第二百九十三話 レッドドラゴン実食
ドランで借りた屋敷のキッチン。
豪邸と言ってもいい屋敷の広々としたキッチンは、それに見合う豪華な設備を供えていた。
その豪華なキッチンにいる俺の前には、赤竜の肉の塊がデンッと置かれている。
夕飯に出す赤竜の肉だ。
赤竜の肉は、地竜に似た赤身の肉だった。
でも、こっちの方がより脂肪が少ない感じがする。
「やっぱり最初はこれだよな」
地竜のときもそうだったけど、ドラゴンの肉を最初に味わうならやっぱりドラゴンステーキだろう。
アイテムボックスから以前買った天日塩とミル付きブラックペッパーを取り出した。
そして、赤竜の肉をステーキ用に少し厚めに切っていく。
焼き方はいつも赤身肉ステーキを焼く方法と同じ。
フライパンに油をひいて強火で熱したら、焼く直前に赤竜の肉に塩胡椒を。
熱したフライパンに赤竜の肉を置くと、ジュゥゥゥッと肉の焼けるいい音がする。
それとともに、肉の焼けるいい匂いがキッチンに充満した。
「スゥーハァー、美味そうな匂いだな」
最初は強火その後弱火、裏返して同じように焼いたらその後は皿にとってアルミホイルをかぶせて寝かせて余熱で程よく中まで火が通ったところで出来上がりだ。
「やっぱステーキっていいよなぁ~、見るからに美味そう」
作り手の特権ということで、少し味見を。
モグモグ、モグモグ。
「うんまぁ~」
ドラゴンということで、地竜の肉に通じる美味さだ。
赤竜の肉の方が、若干ジビエみたいな野性味あふれる味わいかもしれない。
これはローストビーフみたいに大きな塊肉で焼いて食うのも美味いかも。
ローストドラゴンか、いいな。
ドラゴン肉の旨味の詰まった肉汁から作ったグレイビーソースをかけて……。
ゴクリ、このドラゴンステーキに負けず劣らずうまそうだな。
ハァ、それにしても赤竜の肉美味いな。
赤竜の肉は、見た目は赤身が多くて一見固そうに見えるのだが、そんなことはまったくない。
柔らかいが適度な噛み応えもあり、噛み締めるごとに旨味あふれる肉汁がジュワーっと口の中に広がる。
「もうちょっとだけ……」
そう思いつつ食っていたら、いつの間にか特大のドラゴンステーキの半分くらいなくなっていた。
「うおっ、美味いもんだからついつい食いすぎちゃったよ」
美味すぎるのがいけないね。
俺は、地竜の肉を食ったとき、今まで食った中で1番美味い肉かもしれないって思ったけど、それが揺らいだよ。
赤竜の肉も地竜の肉に匹敵するほど美味いんだもん。
どっちが美味いかは好みにもよるだろうけど、非常に甲乙つけ難いぞ。
というかドラゴンの肉って、みんなこんなに美味いのかね?
フェルたちには、次にドラゴンを見つけても攻撃されなければ放っておけっていったけど、その言葉を覆したくなるぜ。
ドラゴンの肉はそれくらい美味い。
赤竜の肉も地竜の肉もこんなに美味いってことは、ドラゴン種の肉は全て美味いんだろうと想像する。
そうなると、他のドラゴンの肉も味わってみたくなるってもんだ。
積極的に狩れとは言わないけど、狩りをしているときに見つけたら狩ってもらうのもありかなと思う。
ま、どのみちドラゴンなんてそうそう出遭わないだろうけどさ。
さて、そんなことを考えるのはあとにして、さっさとみんなのステーキを焼かないとな。
あんまりもたもたしてると、焦れてみんなしてキッチンに乗り込んできそうだし。
俺はフェルたちの分の赤竜のステーキを次々と焼いていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『うむ。久々に食ったが赤竜の肉は美味い。やはり焼いてあると一味違うな』
フェルがそう言いながら塩胡椒のみのシンプルなドラゴンステーキを味わっている。
『あの威張りくさったヤツも、肉になるとなかなかウメェな』
そう言って満足げに赤竜の肉を頬張るドラちゃん。
『ドラゴンのお肉おいしーね!』
スイもドラゴンステーキの美味さに興奮しているのか、体内に取り込みながらプルプル震えている。
広々としたリビングに陣取って、みんなで夕飯のドラゴンステーキにかぶりついていた。
「ほんと、美味いよなぁ。地竜の肉も美味かったけど、この赤竜の肉もそれに負けないくらい美味いぞ」
ドラゴンステーキを焼いているときに、味見としてけっこうな量食ったけど、俺はこの肉ならまだまだ食える。
今は玉ねぎ風味のステーキ醤油をかけて食っているぞ。
ドラゴン肉と醤油の相性は抜群だ。
塩胡椒だけのシンプルなドラゴンステーキも美味いが、ステーキ醤油をかけたドラゴンステーキはさらに美味い。
『ドラゴンの肉は我でも滅多に食えるものではないが、どれもなかなかに美味いのだぞ』
そうか。
やっぱりドラゴン種の肉は美味いのか。
「そう聞くと、この前は次にドラゴンを見つけても攻撃されなければ放っておけなんて言ったけど、狩ってもらってもいいかもな。ま、狩りのときに見つけたらだけど」
俺がそう言うと、フェルが大きく頷いた。
『うむ、それはいい考えだぞ。お主と出会ってから、運が良いことにこうして立て続けにドラゴンを狩ることができたが、普段はそうそう見つかるものではないからな。見つけたときに確保するというのはいい考えだと思うぞ。なにせドラゴンは美味いからな』
フェルもノリノリだな。
解体にはドランに来なきゃならないって手間はかかるけど、この美味さならそれも苦にならないかもしれない。
とは言っても、普段はそうそう見つからないって話だしね。
地竜と赤竜を立て続けに手に入れた俺たちは実はすこぶる幸運だったってことだな。
『おい、おかわりだ。次はあれをかけてくれ』
『俺もだ』
『スイもー』
はいはい、ステーキ醤油ね。
まずはにんにく風味ステーキ醤油だ。
フェルとドラちゃんとスイは、ドラゴンステーキを次々と平らげていった。
何だかんだで俺も分厚いステーキを2枚も平らげてしまった。
ドラゴンステーキ、美味過ぎる。
「ふぅ~、食った食った」
『うむ。腹いっぱいだ』
『俺もー。ちょっと食い過ぎちまったぜ』
『スイもお腹いっぱーい』
赤竜のドラゴンステーキをたらふく食って、今は食休み。
「あ、そうだ。みんなに言っておくことがあるんだ」
『ぬ、何だ?』
「実はな……」
フェルとドラちゃんとスイに、俺が創造神デミウルゴス様の加護をもらった経緯を話して聞かせた。
「…………というわけで、創造神様から加護をもらったんだよ。そんで、なんか寿命が1500年くらいに伸びた」
『おお、それは良かったではないか。我にとっても良い知らせだ。これで1500年は美味いものが食えるぞ! フハハハハ、人の一生は短いがそれも仕方がないとは思ってたが、1500年か。うむ、良い、良いな』
『ああ、これで1500年食いっぱぐれるどころか、美味い飯にありつけるぜ! その創造神とやらはいい仕事したぜ!』
『んと、ずーっとあるじと一緒にいれて、あるじの作るおいしいご飯もたべられるってことだよねー。やったやった! スイ、うれしい!』
なんだかみんなテンション高いんですけど。
というかさ……。
「みんな飯って言ってるけど、俺は1500年ずーっとみんなに飯を食わせなきゃならんのか?」
『何を言っている、当然だろう。我らはお主の従魔だ。主であるお主は従魔の我らに対して責任があるからな』
フェルさんや、何当たり前なことを言ってるんだって顔しないでよ。
ある程度は一緒に付いてきてくれるとは思ってたけど、さすがに1500年となると、フェルもドラちゃんもスイもそれぞれ寿命が長いとはいっても途中で飽きるんじゃないかなって思ってたんだけど。
今の話だと、みんなそんな気はサラサラないようだね。
ということは、1500年も長きにわたってみんなを食わせていかなきゃならんのか。
これだけ一緒にいれば当然情もあるし、これは運命だと思って受け入れないとダメかな。
大変かもしれないけど、ちょっと嬉しいかもしれない。
まぁ料理はしてやってもいいけど、材料もとい肉は各自調達だからな。
俺に、みんなの主食の肉を用意する力はないからね。(キッパリ)