world(5/6)縦書き表示RDF


world
作:tanuki



4


「ちっきしょ〜、ざけやがって・・・!」
1年の滞在が決まったとたん急に荒れはじめた梶。
手に持っている棒状の黒のカバンで壁がガスガスと叩いている。だが梶がこんなに荒れるのも仕方が無いことで・・・なんと梶には可愛い可愛い妹がいるのだ。それも通っているのは普通の学園の。そんな目に入れても痛くないほどの妹を元の世界に残しているのだ。勿論、こっちに出てくるときに同じ学園のそれなりの奴らに護衛を頼んだ。だけど、それでも安心できない・・・もしも護衛を頼んだやつらが可愛すぎる妹の魅力にまけ、あんなことや、そんなこと、ましてやあんな・・・・!!
「いい加減にしろ!」
 いい音がして梶の頭が杖で殴られた。
「本来なら貴様のような魔力の無いゴミが入れる場所じゃないんだ!黙っておとなしくしていろ!」
杖で殴ったのも、怒鳴っているのも初日に見た赤い髪の女だった。
名はファン・ド・レミエ。そう梶がいきなり切れかかった女性はやはり先生だったのだ、それも担任。さっきからブツブツとしゃべっている梶の頭を容赦なく杖で打ちつけている。普段の梶なら美人ということも差し引いてもぶちきれそうだが・・・・
「夕子・・・夕子・・・・無事で居ろよ・・・」
頭に痣が出来るほど強く殴られたのにまったく気にも留めない。
「ちっ・・・!気味の悪いやつだな」
ちょっと異常な梶の様子を見て、レミエはそれ以上何もしなかった。

「みんな知っていると思うが今日から留学生が入る」
普通なら騒ぎそうなものだが、教室の中の生徒は誰一人としてしゃべらなかった。
「ホラ、入って来い」
「夕子・・・夕子・・・」
レミエに促されて入ってきたのは夢遊病患者のような梶。
「名前は書類によるとカジというらしい」
レミエがそういうと一人の生徒がニヤニヤと笑いながら手を上げる。
「せんせ〜い、名前の一番上だけじゃなくて他も教えてくださ〜い」
その言葉に何人かの生徒が笑う。
「おいおい、ちゃんと勉強しているのか?こいつらの世界の人間は私たちとの戦争に負けて名前を一つ取られたからこれだけなんだよ」
レミエが嘲笑気味にいうとクラスがざわざわとざわめきだした。
「うわ〜、マジで名前一個しかないんだって〜」
「っていうかやけにでかくない?まるでグリズリーみたい」
「他の世界って・・・え?あいつマジで魔力ないの?生きていけんのかよ」
ざわざわ、ざわざわとクラス全体が嘲笑と侮蔑の視線を送ってくる。
「ほら、ゴミ。おまえの席はあそこだ」
レミエが空いてる場所を指差すと、その周辺に座っていた生徒たちが『うわ〜』といいながら二周りほど移動した。梶はそんな周りの様子を気にすることなく、すた、すた、すた、すた、と。まるで足を引きずり歩くかのように指定された席に着いた。
その後、レミエは新しく入った梶に何の説明もせずいつものように授業をはじめ、あと少しで終わりそうかな?という時間になったころ



梶が動いた。


「・・・・ックックククク!アーハッハッハッハッハッハハッハッハ!ヒャハハハハハハハッ!」
「な、なんだ!?」
 急に誰かが馬鹿みたいな声で笑い出したのに対してレミエは黒板に向き合う形から声の発信源を見る。
「ゴミか・・・?どうしたゴミ?鏡でも見たか?」
そういった瞬間、梶の異変に戸惑っていた生徒達が少し沸いた。
「いやー気がついちゃったんすよ、俺。そうか〜最初からこうやれば帰れたんだ〜」
ウキウキと歌うように喋り、自分の手持ちのカバンから何かを取り出した。
出てきたのは1メートルほどのただの木棒。
一本。
二本。
三本。
一本目と二本目に金具が着いてる以外になんの変哲のないただの木の棒だった。
「おいおい、ゴミ。なんだきゅうに?それでお遊戯でもするのか?」
また少し教室が沸く。
だが・・・
普段の恐ろしいほどの短気な梶はそれすら気にせず、カチッ、カチッ、っと棒を繋ぎ合わせていく。そして、最後に出来たのは3メートルほど長い木の棒。
常人では持つことも出来なさそうな木の棒を梶が片手で確かめるように2、3振った。それを見てさすがに様子がおかしすぎるということに気がついたレミエは慌てて自らの杖を構えた。
「この世界のやつら皆殺しにすれば俺もとの世界に帰れんじゃ〜〜〜ん♪」
狂気。まさに狂気。
梶の精神はすでに何かを超越していた。
「おい!私が許可をする。このゴミを攻撃しろ!」
どうせ契約で奴らの命の保障まではされていない。そう思いレミエは生徒に声をかけた。
「エー、先生まじでやっちゃっていいんす・・・」
喋っていた生徒が目の前で消えた。
一人
二人
三人
四人。
そこまで数えて慌ててレミエは自らを梶から距離をとった。
「なんだ・・・あれは・・・」
さっきまで確かに長い棒を振り回していたはずだったのに・・・今あいつが持っているのは・・・鞭?
「さ〜て、そろそろペース上げるぜええええええ」
木の鞭のスピードが上がる。
見えるのはただのうなりだけ。
暴風に巻き込まれるようにひしゃげた生徒たちが飛んでいく。
魔法の詠唱?出来るわけがない、止まったら身体をへし折られる。
だが、自分は教師だ。とりあえずこの事態を起こしているやつを仕留めねば!
そう思い、一歩進んだときすでに身体は10歩分ほど横に飛ばされていた。

悪夢のような状況が5分ほど続いたあと、梶が一人ですべてがなぎ倒された教室に立っていた。
 
そこでレミエと目が合った・・・。
「あれぇ??初日に見た糞女じゃねぇか?」
「・・・・くっ」
 ついさっきまでゴミ扱いをしていたやつが自分を見下している。
「このゴミめ・・・」
 そういいかけて意識を手放さそうとしたとき、グシャと自らの手の骨の砕ける音を聞いた。
「ぎゃあああああああああああ」
「おいおいおいおい!何勝手な発言して気絶しようとしてんだよ?っていう昨日もなんかむかついたしな・・・・とりあえず拷問フルコースでもやってやっか・・・あっ!右手の骨全部砕いちゃったし!一本ずつやんなきゃ拷問じゃねぇってのに・・・」
「ひぃ・・・ッ・・・」
「まず左手小指の第一関節〜♪」 
「ぎゃあっ!」
木の棒で当然のように梶がレミエに指の骨を粉にする。
「次は〜」
「ひっ!」
レミエの目の前いる男が悪魔ように見えていたとき、梶の上に人物により影がかかった。
「おい、おまえは俺の目標を忘れたのか?そうなのか?そんなんだな?」
「え・・・?あれ?せ、せんぱ〜い・・・いやぁ〜だってちょっと夕子が心配だったしぃー、ちょっ、ちょっ〜っと騒ぎを起こしちゃったっていうかぁ〜」
ついさっきまで魔物のような振る舞いをしていた男が怯えていた。それも自分よりも小さく腰に一本の武器をつけた男に。
「ちょっとぉ〜?ちょっとぉ〜なぁ〜、授業中に生徒と先生ぶっとばしたのがちょっとぉ〜なぁ?」
「え、えーまぁ、ちょっとぉ〜やりすぎちゃったみたいな・・・・逃げるが勝ち!!」
「あ、おまえ!」
梶はダッシュで2階も窓から迷わず飛び降りた。
「てめぇ、帰ってきたら覚えてよぉ〜!」
正が窓に近寄り、大声を出すと遠くから「すいまっせーん」という声が聞こえてきた。
「ったく・・・」
「で、騒ぎの原因は?」
正がため息をつきながら転がるイスを蹴っ飛ばすと、いつの間にかクラスのドアの前に立っているミファエルが正に聞く。
「多分・・・妹が心配だったんじゃないんすか?」
「妹?彼にそんなのがいるのか?」
「ええ・・・あいつの両親が最近死んでからますます溺愛してるんですよ・・・」
「ふぅむ・・・そうか」
「えっと・・・罪になります?」
「・・・まぁ、いいだろ。そこらへんの事情を無視して急な長期滞在だったし、それに・・・死んでなけりゃ治せる」
学園長はにかっと笑ってみせてから、負傷している者たちをタンカで運ぶ回復要員達を指さした。
「えっと・・・俺はまだ授業いけないんすか?」
正は薫と梶とは違い、さっきからこの目の前のミファエル学園長に色々な説明を受けていたのだ。
「ああ、まだまだ。さっきのも職務の一つになるぞ。セイ先生」
「はぁ〜、まだ学生なんだけどなぁ・・・・」
正は本来学生だが、少々この世界の王と面識があり、王たっての希望でこの留学で武術についてだけ先生役に選ばれた(らしい。というか本人はついさっき聞いた)。
「はぁ〜」
「ため息をつくと魔力が逃げるぞ」
「こっちの言葉ですか?」
「いや、いま考えた」
「は〜」
「コラコラ」
「えっと・・・また学園長室?」
「うむ、私のあとについてくるべし!」
「は〜」
「コラコラ」












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう