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とんでもスキルで異世界放浪メシ 作者:江口 連(旧 妖精壱号)
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閑話 謹慎中の神様ズ(後編)

謹慎中の神様ズの話の後編です。
 水の女神ルサールカの宮―――。
 ここだけはいつもと変わらず平常運転だった。
「……アイス食べよう」
 ルサールカは、神仕様の時間停止のアイテムボックスからお気に入りのバニラ味のカップアイスを取り出した。
 ここ最近の夕飯後のお楽しみである。
「フフ……」
 雪のように白いアイスクリームをスプーンですくって口の中へ。
 冷たいアイスクリームが口の中でスッと溶けていった。
 濃厚でコクのある乳の味わい。
 クドくない絶妙な甘さで、バニラの香りがフワッと鼻を抜けていく。
「やっぱりこれは美味しい」
 ルサールカはバニラのアイスクリームをゆっくりと味わった。
「美味しかった」
 空になったバニラアイスのカップをテーブルの上に置いた。
「む、もう少し食べたい……」
 そうつぶやいたルサールカはアイテムボックスから個包装されたバームクーヘンを取り出した。
 ピリっと封を破いて、バームクーヘンをモグモグと食べだすルサールカ。
「これも美味しい」
 ルサールカは、しっとり甘いバームクーヘンを存分に堪能した。
「美味しかった。明日もお菓子食べる」
 そう言って、アイテムボックスにある菓子の数々を思い出して笑みを浮かべた。
 1か月の謹慎もどこ吹く風である。
「全部食べずに残しておいた私、えらい」
 ルサールカ、自画自賛。
 ルサールカはムコーダから献上された大量の菓子をニンリルのように食べ尽くすのではなく、アイテムボックスに保存して少しずつ楽しんでいた。
 そのおかげで、少しづつ楽しめばかろうじて1か月分くらいの菓子がまだ残っていたのだ。
「みんなには内緒。特にニンリルには絶対絶対知られちゃダメ」
 ルサールカがそう思うのも当然だ。
 ニンリルに異世界の甘味があると知られれば、突撃して来かねない。
 いや、絶対にしてくるだろう。
 そんなことになれば、かろうじて1か月分残っている菓子も、ニンリルによってすぐに食べ尽くされてしまう。
「ニンリルにはあげない。私がもらったんだから、私が楽しむの」
 ルサールカはそう言って、明日は何を食べようかと残りの菓子を思い浮かべながら楽しそうに考えていた。



「同じ菓子好きでも、ニンリルとは大違いだのう。ルサールカは若いが1番しっかりしておるわ。罰が罰になっておらんのがアレじゃが……」
 どうしたもんかと考えるデミウルゴス。
「以前にもらったもんはルサールカ自身のものじゃからのう、そこは仕方ないじゃろう」
 意外と要領のいいルサールカだった。
「次は、ヘファイストスじゃな」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 鍛冶神ヘファイストスの宮―――。
 いつもならヘファイストスの大きな声が響き渡っている宮が、シーンと静まり返っていた。
 カンッ。
 空になった木製のコップがテーブルの上に置かれた。
「ゲプッ……、はぁ~」
 ヘファイストスはぬるいエールを飲み干したあと、深いため息を吐いた。
「ウイスキーを味わった今じゃ、エールなんて薄い酒じゃ満足できんわい」
 無類の酒好きのヘファイストス。
 1か月の謹慎でウイスキーは飲めないものの、だからといって酒を絶つことも考えられなかった。
 ウイスキーの代わりにとこの世界の酒を飲むものの、この上もなく美味い異世界の酒ウイスキーを味わったあとでは満足できるはずもなかった。
「1か月の謹慎か…………。そんなにあの異世界人に無茶を言ったつもりはないんだがのう」
 ヘファイストスはそう独り言ちるが、そんなことはない。
 酒のことになると暴走気味になるのを自覚してほしいものである。
 何より酒好きコンビはウイスキー選びに余念がないので、ムコーダにとっては1番手間のかかる相手なのだ。
「しばらくはウイスキーを味わうことはできんということか。辛いのう……」
 すっかりウイスキーに魅せられているヘファイストス。
 ウイスキーは強い酒精もさることながら、1つ1つが個性のある香りと味わいなのも大きな魅力だった。
「ちったぁ残しておけば良かったんじゃろうが、儂たちには無理な話だしのう」
 ここ最近のヘファイストスの1番の楽しみは、同じく無類の酒好きの戦神のヴァハグンと飲み明かすことだった。
 ムコーダから献上されたウイスキーの数々を飲みながら、このウイスキーはどうだとかこっちのウイスキーはどうだとか話し合うのだ。
 ヘファイストスもヴァハグンも無類の酒好きで、しかも異世界の酒の中ではウイスキーが1番のお気に入りという気の合いよう。
 美味い酒を飲みながらの話は尽きることがなかった。
「ウイスキーを飲みながらの酒談義は楽しかったのう…………。そう言えば、創造神様に没収された世界一のウイスキーの12年もの、あれはどんな味がしたんじゃろうな?」
 ヘファイストスもヴァハグンも気に入って何度も飲んだ世界一のウイスキーの味を思い出した。
 その12年ものはいつも飲んでいたものよりも値段が高かった。
 それだけの価値があるということは、いつも飲んでいたものよりもさらに美味いということなのだろう。
 ゴクリ―――。
 その味を想像して、ヘファイストスは思わず唾を飲み込んだ。
「ハァ~、ウイスキーが飲みたいぞい」
 そう思うものの、ウイスキーが残っているはずもなかった。
「エールも飽きたし、しょうがないハチミツ酒(ミード)でも飲むか……」
 ハチミツ酒(ミード)をグラスに注いでゴクリと飲んだ。
「……甘ったるい」
 エールもハチミツ酒(ミード)もウイスキーを知る前には普通に飲んでいた酒だ。
 だが、ウイスキーという素晴らしい酒の味を知った今は、ヘファイストスにとってエールは薄い酒、ハチミツ酒(ミード)は甘ったるい酒にしか思えなかった。
「早くまたウイスキーを飲みたいものだのう……」



「ヘファイストスよ、同じく酒好きのヴァハグンとともに酒には並々ならぬ熱意を注いでいるのは知っておる。そのお主たちが、異世界の酒を知って大人しくしているとは考えられんのじゃがなぁ」
 異世界の酒は美味い。
 酒好きであるならば、その気持ちもわからなくはない。
 しかし……。
「異世界の酒に夢中になって、あれやこれやと人一倍ムコーダに時間を取らせているのが目に浮かぶわい。その辺も反省してくれるといいんじゃけどのう。最後は酒好きコンビの片割れのヴァハグンじゃな」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 戦神ヴァハグンの宮―――。
 静かだったヴァハグンの宮に不機嫌そうな声が響き渡った。
「クッソ甘い酒だなっ!」
 ハチミツ酒(ミード)の入ったグラスを(あお)ったあと、不機嫌そうに眉を寄せながらヴァハグン
 しこたま飲んだエールに飽きてきて、ハチミツ酒(ミード)に切り替えたところだった。
「やっぱウイスキーだよな……。あの酒に勝る酒なんてねぇんだよ」
 ヴァハグンもヘファイストスと同様に、異世界の酒ウイスキーを味わった今ではエールやハチミツ酒(ミード)では満足できるはずもなかった。
「1か月か……。創造神様に楯突くわけじゃないが、1か月の謹慎は長すぎだと思うんだがなぁ」
 1か月の謹慎処分には、ちょっと不満のあるヴァハグンだった。
「だってそんな無茶なことしてたわけじゃないんだぜ。加護だって授けたんだしよ。それに、けっこうレアなスキルだって付けてやったしよ」
 確かにそれは事実であるが、ムコーダが望んでそうなったかどうかは別だ。
「まぁ、創造神様がそう言うなら覆しようもないし、1か月は我慢するしかないんだけどよ。1か月か…………」
 その間はウイスキーはまったく飲めないということだ。
「ウイスキー、飲みてぇな……」
 今までに飲んだことがないくらい強い酒精に、それぞれに個性のある味と香り。
 産地や作り手によってガラッと変わるそれぞれの個性に夢中になった。
 ウイスキーは酒好きのヴァハグンに新たな世界を見せてくれた。
「また鍛冶神のと一緒に飲み明かしたいもんだ。あれは楽しかった……」
 ヘファイストスと飲み明かした日々を思い出す。
 ウイスキー談義に花を咲かせ、今度はあれを頼もうとかいやあっちをなんてことを言い合うのだ。
 それがことのほか楽しいものだった。
「あーっ、チクショウ。あんときだって世界一のウイスキーの12年ものを飲みながら酒談義するはずだったのによー。あれは絶対に美味い酒なんだよ。何せ、いつも俺たちが飲んでるのよりいいヤツだったんだからな」
 創造神様に没収された世界一のウイスキーの12年もののウイスキーを思い出す。
「いったいどんな味だったんだろうな?」
 飲めないと分かっていても想像は尽きない。
「あぁぁぁっ、ウイスキー飲みてぇーーー!」
 ヴァハグンの心の底からの叫びであった。



「ヴァハグンよ、お主はヘファイストスと一緒になってムコーダに時間を取らせていたんじゃろうなぁ」
 異世界の酒ウイスキーに相当夢中になっているのが感じ取れた。
「ヴァハグンといい、ヘファイストスといい、酒好きの執念を感じるのう。この1か月の間に反省して落ち着いてくれるといいんじゃが」
 デミウルゴスは手元の日本酒をグビッと飲んで、ホッと一息ついた。
「皆1か月の謹慎はある程度堪えているようじゃな。異世界の品を諦めるという選択肢はなさそうじゃが。まぁ、その辺はムコーダと要相談じゃな。彼奴も気のいい奴のようじゃし、神々との交流を一切断ち切るというようなことはしないだろうし、そのつもりもなさそうじゃからのう。今までのように週一とはいかんじゃろうがな。とにかくその辺は、此奴らの謹慎が明けるころにムコーダと話してみてじゃな」




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