章末話『死闘を超える』・「キミの声は」(表紙絵あり)
さっきフライヤが死んだ。
自覚したのはフローの直後。
情報が遮断され、
感覚が緩やかになり、
焦点が死体へ。
顔。
左上半分がない。
開いた青い右目。
涙の跡。
豊かな胸に穴。
銃撃後も声は出なかった。
一ノ瀬の前では声を抑え込んでしまう自分に気づく。
けど会話はもう必要ない。
代わりに息を吸った。
「顔が取り柄なのに酷いな。でも散弾は気に入ってる」
銃と黄と青の薬莢。
「一発ずつだが、排莢と装填の音がいい」
スコンと音がして青い薬莢が飛んだ。
「防音で漏れない。時間はある」
一ノ瀬がコートをめくった。ガンベルトが見える。
ベルトに黄と青の薬莢。木の棒を左右に一本ずつ差してる。俺にもベルトはあるが、
薬莢の色。
識別か。
なにを。
弾の種類。
黄の弾で彼女の顔が吹き飛び、青の弾で胸に大きな穴。
黄が散弾で青が単体の弾か。
シャコンと音がした。
青。
「銃。猛禽の爪と名づけた。名前をつけたら落ちつくんだよ。あの時から」
息を吐きタイミングを読む。
「元々計画はあった。だが部屋の前で段ボールを見つけた。中に銃爪や弾と灰色のコートや紫のネックウォーマー。他にも入ってた。手紙も。紙には『ハイタカに似たキミへ贈り物を』とあった」
師匠が言ってた。
『銃弾を避けたいか』
当人から撃たれたんだ。答えはイエス。
「箱で決まった。格好や名前も。お前が変な格好してたのを思い出してな。試したくなった。どんな気分か」
『初弾なら可能。二発目から被弾率が上がる。動きを合わせられる。ナオヤ君。死にたくないなら相手の呼吸と筋肉と指の動き、銃の向きを読め。初弾のタイミングを』
「例の動画はな、先代マネージャーから見せられた。この女に変な虫がついたかもしれないから気を配れと。笑わせる」
『ナオヤ君フローだ。意識の集中。呼吸と全身をバネにして弾道の外へ』
「あの女。いつもサングラスをかけてた。同年代らしいが一度ヤッてみたかったな。煙みたいに消えて社長に聞いても連絡がとれない」
一ノ瀬が灰のコートで身を包んだ。
ベルトが見えない。
手の銃もない。
どこに。
「オレにしてはオタクじみてるな。けどこのコートは軽い翼みたいに感じる。名前も添えられてた。シュラウド」
俺の知る一ノ瀬と違う。
アイツは。
そうか。
もう一ノ瀬誠じゃない。
ハイタカか。
破壊すべき敵。
ハイタカだ。
甘い匂い。
アイツが香水を。
嫌な記憶も漂ってくる。
『生体停止とシュラウドを確認。双方向性インターフェイス、プロメテウス・システムを起動します♪』
なんだ。
女の子の声?
『マスターへ。心臓修復後の状況を報告します。心筋構築後に余剰のセック細胞は脳へ移動。定着した現在は活動を補助しながらファイアボールとリンク中です』
耳じゃない。頭の中。
ファイアって。
師匠の手か。
『ファイアボールはマスク全域に展開。中枢として交信や分析、呼吸と防御や補助も担います』
なんだ一体、
『サンダーフィンガーはスーツ全身に展開。コマンド待機中』
誰なんだ。
『わたしはシステムナビのプロメテウスです♪』
プロ、
そうか。そうきたか。
師匠を知ってれば納得できる。
これはテレパシーなのか。交信も一瞬。
ならもう気にしない。
フローで心も順応する。
「聞いてるかウェアウルフ。オレが話してやってる。お前はバッグを抱いて話を聞け」
プロメテウス。サンダーフィンガーはどうしたら。
『セック細胞は原始的ながら本体分離時に指令を与えられました。マスターの意思や行動に即時刺激されます。サンダーフィンガーをキネティックさせますか』
動かしてくれ。
「この紫のネックウォーマー。不思議なんだ。着けると息がしやすい。まるで着けてない。いや、ない時より呼吸が軽い。気のせいかと思ったが」
俺も普段より呼吸が深い。マスクの圧迫感もない。被ってないみたいだ。
それより体が。
スーツの表面で五本の指が動き回ってる。
凄い速さ。
まるで虫の、
肌で這ってる。
竜巻の中に、
いる感覚。
フローで遮断。
「空も飛べる気分だ。これはオレの嘴なんじゃないか。おかしいよな。でもお前ならわかるかもしれない、ウェアウルフ」
ハイタカが右手を上げて背中に入れた。
『敵は背中から武器を出すタイプです』
なんてヤツだ、けど掴める、銃を俺へ向ける動きを。
銃の向きが定まる瞬間。
動きが止まる一瞬。
ヤツの呼吸と筋肉と指の動き。
すべて一致するタイミング。
バッグを放り、
弾道の外へ。
単体の弾なら避けられる。
フローで意識が鮮明な分で体が重りみたいだった。
けど音だけが室内に響く。
弾は当たってない。
次は脚をバネにして前へ。
ヤツに接近してやる。
あの目も驚きを隠せてない。
スコン、
シャコン、
早くも銃口を定められる。
距離の問題か。二発目の前に攻撃が必要なのに少し遠い。
間に合わない。
スローな体感だからか撃たれた記憶も瞬時に甦る。
わけもわからず叫んだ。
「防御ッ!」
もう一度、
弾道の外。
バネで、
単体の弾なら避けられたかもしれない。
ヤツが込めたのは黄色。
散弾は点じゃない。
面で範囲が広い。
色が見えてもフローで色も遮断された。散弾ならどうせ当たる。
けど叫んだ意味も理解した。
虫の竜巻が移動してる。
雷みたいな速さで。
ドンッと衝撃。
無数の物体が半身へ直撃した。
打撲に似た激しい痛み。
『五本の指で防御が成功。セック細胞の分裂と最活性により、』
生きてる。経験で致命傷ではないと感じる。
『細胞がナノファイバーや筋肉タンパク質繊維チチンなどに変化。多数の同時変性をスーツ上で確認。ジャミング転移で散弾を受け止めました』
ジャミング転移って。
『お米の袋が硬い仕組みです♪』
いわは自動で防御する防弾チョッキか――
体勢が悪いまま反射的に右手が腰へ動いた。
ベルトから小型の板を引き抜き、
ハイタカの顔へ、
投げる。
紙一重で避けられて壁に刺さった。
相当な動体視力。
けど目はまた驚いてる。
「弾を避けたと思えば当たったのにンな物を投げつけるのかッ」
スコンと音。
「人間が弾を避けるな」
黄色。
間に合わない。
狙うしかない。
板を引き抜き、
当たれよ!
鉄板が左手の甲に刺さり、
薬莢が落ちる、
見る前に駆けた。
腰にある特別な板へ右手を。
分厚い板が手のひらにくっつき、
バチンバチンと音がした。
アタッチメントとして形も変わる、
凹凸が完成。
師匠の説明通り。手に鉄塊があっても拳は握れる。
狼の爪改良型。
呼吸に合わせて振り抜くように、
右手の塊を散弾銃へぶつけた。
直撃で銃が部屋の隅へ転がる。
逆の左手で顔を殴りつけた。
勢いをつけたのに腕でガードされ、
右の拳でも殴る。
左右の連打。
息が切れる。呼吸して身を引く。
ハイタカは両腕をガードの形で掲げてる。
腕にダメージがあってもおかしくない。だが手応えがなかった。ヘラクレスの時に近い。
『シュラウド。ケブラーをベースにアラミド繊維と人工の蜘蛛の糸を織り込んだ対刃・対弾・対衝撃防護服です』
ヤツはその防護服で全身九割を覆ってる。
九割を狙ってもムダか。
顔を狙って蹴る。
ガードされた。
ヤツもわかってるんだ弱点を。
ハイタカがコートを開いた。
まるで翼に見える。
懐へ飛び込め。
狼の爪で胴を裂く。
腰にある二本の木の棒を抜くのが見えた。
狼の爪が両腕の棒で受け止められる。
「オレが買った」
棒の正体トンファーか。
「二つの猛禽の爪」
木製は速い。
左右の棒で突きの形や持ち手を変えて振る形、巧みに何度も殴られる。
くそッ、ガードから抜け出せない。
立場が入れ替わった。
だが打たれてる箇所に痛みはない。衝撃だけ。
腕で動いてる、五本の指の防御――
勝てないのか一ノ瀬誠には。
人のままなら。
では人でなければ。
狼なら、
勝てる。
屈んでから突っ込む。
同時に、
「口、開けッ」
『マスクを変成します』
叫ぶと顎の辺りでガコッと音がした。
マスクの口が開く。
噛みつくッ。
肩へ食らいついた。
柔いのに硬くて噛み切れない。
マスクの開いた口上下がギザギザの牙の形になった。
だから口を離した。
反応して口上下が閉じる。
「テメエッ!」
ヤツが叫んでいた。肩の生地が裂けて血が見える。
生地を吐き出すとマスクが閉じた。
「そのポーズは狼のつもりか」
ヤツの見たまま。
手を床につけた姿勢。
四足だ。
「オレがお前と同じ高さにいる理由。お前に教えてやるためだ。同じ高さでもオレが勝るとな。遊びは終わりだッ」
ハイタカが両手で背中から小さな球を二個取り出してピンを弾いた。
転がしてきたと同時にバッグを素早く拾い反対へ走っていく。
手榴弾ッ!
部屋を駆けても間に合いそうにない。
脱出には。
窓しか。
三階。
時間はない。
四足がフローで爆発するように、
走って窓をぶち破った。
スローで落ちる、コンクリの地面へ。
足や尻から着地して受け身を、
背後で爆発があった。
爆風も感じたが一瞬。
ズンと足の裏に衝撃が伝わり、
骨が折れて倒れるから受け身。
と予測したが違った。
中腰の姿勢。
着地してる。
「これは」
『緊急時につきコマンドなしでファイアボール80%を足部へ移動。落下の衝撃を緩和しました』
凄い、が考える暇はない。
ビルから出てきたハイタカを捉えた。
やはり驚いてたがヤツもすぐ反応して車へ走った。
追うと決めた時、
前方に見える白いバンに、
馬ぐらい大きな黒い物体が激しくぶつかった。
黒い塊は距離をとると、
また車の側面に衝突。
三度目に一番大きな衝撃音が聞こえた。
バンが横転してる。
車の側面に大きな凹み。
黒い塊がこちらへ向いた。
歩いて来る。
四足の巨大な犬にも見える。
違う。
あの獣は、
『トワカのバレットモードです♪』
嬉しそうな声が聞こえた。
そう彼女だ。なんで。
マイティモードみたいな変身で悪の匂いを辿った、
最短で結論づけた。
狼が巨体を揺らして走って来る。
俺はハイタカを見た。さすがに面食らったか。
「トワカちゃん」
狼を呼んだ。
『直也さん、アイツ、ボクが』
「手を出さないでくれ」
腕で制止しながらヤツに向いて歩く。
爆発で警察が来る。
来たら終わる。
決着をつけるには今しかない。
走り出す。
ヤツも把握したらしい。バッグを手離してトンファーを構える姿勢。
「狼ごときが! 灰鷹に勝てるか!」
ヤツは俺が殴ると読んでるな。
違う。
ジャンプ。
胴体をひねる。
左踵を側頭部へ見舞う、
それも防がれると考えて、
蹴りもフェイントで、
さらに回転して出す。
「うおおああッ」
右手!
「ゲインッ!」
振り下ろす。
最大の防御を越え、
後頭部に。
鈍い一撃の感覚。
跳んだ勢いのまま体が地面に落下した。
ジャンプは予想より高く飛べた。着地と同じで補助があったのか。
気絶してる一ノ瀬誠を見下ろす。
『直也さん』
そばに兎羽歌ちゃんが来たから願いでた。
「手伝ってほしい」
『うん』
「コイツを。高く吊るす」
その前に。
確かめたい。
右手を耳に当て、頭の中だけで喋りかけた。
プロメテウス。
キミの声は、
フライヤじゃないか。
兎羽歌が好き、直也が好き、二人の今後が気になる、セックが好き、戦闘がよかった、一ノ瀬がよかった、フライヤが気になる、真相が知りたい、キャラがかっこよかった、などありましたら
ページ上部や下部から『ブックマークに追加』をぜひよろしくお願いいたします。
作者への応援や執筆の励みになります。
イチオシレビューの投稿はどなた様からでも受け付けております。
ご一考をよろしくお願いいたします!