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とんでもスキルで異世界放浪メシ 作者:江口 連(旧 妖精壱号)
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第三百三十三話 フェルさんのブートキャンプ 特別編~食い物の恨みは海より深い~

「スイ、ここからは2人を乗せていってもらえるか?」
『はーい』
 スイが双子を乗せられるくらいに大きくなる。
 双子は「うおっ」「デカくなった」と騒がしい。
「ささ、乗って」
「「こ、これにか?」」
 スライムに乗れと言われて、さすがに2人も及び腰だ。
「大丈夫だから。スイの乗り心地は評判いいんだぞ」
 俺がそう言うと、恐る恐る2人がスイの上へ乗る。
「おおっ、柔らけぇ」
「プヨプヨだ」
「よし、2人とも乗ったな。じゃ、行こう」
 もちろん俺はフェルの背へと乗り込んだ。
 フェルとスイが並走して進む
「うおおっ、早い!」
「ヤッホーッ、行けースライム号!」
 出発してたと思ったら、アホの双子がやらかした。
 スイに乗ったアホ2人が身を乗り出しての大はしゃぎ。
 こっちは落ちるんじゃないかってハラハラしたよ。
 フェルはフェルで『落ちたら落ちたでその辺にでも捨て置けばよいだろ』とか言い出すし。
 それでも何とかギルドマスターに聞いた東の森のオークの集落の付近まで、1時間足らずで到着した。
「ここからは歩きだな」
『うむ。気取られないように気をつけろ。お前たちもだぞ』
 フェルがアホの双子を睨みながらそう言うと……。
「いやだな、分かってますって」
「そうそう、俺らだって元は冒険者なんだから」
 元はCランク冒険者だからその辺は分かっているようだ。
 俺たちは、オークの集落目指して森の中を進んでいった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あそこだな……」
 森の中にぽっかりと空いた空間にオークの集落はあった。
 もしかしたら、集落を形成するためにオークが切り開いたのかもしれない。
 粗末だが小屋のようなものもいくつか建っている。
 俺たちは木々の陰に隠れて、そのオークの集落を窺っていた。
『うむ。数は150程度か。気配からオークキングはおらんな』
 フェルが言うにはオークキングはいないようだ。
 それでも150もいるのか。
『オークは数だけは多いなぁ』
 ドラちゃんがオークの集落を見ながら念話でそうつぶやいた。
『いっぱいるね~。ビュッビュッってやってやっつけちゃっていいの~?』
 オークの集落を見たスイはヤル気満々。
『まぁ待て、スイ。今回は我等が行くのではない』
『エ~?』
『我等は今回は見物だ。我等は狩りで相応しい魔物を狩るとしよう』
『オークなんて雑魚は相手にしたくないからいいけどさ、そんじゃあの集落は誰が潰すんだ?』
『フハハハハハ、それはな……』
 フェルがアホの双子を見た。
 それに釣られて、ドラちゃんとスイもアホの双子を見る。
「ん? 何ですか?」
「何か従魔さんたちが俺らのこと見てんだけど」
『オークの集落はお前たちで始末してこい』
 そう言われて双子は最初ポカーンとしていた。
 そして、たっぷりと間をあけたあとに……。
「「はぁ?」」
「いやいやいや、お前たちでって、俺たち2人だけでなんて無理ですよ」
「そうですよ、あのオークの数見てくださいよ。まったく悪い冗談はやめてくださいよね~」
 いや、多分それ冗談じゃないと思うぞ。
 フェルの企みはこういうことか。
 でも、何でこの2人なんだろ?
『冗談などではない。行け』
「いやいやいや、だから無理ですって。俺たちに死ねっていうんすか?」
「そうっすよ。2人だけで突っ込めなんて死ねって言ってるもんでしょ」
 フェルの言葉にさすがにアホの双子もムッとしたようだ。
 しかし……。
『心配するな。特別に我の魔法をかけてやった。死ぬことはない。それでも行かぬと言うなら……』
 フェルが歯をむき出しにして今にも双子を噛みつかんばかりに大口を開けた。
『我に噛み殺されたいか? ん? 我に噛み殺されるかオークの集落を始末しにいくか、2つに1つだ』
 フェルが双子に選択を迫る。
 いつもとは違うフェルの迫力にアホの双子もビビっているようだ。
『お前たちは、どちらにするんだ?』
「……わ、分かりました! 行きますよ!」
「い、行きゃあいいんでしょ!」
 アホの双子が自前の剣を構える。
 そして、一呼吸置いたあとに腰をかがめながら静かにオークの集落に近付いていった。
 十分近付いたところで……。
「クソッ、やったらぁ!」
「おりゃあ!」
 2人が飛び出してオークの集落に突っ込んでいった。
「「「「「ブッヒィィィィッ!」」」」」
 雄叫びを上げたオークが2人に集まる。
「セイッ!」
「オラッ!」
 集まってきたオークを2人がバッタバッタと斬り伏せていく。
 しかし、数が多すぎるためか次第にオークの振り上げた拳や棍棒が2人に当たり始めた。
「チッ、数が、多過ぎんだよっ、オラァッ! オラァッ!」
 ルークがオークからの棍棒の攻撃をかすめながらも、次々とオークを斬り捨てる。
「クソッ、クソッ、死ねッ!」
 アーヴィンもオークの拳を受けながらも必死そうに剣を振るってオークを斬り捨てていた。
「「「「「ブギィィィィッ!」」」」」
 必死に戦うルークとアーヴィンの下にオークの第二波が……。
「お、おい、あの2人大丈夫なのか?」
 2人の戦いを窺っているが、どう見ても劣勢にしか見えない。
『死なない程度に結界を張ってやっているから大丈夫だろう』
 お前、死なない程度ってね……。
「ああっ!」
 ルークがオークの拳をまともに食らった。
 それを見てアーヴィンが「この野郎ッ!」とルークに拳を当てたオークに斬りかかった。
 その隙に……。
「危ないッ」
 アーヴィンの背中を別のオークの棍棒が襲った。
 フェルの言うように、結界のおかげなのか即死亡とか昏倒するようなことはないが、衝撃はあるらしくルークとアーヴィンの顔が痛みで歪んでいる。
「ヤ、ヤバイって! 助けないとっ!」
『大丈夫だと言っておろう。これは彼奴らへの罰だ。これで彼奴らも思い知るだろう』
「は? 思い知るって何を?」
『我の食い物を奪うとこうなるとな』
「…………ハァァァァ?!」
『彼奴らは我のステーキ丼を奪ったからな』
 お、お前なぁ…………。
 確かにそういうこともあった気がするけど、それ執念深すぎやしないか?
「いやいやいやいや、いつのこと言ってんだよ。何日も前のことじゃんか。しつこ過ぎるぞ、お前」
『フンッ。我の食い物を奪うなど、本当なら万死にあたる行為だ。それをこれくらいで済ましてやっているのだぞ。感謝してもらいたいくらいだ』
 感謝してって、そんなんできるかいな。
 まったく、食い物の恨みは海より深いってのを地で行ってるな。
 ってか、ああ~双子がボロボロじゃないか。
「もう、何でもいいから、あいつ等助けてやってくれよ」
『む、死にはしないから大丈夫だ。それに、そんなに心配ならお主が行けばよい。うむ、それがいいな。お主の訓練にもなるだろうし』
「は?! な、何で俺がっ」
『お主の訓練のためだ。それに、お主には神から頂いた絶対防御というスキルがあるだろう。何の問題もなかろう』
「いやいやいや、問題なくないからね」
 問題大アリだよ。
 あそこに突っ込まされる俺の身にもなってくれよ。
 絶対防御で体は守られるだろうが、精神的にくるだろぉー。
『いいから行け』
 ドンッ―――。
「ちょっ!」
 フェルの野郎、前足で俺のこと突き飛ばしやがった。
「ブヒッ」
 ゲッ、気付かれた。
 俺に気付いた1匹のオークが猛然とこちらに向かっていた。
 そのオークに数匹が続く。
「クソッ! フェルッ、覚えてろよー!」
 俺はアイテムボックスからミスリルの槍を取り出した。
 チクショーッ、何で俺がこんな目にーっ。
 フー、フー、フー、落ちつけ、俺。
 オークはダンジョンで何度か相手にしたことがある。
 大丈夫、大丈夫、フゥ~。
 よし。
「「「「「ブヒィィィィッ!」」」」」
「セイッ」
 真正面から突っ込んできたオークの心臓を一突き。
 ドンッ―――。
 右側の別のオークに殴られた。
 絶対防御で守られているため痛くはないが……。
「殴られれば頭にくんだよ! ヤァッ!」
 俺を殴ったオークの心臓も一突きした。
 その後もちまちまとオークの心臓を突いて屠っていった。
「フゥ……」
 一息入れるが、休む間もなく次のオークの集団がやって来る。
「「「「「プギィィィィッ!」」」」」
「チッ、こいつ等数だけは多いんだよなっ。っと、ストーンバレット、ストーンバレット、ストーンバレット!」
 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッと小石が散弾のように飛んでいく。
「「「ブッヒィッ?!」」」
 レベルが上がったことで、魔法自体の威力も高くなったのか、小石は銃弾のようにオークを貫通していった。
 そして、1匹を残して地にふせた。
 取りこぼしたその1匹も……。
「トリャアッ!」
 槍で胸を一突きだ。
「フゥ……、こんなとこで足踏みしてる場合じゃない。双子を助けにいかないと!」
 俺はオークに囲まれた双子の下へと急いだ。
「おいっ、2人とも踏ん張れ! 大分数は減った! もう少しだ!」
 2人の奮闘もあり、最初に見たときよりもオークの数は半分くらいに減っていた。
「「ムコーダさんっ!」」
「もうひと頑張りだ!」
「「応っ」」
 俺を見て少し元気になった双子が力を振り絞ってオークどもを切り捨てる。
「クソッ、死んでたまるか!」
「おうよッ、生きて帰っるぞ!」
 2人とも傷だらけだ。
 フェルは死なない程度に結界を張ったと言っていたけど、結局のところ致命傷を負わないだけのようだ。
 それでも2人は必死になって剣を振るっていった。
 それに俺も加勢してオークの数を減らしていった。
 ………………
 …………
 ……
「セイッ! セイッ! セイッ!」
「ブッ、ブヒィ……」
「お、終わった…………」
 しぶとく最後まで残っていたオークジェネラルをやっと倒した。
 どれくらい戦い続けていたのか見当もつかない。
 2人は既にぶっ倒れている。
 致命傷はないが、満身創痍で息も絶え絶えだ。
 俺ももう動く気力もない。
『ようやく終わったか』
 フェルとドラちゃんとスイが俺たちの下にやってきた。
「ようやく終わったかじゃないよ。少しくらい手伝ってくれたって良かったのに」
『あんまりにも時間がかかってるから俺とスイは途中で手伝おうとしたんだぜ。なぁ、スイ』
『うん。でもね、フェルおじちゃんがダメだって言うんだもん』
『フンッ、当然だ。我らが手を出しては罰にならんからな』
 ぐぬぬ、フェルめ~。
 ドラちゃんとスイが手伝ってくれれば、もっと早くに終わっていたものを。
 しかし、今さら言ってもしょうがない。
「はい、これ。もう疲れて動く気力もないから、オークの回収よろしく」
 オークの回収だけでも手伝わせようと、マジックバッグをフェルに渡した。
『仕方ないな。ドラとスイも手伝え』
『しょうがねぇなぁ』
『この豚さん集めればいいんだねー』
 フェルたちが息絶えたオークどもを回収していった。
「おい、2人とも大丈夫か?」
「な、何とか、生きてるぜ……」
「お、俺もだ……」
「これを飲め」 
 俺はアイテムボックスから取り出したスイ特製上級ポーションを2人に渡した。
「ポーションか……、助かる……」
「ムコーダさん、ありがと……」
 2人がポーションをゆっくりと飲み干した。
 少ししてケガの治った2人が起き上がる。
「ふぅ~、何とかなったな」
「ああ。何とか生き延びた」
「助っ人に来てくれたムコーダさんのおかげだな」
「そうだな。あそこでムコーダさんが来てくれなきゃ危なかった」
「「ムコーダさん、ありがとう」」
 珍しくアホの双子がしおらしい。
 まぁ、あの危機的な状況のことを考えたらそういう態度にもなるか。
「そう言ってくれると、助けに入った甲斐があるよ」
「それにしても、フェル様はひどいぜ」
「ああ。俺たち2人だけで行けだなんてよ」
「あぁ~、それなぁ。フェルによると罰ということらしいぞ」
「「罰?」」
 罰と聞いて不思議がる双子に、何日か前にフェルのステーキ丼に手を出しただろと話した。
「え? でも、そんとき俺ら謝ったよな」
「ああ。それに、すぐにムコーダさんが別なの作って渡してたよな」
「そうなんだけどなぁ。フェルにとっちゃ自分の食い物を奪うってのがどうしても許せなかったみたいだぞ。フェル曰く『我の食い物を奪うなど、万死にあたる行為』なんだとさ」
 それを聞いた双子は茫然自失。
「お、俺たちは、食い物のためにあんな目にあったのか……」
「食い物のせいで……」
「気持ちは分かるけどさ、食い物の恨みは恐ろしいって言うからな。もう二度とフェルの食い物を奪うようなことはしないようにしろよ」
 俺がそう言うと、2人は何度も頷いていた。
 フェルの言う思い知るじゃないけど、いくらアホの双子でも、これからはフェルのものに手を出すなんてことはないだろう。
 それにしても、疲れた。
 思うんだけど、今回、俺って完全にとばっちりだよなぁ。
 チクショウ。


〈 教訓 〉
   フェルの食い物を奪う者は万死に値する。
   よってフェルの食い物には手を出すべからず。




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