はじめてのわなげ
「さて、どのゲームにするかな」
久遠と璃梨が入ったミニゲームコーナーは、輪投げや玉入れ、モグラ叩きなどの体を動かす系のゲームが詰まった施設だった。
「まあ、とりあえずは玉入れ……」
久遠が最初に目に入ったのは、バスケットゴールのような目標に、同じくバスケットボールくらいのサイズの軽い玉を放り込んでいく玉入れだ。本物のバスケットボールではないので璃梨でも十分に投げられるだろう。別にゲームは沢山あるし、入り口近くから順々にやっていけば良いだろう。
「いけません!」
しかし、これには璃梨が待ったを掛けた。
「玉入れは背が高い方が有利です! これでは璃梨に勝ち目がありません!」
「お、お前、本気だな……」
入場前に『勝負して璃梨が勝ったら結婚する』と約束してしまったので、璃梨の闘争心が尋常では無く高まっている。
(……一体この結婚願望はどこから来るんだ? コイツ最大の謎だぜ)
璃梨は八歳の女子小学生であるから、この位の年齢の少女が言う結婚という言葉は、ようするにシンデレラとか白雪姫とか、そういったイメージの延長に過ぎないと考えるのが普通だろう。しかし久遠が見るに、璃梨はそうではない。ガチで今期が迫っている、もしくは逃してしまった女性が切実に結婚相手を探しているような迫力があるのだ。
しかし、どんな事情があってこういうことになっているのかは考えても分からない。そうこうしているうちに、璃梨がプレイするゲームを決めたようだ。
「久遠さん、これです! これにしましょう!」
「輪投げか」
璃梨が指を差したゲームは、輪投げだった。地面に景品が置いてあるので、それに向けてハンドサイズの輪っかを投げるゲームだ。
「いいぜ、これにしようか。スタッフさん」
久遠がスタッフにプレイ開始を頼むと、スタッフから輪っかを五つ渡された。一ゲーム三百円で五回投げられるわけだ。
「お前に三個やるよ。一個ハンデだぜ」
「フフフ。この一個が運命を分ける一投になるかもしれませんよ?」
「まあ、その時はその時だな。じゃあ、やってみるか」
「璃梨、頑張ります!」
そして、璃梨は輪っかを一個持ち、白線のギリギリに立った。景品が置かれている場所から距離を置いて白線が引かれており、ここより外から輪っかを投げなければいけないというルールだ。
「フフフフ。景品が地面に置いてあるということは、身長が低い私の方が景品までの距離が近くて有利。璃梨必勝のゲームです!」
「そんなのは俺が膝を着けばいいんだよ。ひょいっと」
スポッ。
「あっ!?」
久遠は地面に片膝をついて身長を璃梨と同じにして軽く輪っかを投げると、見事、手前の方にあった景品に入った。
「ああっ!? は、反則です! 膝を着くなんて酷いです!」
「い、いや、普通だろ……」
「そ、そこまでして私に勝ちたいんですか! 久遠さんは私と結婚したくないんですか!!」
「い、いや、別にそういうわけじゃ……ッ!?」
気がつくとどこのカップルが痴話喧嘩しているのかと周囲がザワザワし始めていた。
(……ヤ、ヤベッ!?)
「ほ、ほら、恋には試練があった方が燃えるだろ。そういうこった。ほら、もう一個輪っかやるから、頑張れ。お前が二個景品取れば結婚だな!」
「ニヘヘヘヘ。四個もあれば二個くらい取れるのです。フフフフ……」
「……ッ!?」
こうして璃梨はまんまと四個の輪っかを手に入れた。
(……コ、コイツ、ゲームを有利にするためにわざと騒いだだろ! 腹黒過ぎるッ!!)
最後に浮かんだ不適な笑みを見て久遠はハメられたと気付いたが、すでに前言を撤回出来る雰囲気では無かった。