりと見定め、確認しない限り、この茶番は終わらないような気がしてきた。
 完爾は炎の攻撃魔法を発動し、再び集まりつつある黒い物体を焼く。
 そいつは、すぐにぼうぼうと炎をあげて燃えさかりはじめた。
 根比べだな、と、完爾は思う。
 自分の再生能力が勝つか、それとも相手である「大佐」の気が済むのが早いかの。
 かつて犬であった物体が燃え尽きようとする頃、今度は鳥みたいな物体が湾の方から飛んできた。
 一羽や二羽ではない。
 かなり、多く……空を埋め尽くすほどの大量の黒い鳥もどきが、群をなして完爾の方へ飛んでくる。
 遠目には形状がよくわからなかったが、それらはみな、蛇の体に鳥の羽が生えた、空想上の存在に近い形をしていた。
 完爾は無言のまま氷の魔法を発動、数百数千という非現実的な生物たちは即座に凍りついて、ぼとぼとと地面に落下していく。
 しかし、それで終わりということもなく、一度は氷漬けにされた翼ある蛇たちは地面の上で身じろぎし、自力で身についた氷を砕いて完爾のいる方角へと這い寄りはじめる。翼ある蛇の体長はせいぜい数十センチ程度から一メートルを超える大きなものまで、個体によりバラツキがあり、一定していない。
 いずれにせよ、その一体一体をいちいち相手にするほど暇でもなかったので、完爾は魔法で風を起こしてそれらの蛇体を切り裂き、吹き飛ばしていった。

「……悪夢だな。まるで」
 完爾の様子をモニターしていたある者が、そう呟いたという。
 完爾がこのような場を要望したときから、日本政府側は周囲にカメラやセンサー類を多数設置し、現場の様子を監視、記録していた。完爾が使う魔法について強い関心を抱いていたわけでもあり、完爾自身の口から「そういうことをしないでくれ」と直接いわれていない以上、遠慮するはずもないのだった。
 完爾にしてみても、こうした場所を提供してくれと要望した時点で、その程度のことは折り込み済みだったろう。
 モニターの中の完爾は、今、人馬……上半身は人間で下半身は馬の、いわゆるケンタウロス型の兵士たちと戦っている最中だった。ケンタウロス型には、なぜか、魔法が効きづらいらしい。
 苦戦、というほどでもないのだろうが、完爾は先ほどから肉弾戦に切り替え、手足や鞘に収まったままの魔剣バハムで対応していた。
「マスコミが嗅ぎつけました!
 何機かヘリが発進したようです!」
 モニター室に、そんな声が響きわたる。
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