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MISTLETOE
作:pp


「ねえ、ヤドリギって知ってる?」
「何?それ」
 美咲が突然持ち出してきた話題に、私はぽかんとしていた。
ヤドリギなんて知らない。強いて言えば、どこかで名前だけ聞いたことがあるくらいだ。
「植物の一種なんだよ」
そう言って美咲は楽しそうに語りだした。
「西洋ではね、クリスマスにヤドリギの下で男女が出会うと、キスをする習慣があるんだって」
美咲だって中学生。思春期だからこんな話に興味があるのは当たり前だ。
なのに、私はどうしても乗り気にはなれなかった。
 好きな人なんて…いない。
美咲には数年前から思っている人がいる。
周りの人は皆恋をしているのに、私だけ恋に興味さえもなかった。
 恋愛をしたって何も変わらない。
今すぐ結婚できるわけでもないし、独立できるわけでもない。
得なことなんて何もないじゃないか。
「ごめん、ちょっと興味ないや」
 私は廊下に出ると、窓越しに外を見つめた。
季節は冬。もうすぐクリスマスだ。
東京では珍しいことに、雪が降っている。
「川本!」
 名前を呼ばれて振り返ると、隣のクラスの(みつる)がいた。
光は中学校入学して初めてできた男友達で、そこそこ仲がいい。
私からすればいい友達だが、美咲にとっては…。
「放課後、空いてる?」
 雪以上に珍しい。光は普段、付き合いが悪いのだ。
「…別に。空いてるよ」
だるかったのとさっきの嫌な話題とで機嫌が悪く、そっけない返事を返す。
「じゃあさ、ちょっと駅前の店、回らない?」
「どうして?」
「いやあ、クリスマス前じゃん。何か買おうよ」
「一人で行けばいいじゃん」
「…俺、センス最悪だからさ…。ちょっと買い物手伝ってよ?」
そんな感じに話が進み、放課後に買い物に付き合わされることになった。
普通なら男女の言動が逆であるべきだったが、そんなのどうでもよかった。

 駅前で光を待っていると、クリスマスの飾りつけが目に入った。
目の前でイチャついているカップルを見ていて、美咲への罪悪感が沸いてくる。
(美咲も誘うべきだったかな?)
「お待たせ!」
 光が予定時刻よりも15分ほど遅れて到着した。
「…遅い!」
 なるべくアベックだと思われないように、距離をとった。
本来、ここにいるべきなのは自分ではなくて美咲なのだ。
「これ、めっちゃ綺麗じゃね?」
 光は手にモールを持って来た。それを目の前で広げてみせる。
私は何か見つけては持ってくる光が、だんだんうっとうしく感じてきた。
でも、それと同時に、まるで光が飼い主に甘える犬のようにも見えてきた。
「それ、欲しいの?」
「うん!」

 買い物が進むにつれて、いつもと違った光が見えてきた。
自分よりも身長が高くて、スポーツが得意で、頭もいい。
何だかお兄ちゃんのような存在だったけれど、以外とかわいいものが好きなようだ。
「川本、ありがとな」
「いいえ、どういたしまして」
 家に帰る頃にはさっきまでの不機嫌はどこへやら、いつの間にか笑顔になっていた。
「そうそう、明日、俺ん家でクリスマスパーティやるから、お前も来いよ!」
「うん。…美咲も誘っていい?」
今度は忘れまいと、しっかり美咲の名前を出した。
「ああ、いいぜ!んじゃあ、午前10時からだからな!俺ん家に直接集合!」

 家に帰って、美咲にメールした。
しかし、明日は空いていないと返事が来た。
(残念…せっかく光と仲良くできるチャンスだったのに)
 とりあえず光に、美咲が行けないことを連絡をした。
返事はすぐに返ってきた。
『残念だな…。俺のダチも明日は空いてないってさ。メンドイから、明日迎えに行くよ』
二人だけのクリスマスパーティ。もはやパーティではなくなっているような気がする。
そんなことを考えつつも、明日が楽しみで寝付けなかった。

「おーい!川本!」
 チャイムの音と、聞きなれた声で目が覚めた。
何か忘れているような気がする。
(しまった!クリスマスパーティ!)
 慌てて身支度を済ませると、玄関から勢い良く飛び出した。
「おっせえよ!」
「うるさいなぁ!今起きたの!」
 光の家に行くには、駅前を通る。
クリスマスの飾りに再び目が行くが、私はパーティのことで頭の中が精一杯だった。
「そうだ、ちょっと昼メシに何か買ってくから、ここ寄らせて」
 どうやら昨日買いそびれたらしい。
光は食品売り場で、ケーキやら何やらを買っていた。
私は暇を持て余して、一人で周りの店を見ていた。
 しばらく経って、私は光を急かそうと振り向いた。
しかし、誰もいない。
(あれ?光?)
どこに行ったのかわからない。
私は焦って、あちこち走り回った。
「光?光?どこ?」
 置いて行かれてしまったのかと思ったそのとき、駅の反対側に光を見つけた。
「光!」
走っていくと、光もそれに気が付いて手を振った。
「まったく!探したんだよ!光!」
「ワリィワリィ。ちょっとここの飾りに見とれててさ」
そう言って、光は私の頭を撫でた。
 上を見上げると、昨日光が買ったのと同じモールが綺麗に飾り付けられていた。
光の部屋も、今はこんなかんじになっているのだろうか?
「そうそう、買い物終わったぜ!」
 先に行こうとする光を私は引き止めた。
見つけた。飾りの中に。昨日、美咲が話していた「ヤドリギ」を。
「「小さな白い花で、クリスマスの装飾に使われるんだよ」」
私は西洋の人ではないけれど、これはきっと、愛情表現の一つだよね?
そう思って光の頬に、小さなキスをする。
「…どうしたんだよ急に?」
光が照れながら笑い出す。
「西洋では、クリスマスに男女がヤドリギの下で出会うと、キスをしたんだって」
 そう言って私は先に歩き出した。
「待てよ。キスって言ったら…」
唇にやわらかい感触。
「普通、こうだろ?」
 びっくりしてぼうっとしている私の手を引っ張って、光がにっこり笑った。
「さぁ、これからお楽しみのクリスマスパーティだぜ!」














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