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元勇者の嫁ですが、なにか? 作者:(=`ω´=)
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襲撃者への傾向と対策ですが、なにか?

 そのあと、ユエミュレム姫は細々とした用事を手伝いながらしばらく会社に残り、出勤してきた従業員たちに挨拶をする。この会社におけるユエミュレム姫は、経営者の伴侶であり、なおかつ、製品のデザインを実質一人で担当するデザイナーでもある。常勤こそしていないものの、これまでにもときおり会社に顔を出し、新規商品開発の打ち合わせをしたこともある。
 また、就業時の面接でユエミュレム姫と対面した経験がある従業員も少なくはなかった。
 つまり、顔なじみであったので、ユエミュレム姫の顔をみた従業員は親しげに挨拶したり、軽く世間話に興じたりしていた。店舗の方のスタッフたちは、最近動きがいい商品について報告してきたり、新規商品に対する要望をいってきたりする。
 ユエミュレム姫が会社に顔を出す頻度はさほど多くはなく、こうして会社に来る機会に、ここぞとばかりに今後の商品展開についての自分の意見をアピールして来る者が多かった。
 創業からこの会社に居る者がほとんどであったからか、今の仕事に貰っている報酬以上のやりがいを感じている従業員は多いらしい。完爾としてはありがたく思うべきなのだろうが、その一方で経営者としては不備の多い雇用形態について再考し、もっと待遇をよくしなければならないとプレッシャーを感じる場面でもあり、完爾の心境としてはなかなか複雑なところだった。
 会社は順調に利益をあげている。
 とはいっても、今抱えている従業員のすべてを正社員にしたら、必要経費や人件費に圧迫され、現在のあがっている堅調な利潤はあっという間にすり減り、なくなってしまうだろう。
 現在、だいたいのところ堅調であるといえるこの会社があげている利益も、いってしまえばその程度のものでしかない。非正規雇用で固めることによって経費を圧縮し、完爾の魔法によって商品の製造費を省略してようやく健全化する程度の成功でしかない、ともいえる。
 つまりは、経営者として完爾が有能だから現在の黒字を達成しているわけではなく、完爾自身もそのことについては重々自覚していたので、経営上のことでなにかしら判断を迫られたときは、いつも慎重の上に慎重に熟考した上で結論を下していた。

 昼前にユエミュレム姫が自宅に帰り、完爾としては通常の営業日と同じような日常が帰ってくる。なんだか正体がわからない敵につけ狙われようが現在行っている仕事を放り出すわけにはいかないのだった。そんなことをすれば、完爾の一家も相当に困窮するわけだが、それ以上に完爾の会社で働いている従業員たちの生活にも影響が出てくるし、それに、数の多寡はともかく完爾の会社が供給する商品を待っているお客さんたちにも迷惑がかかることになる。
 ひとことでいえば、今となっては完爾にも果たさなければ責任というものが発生しており、なんだか正体がよくわからない連中のために、その責任を放棄するわけにもいかないのだった。
 つまり、完爾にとっての「敵」とは、朝にユエミュレム姫とはなし合った内容からもわかるように、こちらから積極的に探し出して殲滅する対象というよりも、わざわざ姿を現さない限りはそのまま捨て置いた方がいい、くらいの邪魔者、障害物でしかなった。
 そして、その邪魔者、障害物が今、どうしているのかというと……。

「あの「大佐」の空間を、まさか魔力のごり押しだけで突破するとは……」
 この世界のどこかで、「大使」が頭を抱えている。
「グラスホッパーもたいがいに非常識なところがある方でしたが、あの門脇さんは、どうにもそれ以上に破格な存在であるようですね……」
『まさしく、空前絶後の強敵といったところだな』
 回線越しに、「博士」の声が響いてくる。
『ひさびさに、「大佐」が喜んでいるようだ』
「まあ、彼は……強い敵を倒すための存在なわけですから、敵となる人が強ければ強いほど喜ばしいことなんでしょうけれど……」
『敗北すればするほど、強大な存在になっていく。
「大佐」とはもともと、そうした存在だ。
 しかし、その「大佐」でも、あの男を破ることは難しいだろう』
「そこまでの者なのですか?」
「大使」は、驚きの声をあげる。
「「大佐」には、あのグラスホッパーも苦戦したというのに?」
『苦戦して、そして見事に逃げられたな』
「博士」の声は苦笑の成分を含んでいた。
『グラスホッパー……あの男の本領は、戦闘能力よりも的確な状況判断の方にある。
 あの男は恐れを知っているし、自分の力量も決して過信していない。
 慎重で、だからこそ、扱いにくい』
「まったく……あれは、逃げ回ることをまるで躊躇しない男ですからな!
 それでいて、こちらが調子に乗って追い回していると、いつの間にか窮地に立たされている!」
『やつは、勝つことよりも負けないことに重きをおいている。
 その分しぶといし、効果があるのならななんでも利用する狡猾さもある。
 グラスホッパーは、相手にすればするほどこちらを追いつめてくるようなやつだ。
 放置しておくのが賢明というものだな』
「ええ、ええ。
 やつについては、この前にかなり痛い目を見ていますので、当分こちらからかかわり合いになろうとは思いませんよ!
 しかし……門脇さんは、別です。
 いかな元勇者とて、われわれの中でも最強と恐れられる「大佐」を相手に、どこまで持ちこたえることができますかな!」
『そちらはそちらで……』
「博士」の声に、今度は疑問の色が混ざった。
『……ずいぶんと、破格な存在だ。
 グラスホッパーがこちらの予想しない手を使ってくる狡猾さを持っているとすれば、あの男は、こちらの予想を遙かに上回る非常識な力量でもって正面から突破してくる。
 あの男は、まだまだ余力を残しており……これまでにわれわれは、やつが全力を出した様を見たことないということは、肝に銘じておいていい』
「あの男の力は、この世の悪意と怨恨の源泉たる「大佐」にも匹敵し、場合によっては上回る、と……そうおっしゃるのですか?」
『忘れるな。
 あの男は、すでに一度、一つの世界を救ってきた男だぞ。
 この世のすべての悪意を集めてぶつけたところで……はたして、首尾よく討ち果たせるかどうか……』
「なに、「大佐」だけに任せておくわけではありません。
 力押しが得意な相手には搦め手で対応してくことにしましょう。
 流石の元勇者も、この世界の普通の人々には、押し寄せる彼らの欲望を前にしては、なす術もないはずです」
『扇動や流言の操作はお手のものであろうしな、「大使」。
 しかし……それも、やつらには通用するかどうか?
 確かに、あの男だけなら対処できそうもないが、今となっては、あの男にも大勢の味方が居る』
「それでしたら……その味方とやらを切り崩していくことにしましょうか」

 やはり、本業が大事なのだと、完爾はそう思う。
 最近、圧力に負けて妥協し、魔法を普及させようという風潮にも手を貸しているわけだが、極論をいってしまえば、この世界に魔法が広まったとしても完爾たちにはなんのメリットもない。
 では、なぜ少なからぬ時間と労力を割いてまで、あの委員会とかいうお仕着せの団体に協力しているのかというと、こちらの世界の人々や社会と無用な軋轢を作りたくはないからだ。
 魔法を普及するのが避けられないのであれば、できるだけ無害な形にしてこちらの世界に手渡していこう、という完爾の思惑は、現実的な判断ともいえたが、どのように言い換えても結局のところ妥協の産物でしかない。
 当然のことながら、完爾自身はその活動に対して、あまり熱意や情熱を持ってはいなかった。
 できれば他の誰かに変わって欲しいと思っているくらいで、しかし、完爾自身の他にこの仕事を遂行できるただ一人の人物、ユエミュレム姫は育児や家事、その他の仕事でしばらくは身動きが取れない状態だった。
 そうした現状を踏まえれば、どんなにモチベーションが低かろうが完爾自身以外にこの仕事をできる者はいない。
 そうした不本意な状況に加え、今度は直接完爾を狙った襲撃者が現れた。
 いや、これまでだって完爾の殺害を目的とした襲撃者たちがいないこともなかったのだが、彼らは少なくともこちらの世界の常識の範疇に入った存在だった。いいかえれば、とり扱いが面倒ではあっても、単なる犯罪者たちでしかなかった。
 しかし、今度の襲撃者は……かなり様子が違ってきている。

「よし!」
 と、完爾は心中で決意を新たにする。
「今度来たら、ちょっと本気で相手をしてストレスを解消することにしよう」
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