3
「ふわぁ〜あ・・・・」
結構よく寝たななどと思いながら正は頭を擦る。
「あっの・・・アマ・・・」
隣のベットを見ると梶が布団から腹を出しながら頬に赤い紅葉跡をつけて寝言をいっていた。
「こいつ何かやらかしたんじゃないだろうな・・・」
はい!その通りです!
なんて答える人もいなく、とりあえず蹴っ飛ばして起こしてから洗面所に顔を洗いに行った。
「ねっみぃ〜っすよ・・・」
頭がまだ覚醒していないのか、さっきから通路の両壁に結構な音で頭をぶつけながら跳ね返るように進む梶。
「おら、しゃんとしろ。薫先輩もう来てるぞ」
頭が傾いている方向により加速をつけて押すと、壁に梶がめり込んだ。
「あれ?真っ暗?って抜けねっ!先輩!誰かが真っ暗な世界で俺の頭を必死に固定してるんすけど!!」
んな気味悪ぃことするやついるか馬鹿。そんなことを思うが、2割がた自分のせいかと思いなおし、少し心のなかで反省したあと薫に挨拶をした。
「え?助けないんすか!?ちょっ・・・ふん!あっ抜けた!」
「薫先輩、おはよう」
「うん、おはよう」
にっこり微笑むこの太陽は上に上がってるのよりも眩しかった。
「薫先輩おはよーっす!」
「おはよう」
「・・・」
「ど、どうしたの?」
薫を見ながらうんうんと頷く梶を見て、少し照れたように下に俯きながら薫が聞いた。
「いえ、やっぱり薫先輩が一番だと思いましてね〜」
「おまえ、やっぱり昨日何かやったのか・・・」
能天気に笑う梶を横目に見ながら正は思わず頭を抑えた。
「えっへっへっへっへ」
「はー・・・」
「・・・?」
能天気そうに笑う梶と、痛そうに頭を抑える正と、事態がいまいち掴めずにクルクルと二人の顔色をうかがう薫と、一人一人の心中は違うと思うが、全員がこれから始まる生活に何らかの感慨を抱いているのは確かだった。
「やぁやぁやぁや!君たちが100年に一度の選ばれた者たちだね!」
明らかにその辺の少女たちとは一線を置く、成熟した魅力を持つ女性がこの世界では逆に珍しい黒髪と、その髪と同じくらい深い色の瞳で留学生達を迎えた。
「先輩、なんか俺この人から悪寒を感じるんすけど・・・・」
「奇遇だな・・・・俺もおまえの母親と同じ匂いを感じるんだが・・・」
そのまま正の額から冷や汗が頬を伝う。
「やぁーだな!そんなに身構えないでくれたまえよ!別に・・・とって食うわけでもあるまいし・・・ね?」
キラリと黒い瞳が輝くのを見逃すメンバーではなかった。
「まぁ、と・り・あ・え・ず!学園長室へ行きましょう!いろいろ話す事項決まってるしね〜・・・というわけで!そこのグリズリーみたいな君!そうっ君だよ!はい、この後で配る教材もってきてね!」
まるで歌うように喋り、地面に小山が出来るほど積んである教材の束に指をさしてそのまま前に歩き出す。
「なんで俺!?先輩たち・・・って置いていかんといて――!!」
すでに前方の女性の数歩後ろを歩いている先輩がた。
「がんばれグリズリー」
「クマさんよかったですね」
「いやあああああああああ!っていうか昨日クマひどい目あってたの見たんすけどおおおおおおおおお!」
「ウォッホン、では君たち。これからわしがこの世界の注意事項などを説明するのでよ〜く聞くのじゃ」
「いや、なんで口調変わってるんすか・・・?」
「え?学園長って本来こういうしゃべり方をしなきゃダメなんじゃないの?」
キョトンとした顔でこちらを見返す先ほどの女性。
「んなわけないでしょ・・・」
「なーんだ」
「それよりも・・・・さきに一つ聞きたいことがある」
そういった正の顔は殺気がこもるほどに真剣だった。
「この世界の・・・・平均身長はいくつだ!」
「え、え?えーと・・・確か160ぐらいだったと思うけど。そういえば、そこの子すごくおっきいわねー」
「・・・・」
目の前の女性が梶のことで話をふったにも関わらず正は俯いていた。
「・・・・」
「えっと・・・?ちょっとどうしたの?」
「俺・・・俺・・・・この世界に来てよかったです・・」
泣いていた。
「ありがとうございます・・・えー・・・えー・・」
「あ、ごめんなさいね。自己紹介忘れちゃった」
そういって女性はすっと息を少し吸ってから
「私の名は、ミロ・レ・ミファエル。一応学園長だ。・・・ところで、どうだったかね?さっきまでのキャラ!まさに天然可愛い系学園長の風味を出していなかったかい?いや〜、でも君がいきなり泣き出すせいで少しこっちのキャラが薄くなってしまったね!だが天然可愛い系学園長もなかなかいけてなかったかい?惚れたかい!?しかし残念、私たちは教師と生徒・・・あれ、学園長って教師のうちに入るんだったっけ?アッハッハッハ!」
急に口調を変え、豪快に笑いだす学園長ミファエル。その様子をみて少し予想でもしていたかのように正がため息をついたあと、質問した。
「えーと・・・、失礼ですが俺たちは名前が一つ以上ある人に対してどう呼べばいいのかわかりません・・・どこを呼べば?」
その問いにミファエルはちょっとしまったという顔をしたあと
「そう・・・だったな。うむ、特に親しくない場合は一番上、適度に親しみを込めてだと一番下。真ん中は主にその家系の血筋などを現しているのであまり呼び名で使うことは少ない。ちなみに私の場合はミファエル先生だ」
そういってにかっと屈託のない表情でミファエルは笑った。
「本来なら次は君らの自己紹介なのだが、あとで・・・いいかな?どうも決められた話すことはさっさといってしまわないとかなわない性質なんだ」
その言葉に3人がコクン頷く。
「コホン、では君らにはこれから注意事項をいくつか話す」
「まず一つ目!森には入らないこと!」
ビクンと梶の肩が跳ねた。
「理由は森には君たちが知らない生物が多すぎる。それに君たちはこの世界の者がなぜ魔法なんて物騒なものを習うか知っているかね?それは簡単、君らの世界にある義務教育ほどにこの世界にとって戦うというのはありふれている。だからこそ足し算やら引き算やらを覚えるのと同じように身の守り方、敵の倒し方を知る。つまり自然こそがいつでも最大の敵になるからこそだ」
「次、二つ目!女子生徒と恋仲にならないこと!」
ビクン!
「これは当然。そもそもこれが昔の戦争の理由だ。魔力のあるものと無いものを分けた戦い。もしも女の子一人でも孕ませたら・・・」
「・・・たら?」
黙るミファエルに梶が恐る恐るたずねる。
「馬3頭に玉と玉と竿を結ばせ八つ裂きだ」
「ひぃいいいいいいいいいいい!」
梶は両手で股間を押さえ、身動き一つしなくなってしまった。ミファエルはそれを見て軽く笑ったあと説明を続ける。
「三つ!・・・これはなるべくなんだが。決闘は控えること!えー決闘とは・・・決闘とは・・・えー・・・」
「確か双方の合意のある戦いは殺人の罪にはならないでしたっけ」
ミファエルが言いにくそう迷っていると正が変わりに答えた。
「あ、ああ・・・そうだ」
「で、もう終わりですか?注意事項とやらは」
「ああ、まぁ・・・」
それを聞き、正は梶が持ってきた教材の紐を解き自分の学年のものをカバンに入れはじめた。
「あっ、そういえば先生。俺らまだ留学期間とか聞いてないんすけど」
当然すぎる質問。だが何故か元の世界の誰も言ってくれなかったこと。荷物をカバンに入れていた正も振り向き、梶の質問の答えを待つ。
「こんだけっ!」
そういってミファエルが人差し指を立てた。
「一ヶ月。なかなかに短いなぁ〜」
梶がそういうとミファエルは首を振る。
「えっ!一週間とか!んだよ〜、ただの旅行じゃねぇか!」
またブルブルと首を振る。
「明日帰るんっすか!?」
ブルブル。
「えーと・・・じゃあ、まさかー・・・・一年とか?」
コクン。
「冗談・・・・ですよね?」
ブルブル。
「ちょっと!」
さすがにこれには正も黙ってられない。
「薫先輩はどうなるんですか!」
「えーっと、こっちは昨日に始業式だったから・・・正確には薫ちゃんの卒業までってこと」
「ふぇ?」
いつの間にか異世界で卒業式を挙げる破目になっている薫も驚きを隠せない。
「そんで、おまえたちもこっちの報告しだいで卒業だって〜。」
「はぁっ!?」
そんなの聞いたことがない!あんな特殊な学園で飛び級卒業!?
突然こっちで聞かされた事実に正は眩暈がした。
「俺まだ一年なのにっ!」
梶が一年といっても、すでに結構期間は経っていた。だがこっちの学園は始まったばかりであり、もとの世界と結構ずれがあるようだ。
「それにしても,おまえららのとこの学園長もなかなか勇気あるな〜。危険なこの世界を卒業試験にしちゃうなんて」
そういってほぼ同じポーズでうなだれている梶と正の肩にポンと両手を乗せ
「まぁともかく・・・・一年間よろしく!」
「はぁ・・・」
「はぁ・・・」
「?・・・?」
当人たちを置いてきぼりにしつつ、最悪の一年がはじまりつつあった。
|