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world
作:tanuki



5


「ん?」
「・・・」
「んん?」
「・・・」
「んんん?」
「・・・」
「先輩、さっきから爽やかな朝の登校に誰も目を合わせてくれないんすけど・・・」
 梶がところどころが腫れた痛々しい顔でさっきからぐるんぐるんと辺りを見回していた。
「そりゃ、昨日あんだけ自分のクラスを壊滅させたんだ、目もあわせたくないだろ」
「そうんなもんすかね・・・」
 顔もそんだけ腫れてりゃなと正は心の中でつけたした。
「あっ、先生〜、おはようございま〜す」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいい」
 梶が挨拶したとたん、梶のクラスの担任、レミエは叫びながら学校方面に走り去った。
「ちょっと傷つきますね・・・」
「しょうがないだろ、拷問フルコース食らわせようとしたんだから」
「未遂ですよ!未遂!あんなに怯えることないと思うんっすけどね・・・」
 梶が最後のほうぶつぶつといっていたが、正はそんなことには構ってられなかった。
 こいつはいいよなぁ〜、生徒で。俺なんか今日から先生役・・・。
「はぁ〜」
「ため息つくと魔力も逃げますよ〜?ってなんかここにありそうな言葉じゃないっすか!?」
「おまえ脳みそ引きずり出すぞ」
「なぜ!?」

「あー、朝っぱらからいきなり先生かよ・・・」
 残念なことに今日は武術(本来なら魔法試合)の授業が一限目からである。
「梶のやつ・・・一人だけ不安が消えたからって・・・」
 梶は一年の教室のところで「あ、俺もとの世界で学園長に妹のこと頼みましたんでもう心配ナッシングです。・・・というわけで、子猫ちゃんたちカモーーーン!」といいながら自分のクラスに飛び込んでいった。
「これも全部・・・あのおっさんの・・・」
「止まりなさい!」
「ん?」
 なぜか喉元にいつの間にやら刃物が突きつけられている。あ〜、この世界にも刃物があったんだな、などと勘違いなことを考える。
「貴様はこの学園の・・・え?」
 正は喉元の刃物から離れるように後ろにいる人物に倒れこみ
「まぁ、正当防衛だな」
 腕で相手の首を抱え、そのまま当然のようにへし折った。
「おっし、んじゃお顔をはいけ〜ん・・・って人形かよ。なんだこれも魔法か?」
 正はそういいながら、人形の胴体を蹴っ飛ばし自分の教室に足を向けた。
 人形が正に蹴られてから音を立てて床に倒れて10分ほど放置されたあと、黒い影を人形を飲み込むように回収をしていった。

「起立、礼。着席」
「はい、よろしく〜」
 正が教室へと向かうと、まったく面識のないやつが教壇に立っていた。そいつは金髪に金色の瞳のイケメンだった。問題があるとすれば正と背が同じぐらいなこと。
 そいつは正のことを見かけると
「ふぅん」
 ここに来てから何度も受けてきた侮蔑の視線を浴びせた。
「あの・・・」
「は〜いよく聞いて!てわたしの愛しい生徒諸君」
「「は〜い、ラメロ先生〜!」」
 ラメロの声に対してクラスの生徒が声を合わせて答える。
「実はだね〜、君たちにと〜っても残念なお話があるのさ〜!」
「「と〜っても残念な話って何ですか〜?」」
「なんと学園長先生がこの僕を戦闘訓練から外して、ど・こ・か・の魔力のないようなやつに任せようとしているんだよ」
「「え〜!」」
「君たちはそんな、ど・こ・か・の魔力のないようなやつに教わりたいかい?」
「「いやで〜す」」
「じゃあ、みんなでいおう!そんなやつは帰れってね!」
「「帰れっ!帰れっ!帰れっ!」」
 まるで打ち合わせしたかのような目の前の出来事。それを呆然と見る正を見てラメロはフンと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「・・・えー、終わりましたか?じゃあ、学園長先生から渡された資料に沿って授業を進めま〜す、まずは教科書の・・・」
「ま、ま、待ちたまえ!君ぃ!」
「何ですか?まだ何かあるんですか?」
 慌てて正に詰め寄るラメロを面倒くさそうに正は見返した。
「さ、さっきのを聞いてなかったわけではあるまい!」
「さっきの?あ〜、何かギャーギャー言ってましたね。実はだね〜あたりから聞いてませんでした」
「ほとんど聞いてないじゃないか!!」
 ラメロは教壇に立って指導の仕方、授業内容などの書類を見ている正を押しのけ生徒たちにまた声をかける。
「君たちはこんなゴミのような魔力なしの授業が受けたいのかね!?」
「「うけたくありませーん!」」
「じゃあもう一度いうんだ!こいつに!こ・こ・の、こいつに!」
「「帰れっ!帰れっ!帰れっ!帰れっ!帰れっ!」」
 ラメロの扇動により、また生徒たちが喚きたてる。その声の大きさは教室を揺るがすほどだった。
 そしてその声は・・・・・一階の梶にも届いていた。
「先生!」
「ひいいいいいいいいいっ!」
「いや、ひいいいいいいじゃなくて。・・・えと、ちょっとトイレに行ってきます」
「ひいいいいいいいいいいいいいい!」
「い、いきますよー」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
 すっかり言葉が喋れなくなってしまった担任の先生を哀れに思いんがら、さっきから喚いてる教室にむかって走った。
 いや〜、先輩ぶち切れたら誰が止めるんだろぅ・・・・。

「では、ラメロ先生」
「君ごときが名前を呼ぶなっ!」
「・・・・決闘で決めましょうか」
 その言葉にクラスが静まった。
「決闘?・・・・っくはははははは!傑作だ!元の世界ではただの生徒でしかなかった君が僕と決闘?くっははははははははは!」
 ラメロの笑いと同時にクラス全体がまた揺れる。
 決闘だってよ!
 馬鹿じゃねぇの!?
 魔力もねぇのに!
 いかれてんじゃねぇのか!?
「決闘・・・っくくく、いいけど、命をかけるってことわかってる?」
 ラメロがここまで相手を嘲るのにはそれなりの自信があった。なぜならラメロは数少ない魔法剣の伝承一族であり、この学園で戦闘の指南をするほどのエキスパートである、それが魔力も無い、まだ10代のガキに負けるはずがない。
「くっくっくっく、いいよ、いいともさ!・・・くくくくく」
 笑いが堪えきれないラメロは、本来学園生活で使われることのない決闘場へと正を案内した。
 決闘場といってもやけに広い広場の真ん中に二本の白線が引いてあるだけだった。
 そしてその周りを埋め尽くすクラスの生徒たち。
「がんばれーっ!ラメロ先生!」
「がんばー!」
「魔力のないやつなんかに負けるなー」
「そんなやつ追い出せー」
 ラメロはその声をうっとりした表情で聞き入る。
「聞こえるかいこの声が。この声が僕に力をくれる!勇気をくれる!・・・さぁ、はじめようか・・・。そことそこに引いてある白線のどちらかに行きたまえ」
 まっすぐ並行に引いてある白線、その距離は大体10メートルほど。
「じゃあ俺はこっちで」
「そっちは僕だ!」
「・・・じゃあ、こっちで」
「フン、まぁいいだろう」
「・・・・」
 二人が白線の後ろに立ち、足場を整えてから正が声をかけた。
「あ、そうそう、確認ですが」
「なんだい?」
「殺してもいいんですよね」
「アーハッハッハッハ、できるものならね」
 二人が白線の後ろについた。
 正の獲物は2メートルほどある刀。
 ラメロは右手がうっすら金色の光を帯びている。
 ラメロに頼まれていた生徒が開始の合図でドラを鳴らそうとしたとき・・・。
「ちょっとまったああああああああああ!!」
 グリズリーのようにでかい男が現れた。
「んなでかくないやい!・・・・じゃなくて、先輩!何を危ないことやってるんですか!」
「なんだ梶か・・・。決闘だよ」
「決闘!?相手は・・・・」
 梶は正とは反対側にいるラメロを見つける。
「そうっ!この僕さっ!君も友達なら止めてやってくれたまえ!そこの彼は一時の嫉妬心で命を粗末にしようと・・・」
「あんなの楽勝じゃないっすか!?」
「ああ・・・まぁそうなんだけど」
「これで勝っちゃったら先輩モテモテじゃないっすか!」
「いや・・・そう・・なのか?」
「そうっすよ!そうやって一人で異世界ハーレムを作る気っすね!」
「ハーレムっておまえ・・・・」
「そうはさせねっす!そこの・・・えーと・・・変金髪!俺と勝負だ!」
 いきなりの乱入、そして自分が決闘をやつ宣言。まわりの生徒はいまいち意味がわからず、取り残されていた。
「へ、へ、へ、変金髪!?母上にいつも誉められていた一点の曇りもないこの金髪を・・・!いいいい、いいいでだろう!君とやろう!そこのへっ変グリズリーと!」
「へっ変グリズリー!?てめぇ、なんかマザコン野郎じゃねぇか!」
「なんだとおおお〜っ!」
「おいおまえ!誰だか知らないがいい加減にしろ!ラメロ先生を侮辱するな!」
「そうだそうだ!ひっこめグリズリー!」
「グリズリー!」
「グリズリー!」
「グリズリー!」
 その3秒後、いった順に消えていった。
「この俺様の長身をグリズリー?筋肉をグリズリー?てめぇら骨が残ると思うんじゃねえぞおおおおおおおおおおおおおお!」
 はい、梶くんブチ切れ。
「せんぱ〜い、やっぱりこいつら全員俺がやりますううううう〜♪」
 ♪がつくのは切れたとき。♪がつくのはやばいとき。
「みんなぁ!?やってやろうぜ!この生意気な魔力無し野郎をぶち殺してやろうぜ!決闘だってんならお咎めなしだ!!」
「「おおおおおおおおおおお」」
「おい、誰か決闘の合図のドラを鳴らせ!」
 クラスのリーダー的なやつが指示を出すと一人がドラのところへ駆けていった。
 そして
 ゴ〜ン!
 ゴ〜ン!
 ゴ〜ン!
 開始のドラが3回鳴って、敵の生徒たちが咆哮を上げた。
「おまえ・・・本気でやるのか?」
「当たり前じゃないっすか〜♪」
 答えながら右手に長い長い木の棒を持ち・・・・さらに左手にも長い長い木の棒を持った。
「本気でりますよぉ〜♪」
 梶がニタニタしながら答えたとき、すでに付近には正はいなかった。
「ぶっ殺す♪」
 魔法で出来たゴーレム。炎の渦。水流。氷のつぶて。雷のような一閃。風の刃。
 そんなものこの嵐が消し飛ばした。
 見えるのは風。当たるのは災害。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!」
 当然のようにすり抜けるはずの風が身体を叩き飛ばす。
「ひいっ!だれか・・ぎゃああああああああああ!」
 遠くから見ると、それは一つの台風のようだった。
「な、なんなんだよこれ」
風の渦。
「げはっ!?」
違う。
「ひいいいいいいいい」
あれは棒の残像。
「たすけ・・・」
鞭の残像。
「ぎゃっ!びぃっ!ぎゅっ!」
梶の手から先で紡がれたのは棒でもなく、鞭でもなく、風だった。
「ああああああああああああああああああああ」
 悲鳴が台風の中で木霊する。だが、それすらも掻き消す嵐。
「ぎゃあああああああああああああああ」
 どこに飛ばされても風(棒)によってまた飛ばされまた巻き込まれ・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 声が止んだとき、まわりの風(棒)が消え、梶の姿が現れた。
 残っているのは倒れた木(生徒)と、ただの水溜り(血だまり)だけだった。

「貴様!何をしたかわかっているのか!?」
 ミファエル学園長が梶の前の机を叩く。
「決闘はいいんじゃないんすか〜?」
「ああ!決闘はな!だがあれは違う!リンチか虐殺だ!」
「だからリンチ」
「ふざけるなっ!貴様は無傷で向こうは一クラス担任丸々重症、虐殺だ!」
「殺してないんだからいいじゃないっすか〜」
「小僧ぶち殺すぞ?」
 ぐいっと梶の胸倉を掴む。
「先生〜、いくら魔法の能力が高くてもこの距離ならぶち殺しますよ♪」
 その声にミファエルはぞっとして目をそらした。
 ミファエルはそれなりに戦いを経験したことはある。ゴブリン退治やオーク軍の追い払い、大捕り物とした大人数でのドラゴン退治。数々の戦いをしたはずだ。こんな小僧に・・・心でいくら叱咤しても目が合わせられなかった。
これが初日にヘラヘラしていた男の目か?同一人物なのか!?
目を見ればその人がわかる。これはある程度は正しいといえることだ。だが目の前の男の瞳の中などのぞきたくなど絶対になかった。
「せんせ、もういいすか?正直少し疲れたんです」
「あ・・・ああ」
 ミファエルはそのまま梶が部屋の扉を閉めるまで見送り、その後、魔法器具を使い異世界へと連絡を取った。

次の日、ミロ・レ・ミファエル学園長はその日、朝から学園長室で頭を書類に埋め悩んでいた。
あの後、異世界に連絡をとり調べたが・・・あいつが3番?あのレベルでか?
頭の中に昨日の惨劇が流れる。
「ああっ!」
思い出したものを消そうと頭を振ると書類がいくつか落ちた。だが、それでもミファエルの頭にこびりついたあのおぞましく深く黒い瞳は消えなかった・・・。
そもそも奴らの戦闘のレベルはなんだ?普通、いくらいわれたからといっても馬鹿正直に1番、2番、3番。世界の切り札ともいえるやつら生贄にされるかもしれないとこに差し出すか?
「なにか・・・なにか別の目的が・・・」
結局、その日ミファエルは学園長室に篭りきりだった。
ことが起こるまでは・・・。














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