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はじめてのこんかつ  作者: 大橋 由希也
ゆうえんちへん
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はじめてのこねこ

 ギラギラと太陽の輝く炎天下の元、一週間ぶりの再会を果たした久遠と璃梨だったが、開始早々に璃梨の頭突きで久遠がダメージを負った。そして、そこから少し離れた所には、建物の影からそんな二人の様子を伺う愛梨の姿があった。

(……あ、アイツ、いきなりヘマしたわ! ほ、本当に大丈夫なんでしょうね!? せっかく私がレクチャーしてあげたのに! も、もし璃梨の気持ちを台無しにするようなことになったら、絶対に許さないんだから!)


「ご、ごめんなさい、久遠さん。大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ……」

(……と言いつつ、結構なダメージだったぜ)

 璃梨は誕生日を迎えた後の八歳だから、小学二年生だ。年齢と比較しても小柄な方であるから、体重は20キロも無いのではないだろうか? しかし、そんな小柄の少女であっても、頭からダイビングしての頭突きにはそれなりの威力がある。ボーリングの玉をぶつけられたような痛さだった。

 璃梨が心配して下から顔を覗き上げてくる。

(……くっ、こ、ここは大人の男の強さを見せるタイミングか!?)

 しかし、こんな子供の一撃にやられては流石に情けないと久遠は根性を出した。

「だ、大丈夫だ。ほら!」

「ひゃあ!?」

 久遠は両腕で璃梨を捕獲すると、お姫様抱っこで持ち上げて自らの腕力を示す。

「やっぱりお前、軽いな。これだけ軽けりゃ、体当たり一発くらいどうってこと無いぜ」

「額に脂汗が浮かんでいるような気がするのですが……」

「こ、これは暑いからだ! 今日は真夏日だからな!」

「そうだ! ちょっと待ってて下さい」

 そういって、璃梨は久遠の腕の中でガサゴソとショルダーバッグを漁り始めた。

(……うっ、重くなってきたぜ。早くしろ)

 いくら体重としては軽いと言っても、鉄アレイを二個持ち上げているようなもの。体を鍛えていない久遠にはすぐにキツくなる。

「はい。ハンカチです。拭いてあげますね」

「ん……ググッ!?」

(……い、痛ててててて! そこは額じゃない。目だ。やめろ!)

 ハンカチで額を拭いているつもりなのだろうが、微妙に位置がズレていて指が目に食い込んでくる! しかし、久遠はそれを指摘せずに耐えることで乗り切った。

「はい、綺麗になりました!」

「あ、ありがとな……。そ、そろそろ下ろすぜ。気をつけろよ」

「はい!」

 そして、ようやく久遠は璃梨を地面に下ろして重量から解放された。

(……ふう。た、大変だな、これは!)

 出会って数分でこの様とは先が思いやられる。しかし、ちゃんと約束してここまで連れてきてしまった以上、最後まで面倒を見切らねば筋が通らない。久遠は面倒臭がりで何事にもやる気が無いが、一度腰を上げてしまった以上は仕方が無い。とことんまで付き合い切る。それが久遠の信条である『段取り』の中核であった。

(……よし、次は……何だっけ!? えっと、姉が言ってたな。デートをする時は相手を褒める? 褒める? ッ!?)

 そう思って久遠は璃梨の全身を見渡し、一瞬で気がついた。

(……ネコミミ! これしか無えッ!!)

 余りに露骨。あからさまに狙っている黒猫のネコミミが頭に着いているではないか。いくら女心に鈍感な久遠でもこれは分かった。

「璃梨、そのネコミミ、似合ってるな。どうしたんだ?」

「へへ~。これはですねぇ」

(……ん?)

 やはりネコミミに目を付けたのは正解だったようだ。璃梨は上機嫌になってニコッと無邪気な笑顔を浮かべる。それを見て久遠が思ったのは、やっぱり璃梨は可愛いなぁ、だった。璃梨の相手をするのは非常に大変だが、この笑顔を見ると大変な事も楽しさの一つであるかのように思えてくる。大変な事=やりたく無い、で結論付けていた久遠にとって、過去に無い新鮮な感情であった。

「この遊園地は動物のコスプレして入るのがお約束なのです。そこで、璃梨は子猫ちゃんになって来てみました」

「ああ、そう言えば、そんなこと言ってたような……」

 周囲を見渡すと確かに他にも動物の耳やしっぽを付けている人がいる。

「今は夏なので耳だけですが、涼しければみんな着ぐるみを着てくるのですよ」

「そうだったのか。だったら俺も何か持って来ればよかったな」

「そう思って、久遠さんの分は璃梨が持ってきました。じゃーん」

 そして璃梨がバッグから取り出したのは……、犬耳だった。

「やっぱり犬か!」

「初めて会った時から犬耳が似合うと思ってました!」

「やっぱり誰が見てもそう思うんだな……」

「璃梨が付けてあげますね。頭をこちらに……よいしょ」

 璃梨の言われるが儘に頭を下げて犬耳を装着して貰った。

「どうだ?」

「とっても似合ってます!」

「ま、まあ、俺ってどこ行っても犬って言われるからな。そりゃ似合うだろ」

「とっても格好良いですよ!」

「そ、そうか?」

 ハッキリ言って、久遠はこの狂犬と比喩される顔のせいでどこ行っても不良扱いされるので余り気に入っていないのだが、何故か璃梨は喜んでいるようだ。どういう趣味をしているのか久遠にはサッパリ分からない。

「さっそく写真を撮りましょう!」

「お、おう……」

 璃梨がスマホを取り出して自撮りモードに切り替えたので、久遠は膝を付いて璃梨に頭を寄せた。璃梨は手が短くて上手く自撮り出来ない為、代わりに久遠がスマホを持ち、目一杯腕を伸ばして写真を撮る。

 カシャッ!

「さて、取れ具合は……。ん? 意外に……」

「バッチリです♪」

 二人は頭を並べて撮影した写真を覗き込む。そこに移っていたのは……、正しく狂犬としか言い様の無い不良男と、実に愛くるしい無邪気な子猫ちゃんだった。

 ギャップあり過ぎで無茶苦茶な組み合わせであるが、二人並んで撮影してみれば、まるで『美女と野獣』を連想するような不思議な一体感が出ている。狂犬を横に置くことで子猫ちゃんの可愛らしさが引き立っているし、逆にこんな可愛い子猫ちゃんが横にいることで狂犬の凶暴さがチャーミングポイントのように見える。

「俺達ってさ、意外に……」

(……お似合いなのかもな)

 久遠の口からポロリと聞き取れない程小さな言葉がこぼれ落ちた。

「はい? 何て言いました?」

「え、あ、い、いや。意外に良く撮れてるよな!」

「はい! 璃梨、とっても気に入りました♪」

「よし、ならそろそろ入ろうぜ! 迷子にならないよう、ちゃんと手を繫いでろよ」

「はい!」

 そして、久遠と璃梨は仲良く手を繫ぎ、遊園地の中に入っていった。


「ちょ、ちょっと、何あれ~ッ!?」

 その様子を影から見ていた愛梨は一人、建物の影で憤慨していた。

「な、何であんなに上手くやってるのよ! もうちょっとヘマしなさいよ! これじゃ何の為に私かここにいるのか全然分かんないじゃない! もうアイツったら、絶対許さないんだから!」

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