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はじめてのこんかつ  作者: 大橋 由希也
だんどりへん
36/39

はじめてのてんらく

 久遠達の乗るジェットコースターは名前をスプラッシュコースターと言って、丸太を切り出したようなデザインの四人乗りコースターである。頂上まで登った後で急速落下し、何度か昇降した後、上下逆さに一回転し、最後に湖に突っ込んで終わる。


「ぐ……お……ッッッッッ!?」

(……ジ、ジェットコースターって、こんなにキツかったっけ!?)

 頂点から最下段まで急速落下し、そこから一気に急上昇に入る。だが、この瞬間に体にかかる重力、Gが凄まじく、まるで大男に上から首を押さえつけられているようだ!

 久遠がジェットコースターに乗るのは、もう何年ぶりか分からない。小学校の頃に家族で乗ったっきりだが、あの時はこんなにキツいGは無かったと思う。


 ギガガガガガガガガガッッッ!


 ジェットコースターの車体が立てる音も過去に聞いた事が無い。まるで落雷のような激しい破壊音が周囲に響いている。

(……な、何かおかしいぞ、これ! ふ、二人は大丈夫なのかッ!?)

 力を振り絞り、何とか久遠は首を上げて前を見る。璃梨、愛梨、共にGに耐えきれず悲鳴も上げられない状況にある。久遠自身に掛かる負荷から想定して、おそらく呼吸もままならない状況だろう。

(……絶対におかしい! スピード出し過ぎだッ!!)

 この時の久遠が知るはずも無いが、実はこの日、炎天下により気象庁観測で最高気温は41℃、地面がコンクリートであるこの遊園地での観測では43℃という、遊園地史上最高気温を叩き出していた。これにより久遠達の乗るコースターのブレーキ部が変形、破損していたのだ。具体的には、久遠達の一つ前の乗客の走行終盤で破損し、その次に乗り込んだのが久遠達だったのだ。


 ビビビビビビビッッッッッッ!!!!!!


 ジェットコースター周辺に非常警報音が鳴り響く。その直後から久遠達の乗るコースターも原則が始まる。恐らく、コースターの異常を察知した管理センターが非常停止措置を行ったのだろう。

(……た、助かった……)

「お、おい、お前ら、大丈夫か!?」

「は、はい……」

「な、何とか……」

 璃梨と愛梨もGから解放されて頭を上げる。しかし長く強烈なGに晒されていた影響でまだ頭が冴えないようだ。

「と、とんでもねージェットコースターだったな。まあ、もう大丈夫だろ。このままゆっくりゴールまで……。って、おいおい、まさか……」

 徐々に減速しつつあるが、まだコースターは止まらない。そして、すぐ目の前は360°一回転のループだ。ゆっくり、ゆっくりとコースターは登って行き、一番上で逆さまになった所でようやく停止した。

「こ、こらぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!! 逆さまで停止するんじゃねえッ! この遊園地、段取りどうなってやがるんだッッッ!!」

「ううっ……頭に血が……」

「私も……」

「何とか耐えろ!」

 逆さの状態で宙づりにされて、璃梨と愛梨は気分を悪くしてしまったようだ。久遠も当然平気なはずも無いが、根性で大声を上げ続ける。

「おい、スタッフ、気付いてないのかッ!? 逆さで止まってるぞッッ! 早く動かしてくれッッ!! ん、ん?」

 ガゴガゴッ……ガパッッッッッ!!

「ひっ!?」

「きゃっ!?」

(……なっ!?)

 その時、目の前で信じられない事態が起きた。

 逆さの状態では両肩に被せるように固定された安全バーのみで乗客の体重を支えていることになる。コースターの列毎に固定であるため、並んで全部座席に座る璃梨と愛梨は二人で一つ安全バーを使用する構造である。

 その安全バーが、急に外れたのだ。

(……嘘だろッ!?)

 後部差席に固定されている久遠に為す術などあろうはずも無い。目を見開いて二人が落下する瞬間を目の当たりにする他無かった。しかし。

 ガシッ!

「んんんんッッッッ!!」

 何と、愛梨が左手で安全バーを、右手で璃梨の手を掴んで落下を食い止めた!

(……す、凄ぇぇぇぇぇッッッッッ!!!!!!!!)

「よ、よく止めたぜ! だ、大丈夫か!?」

 剣道部員というのは日頃から竹刀を握り締めて戦っているので、握力が非常に強いのだ。

「ぐぐっ……これ……無理っ……ッ!」

 しかし、いくら鍛えていると言っても、愛梨はロッククライマーではない。自重に加えて、軽いとは言え璃梨の体重をも片手の握力で支えるなど出来るはずも無い。今、この瞬間に繋ぎ止めていること自体が火事場の馬鹿力を発揮した奇跡と言っていい。

「お、俺に渡せッ! ち、力が残っているうちに早く……グッ!?」

 璃梨を引き受けようとする久遠だったが、久遠の方は逆に安全バーが邪魔になって腕を伸ばすことも出来ない。最も、仮に安全バーが外して璃梨をキャッチした所で、愛梨と違って特に鍛えていない久遠が果たしてどれほどの腕力を発揮出来ることか。

(……ヤベい! これはマジでヤバい!! どうする? もう一回叫んで早くコースターを動かして貰うか? いや、動いた瞬間衝撃で落ちるかも。ならば俺の安全バーを外せないか? 足を安全バーに引っかけて両手で璃梨を掴めば……。いや、俺にそんなサーカスみたいな真似が出来るわけねぇッ!! どうする? どうする? どうする?)

「あはは……」

 久遠が脳から必死になって知恵を絞り出そうとしていると、逆さになっている久遠の頭上から璃梨の声が聞こえてきた。

「と、とんでもない事になっちゃいましたね。この高さじゃ……、助からないかも」

「そうだ、璃梨ッ! お前、姉の足を掴めないか!? そうすりゃ姉は両手を使える!」

「手が届きません」

「璃梨ッ! り、両手で私の手を掴んでよじ登るのよ!!」

「私にそんな力は無いのです」

 八方塞がりだ。それでも久遠と愛梨は何とか璃梨を救助する手段を考えるが、すでにもう愛梨が力尽きようとしていた。

「このままお姉ちゃんを巻き添えに二人揃って転落死したら、恩を仇で返すにも程があります。私は……それだけは絶対に避けたいのです」

「諦めるんじゃねえッ!」

「お姉ちゃん。今まで本当にありがとうございました。私にとってお姉ちゃんは……本当のお姉ちゃんと全く同じでした」

「り、璃梨! が、頑張って!! もうちょっとだからッ!!」

「久遠さん。短い間でしたが、大変ありがとうございました。久遠さんは……将来ちゃんと良いお嫁さんを見つけて、幸せな結婚して下さいね」

「や、やめろって! 璃梨ッ!!」

「それでは、さよならです。お姉ちゃん。……久遠さんッ!」

 愛梨と繋がっていた左腕を振り切り、璃梨の体が宙に舞った。

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