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第三百一話 ドラちゃーーーんっ

 明日にはドランを旅立つ予定だから、今日は1日旅の準備に費やした。

 旅の間の飯の作り置きだ。

 から揚げにとんかつ、メンチカツ、ハンバーグ、味噌漬けやらいつもの定番メニューにアレンジの利く肉そぼろに豚汁やら魚介のスープ、朝も早い時間からいろいろ作っていた。

「ふぅ、こんなもんかな。何だかんだでいろいろ作ってしまった」

 職業に料理人が入ってから、作業もスムーズに出来るもんだからちょっと作りすぎる傾向に……。

 まぁ、多くてもどうせ食っちゃうんだから問題ないか。

 うちは大食らいがそろってるんだし。

「だけど、まだこれが残ってるんだよなぁ……」

 手元のボウルの中にあるのは、オークの肉とダンジョンのドロップ品のミノタウロスの肉の合いびき肉だ。

「いい気になってちょっと作りすぎた」

 だってスイ特製のミスリルのミンサーだと力を入れなくてもどんどんひき肉になっていくから、ついね……。

「うーん、このまま残しておくのもあれだし、ひき肉で何か一品追加で作るかな。ひき肉か、何がいいだろ?」

 ひき肉ね~、ひき肉…………、そうだあれにしよう。

 俺がひき肉で作ることを思いついたのは、ズバリ、ミートパイだ。

 前に安売りしていたひき肉を買い過ぎたときに作ったことがあってさ。

 ネットでレシピの検索をしたら、案外簡単に作れるみたいで作ってみたらめちゃめちゃ美味かったんだよね。

「よし、追加でミートパイを作るぞ!」

 そうとなれば、ネットスーパーで足りない材料の調達だ。

 味付けに使う調味料とパイ生地表面の艶出しに使う卵はあるから、ひき肉に入れるタマネギとニンジン、それから市販の冷凍パイシートを購入。

 タマネギとニンジンをみじん切りにしたら、熱したフライパンに油をひいてしんなりするまで炒めていく。

 タマネギとニンジンがしんなりしたところでひき肉を加えて炒め合わせたら、ケチャップ、ソース、顆粒タイプのコンソメ、塩胡椒、ナツメグ(これはお好みで)で味を調える。

 最後に小麦粉を振り入れて全体に混ぜ合わせたら、火からおろして粗熱を取っておく。

 その間に、解凍しておいた冷凍パイシートを4等分に切り、上にかぶせるパイシート2枚には周り1センチくらいを残して何本か切り込みを入れる。

 切り込みを入れていない下になるパイシートの上に炒めたひき肉を載せたら、そのパイシートの周りに卵黄と水を溶いて作った卵液を塗っておく。

 その上に切り込みを入れたパイシートをかぶせて、周りをフォークで押さえてしっかりと閉じれば長方形のパイが出来上がる。

 あとはパイにツヤを出すために卵液を塗って、オーブンでこんがりと焼けば完成だ。

 今回は前に作ったレシピどおりにタマネギとニンジンを使ったけど、面倒なときは冷凍のミックスベジタブルを使うのもありだな。

 カレー粉を使って、カレー風味のミートパイってのも美味そう。

 形だってケーキみたいな大きな円型もありだし、三角もあり、今回俺が作った長方形の一回り小さい小ぶりなパイも食べやすいかもしれない。

 味と形は好みによっていろいろ変えられそうだから、あとでまた作ってみようかな。

 そうこうしているうちに、ミートパイが焼きあがった。

「おー、こんがりきつね色に焼けて美味そうだ。これは味見するしかないな」

 香ばしい匂いに負けてパクリと一口。

 サクッ。

「うまぁ……」

 パイの香ばしいサックサクの食感がたまらん。

 それに中のしっかりとした味付けのひき肉がよく合う。

 ひき肉がぎっしり入ってるからボリューム満天なのもいいな。

『おい、美味そうなのを食っているな。我にもよこせ』

『俺にもだぞ』

『スイにもちょーだーい』

 …………焼きあがったのちょっと味見してただけなのにな。

 匂いに釣られてフェルたちがスタンバってましたよ。

 しょうがないから、おやつに皿いっぱいのミートパイをみんなにあげたよ。

「そうだ、ウゴールさんの奥さんのティルザさんからいただいたドライフルーツでパウンドケーキ作るか」

 夕方、エルランドさんとウゴールさんに、明日ドランを発つことを報告しに行くつもりだし、せっかくだから差し入れにいただいたドライフルーツを使ったパウンドケーキを持っていこう。

 そう思い立って、急いでドライフルーツ入りのパウンドケーキを作る。

 作り方は簡単だから、それ程時間はかからなかった。

 基本のパウンドケーキにドライフルーツを入れて焼くだけだ。

 差し入れは、焼きあがったドライフルーツ入りのパウンドケーキとミートパイ。

 それを携え冒険者ギルドへと向かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 冒険者ギルドに着くと、職員にすぐに2階に案内された。

 部屋に入ると、エルランドさんもウゴールさんも書類の山に埋もれていた。

「あ、ムコーダさんっ。ウゴール君、ムコーダさんが来たよ! 休憩っ、休憩しよう!」

 エルランドさん、必死だね。

「ムコーダさん、ちょっとだけお待ちを。馬鹿マスターは仕事を続けてください。ムコーダさんのお相手は私がいたしますから」

「そんなぁ~」

 エルランドさん涙目。

 元はといえば、エルランドさんが遊び呆けていたせいでもあるからね。

 身から出た錆だよ。

 ご愁傷様。

「ムコーダさん、お待たせいたしました。今日はどういったご用件で?」

 ウゴールさん、エルランドさんの言い分は完全無視なんだね。

「ちょっとした報告なんですが……。あ、この間はけっこうなものいただいてありがとうございました」

「いえいえ。ムコーダさんからは美味しいものをたくさんいただき家族も喜んでいましたので、そのちょっとしたお礼です」

「差し入れがてら、そのお礼のまたお返しってなっちゃいますけど、これどうぞ」

 そう言って、ウゴールさんにバスケットを渡した。

 中に入っているのは、ドライフルーツ入りのパウンドケーキとミートパイだ。

「ウゴール君だけズルい!」

「エルランドさんにもありますから大丈夫ですって」

 俺は苦笑いしながらエルランドさんの分のバスケットを渡した。

「信じてましたよ、ムコーダさん。ありがとうございます!」

 エルランドさんはバスケットの中身を見てホクホク顔だ。

 そんなエルランドさんを見て、ウゴールさんは深いため息を吐いている。

「今日来たのはですね、明日ドランを発ちますのでその報告です」

「おお、そうですか」

 ガタンッ―――。

「エエーーーッ! ム、ムコーダさんっ、ドランを発つんですかっ!?」

 エルランドさん、勢いよく立ち上がって叫んだ。

 勢いが良すぎて、座っていたイスが盛大に後ろに倒れている。

「馬鹿マスター、うるさいですよ。落ちつきなさい」

「お、落ちついてなんていられるわけないじゃないかっ。ムコーダさんがドランを去るんだよ!」

「何を言っているんですか。ムコーダさんは冒険者なのですから、何もおかしくはないじゃないですか」

 ウゴールさん、ごもっともです。

 冒険者は各地を転々としてるんだから。

「そ、それはそうだけど、もうちょっとこの街にいてもいいと思うんだ。……そうだっ! ムコーダさん、この街を拠点にしませんか? ドランはダンジョンもあるし、すごくいい街だと思うんです! ね、そう思うでしょっ」

 エルランドさんの言うとおり、この街は大きいしいい街だとは思うけど……。

「えーっと、今のところそのつもりはないですね」

 というか、さらさらないです。

「エェ~、そんなぁ。ド、ドラちゃんが遠くに……」

 エルランドさんがガックリと項垂れている。

 それからエルランドさん、本音が漏れてるからね。

「あーっと、そういうわけなんで、お世話になりました」

「ムコーダさん、またドランにいらしてくださいね」

「はい」

 …………とは返事したけど、この街はしばらくは来ないかな。

 誰がとは言わないけど、ちょっと面倒だし。

 何より当のドラちゃんがドン引きしてるんだもん。

「それでは、またいつかお会いしましょう」

 ウゴールさんにそう言って、ソッと部屋を出ると、中から「ドラちゃーーーんっ」と叫ぶ声が聞こえた。

 ギョッとした俺たちは足早に冒険者ギルドを後にした。

『ここのダンジョンは面白かったけど、しばらくはいいや……』

 ブルリと震えたドラちゃんがそうポツリと言った。

 激しすぎる愛は時に相手にトラウマを植え付けるもんなんだな。

 ちなみにだが、この間も今もスイは革鞄の中でグッスリだ。

『ところで次はどこに行くのだ?』

 次に行く街はもう決まっている。

 俺はフェルの疑問に答えた。

「次は、この国に来て最初に滞在した街、カレーリナに行くぞ」

『あの街か』

「期限にはちょっと早いけど、注文しているワイバーンの革のマントも取りに行かなくちゃならないしな。それに、ちょっと考えていることもあるし。明日は、朝1番に屋敷の鍵を商人ギルドに返したら、そのまま出発だからな」

『うむ』

『おう。さっさとこの街を出よう』

 

 翌日の早朝、俺たち一行はドランを発ち一路カレーリナへと向かった。






3月24日 コミカライズスタート

3月25日 2巻発売

よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 〉「ウゴール君だけズルい!」 子供か。 エルフって長命だから、その分精神年齢も年相応とはならないのかな? 300歳超えても、精神年齢は10歳くらい? いや、ダリスの方がしっかりしてたな。 エ…
> ボリューム満天 ボリューム満点なのでは?
[一言] 次はカレーリナと言うことは、勇者3人組と会いそうですね
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